スイングもパットも“水面に顔が映るような”気持ちで! 上田桃子やプロテスト最終に挑む千田萌花も実践するドリルとは?【四の五の言わず振り氣れ】
昨年でツアーから撤退した上田桃子やルーキー・六車日那乃などを輩出する「チーム辻村」を率いるプロコーチの辻村明志氏。緊迫感のある試合を見ていて思い出したことがあるという。
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試合を見ていて、緊張と重圧の中でプレーする選手の姿を見て、改めて思い出したのが故・荒川博先生の言葉でした。
「水面に顔が映るような気持ちでスイングしなさい!」
テークバックでクラブをクイッと上げたり、切り返しのタイミングが速くなったり、あるいは打ち急いで体が突っ込んだり……そんなときには、「水面が波立っているぞ!」と、檄を入れられたものでした。
明鏡止水という言葉があります。邪念がなく、心が澄み切って一点の曇りのない様子のことです。これも荒川先生の指導を受けるようになって、知った言葉でした。
ややもすると荒川先生の教えは、時代遅れの精神論とか、抽象的な概念と捉えられることがあります。ゴルフに限らず、数値に基づいた科学的な指導が主流となったスポーツ界ではなおさらです。ただ、ボクが思い出した先生の言葉は、単に「落ち着いてプレーしなさい」といった教訓にとどまらず、実はとても理にかなった、科学的で時代の最先端を走る教えのような気がしてならないのです。
ボクのチームには今、プロテストを控えた練習生がいます。そのひとりが千田萌花。当初は指導する予定はなかったのですが、断っても無視してもくじけることなく電話をよこし、結局、それに根負けする形で指導することになりました。その執念もまた、プロゴルファーに求められる資質のひとつです。
千田の課題はパットでした。パンチが入ったり、緩んだり。リズムが速くなったり、遅くなったり。それがヘッドの動きを不安定にし、フェース面が乱れる原因にもなり、やがて距離感の悪さとなり、さらには自信のなさと入れなきゃという焦り、入らないだろうという諦めが毎回違うストロークにつながる、という負の連鎖を引き起こしていたのです。パットの練習はよくしているのに上手くならない……読者の中にも、そんな悩みを抱えた方がいるかもしれません。そういうタイプの人は、そうした複雑な心理状況にあることを、まずは理解してください。
そこで千田にやらせたのが、ペットボトルを使った練習です。500mlのペットボトルに水を3分の1程度入れ、ボトルの口部分をどちらかの手の人差し指と中指で軽く挟み、それで振るというだけの練習です。
「ヘッドスピード≒ボール初速」。あらゆるショットの中で、パットはヘッドスピードとボール初速が最も近いショットです。この2つの数値を限りなく近づける、同じにすることがパット上達のカギでもあります。ちなみに「ボール初速>ヘッドスピード」はパンチ、反対に「ボール初速<ヘッドスピード」は緩み、というイメージで表せるのではないでしょうか。そしてこの2つが乖離したとき、ペットボトルの水が波立つのです。緊張した場面では、自分のリズム︱素振りのリズム︱で打てないことがあります。ボクが見る限り多くの場合、速くなるようです。当然、このときにはペットボトルの水は波立っています。
さて、荒川先生の早大野球部の後輩に元プロ野球選手・広岡達朗さんがいます。ヤクルトを初優勝に導き、西武を常勝軍団に育てた名将です。荒川先生と共に専門家から合氣道や剣術、呼吸法などの指導を受けて、荒川道場で心と技を磨きました。広岡さんは守備の名手として知られましたが、その著書の中に「お腹に半分ほど水が張ってあり、それがこぼれないようにプレーした」といった記述があったことを思い出しました。あの軽やかなステップやグラブさばきは、そうした意識から生まれていたのです。
これはゴルフのスイングやストロークにも通じることで、たとえばストローク中に左右上下に激しく動けば、お腹の中の水は暴れます。力みも打ち急ぎも同じです。ならばお腹に水を半分入れたイメージを抱いて、打ってみてはどうでしょうか。
■辻村明志
つじむら・はるゆき/1975年生まれ、福岡県出身。上田桃子、六車日那乃らのコーチを務め、プロを目指すアマチュアも教えている。読売ジャイアンツの打撃コーチとして王貞治に「一本足打法」を指導した荒川博氏に師事し、その練習法や考え方をゴルフの指導に取り入れている。元(はじめ)ビルコート所属。
※『アルバトロス・ビュー』873号より抜粋し、加筆・修正しています
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