殺し屋モキュメンタリー『最強殺し屋伝説国岡』シリーズ最新作が公開! 若き天才・阪元裕吾監督が語る野望と邦画の未来「映画監督は『楽しいし、食える』、そう伝えたいです」
ちょっとワルな空気も漂わす阪元裕吾監督
『ベイビーわるきゅーれ』(2021年)で映画ファンにその名を広く知られ、以後もアクションを主軸に数々のヒット作を生み出してきた阪元裕吾監督。彼が自身のライフワークとして定める殺し屋モキュメンタリー『最強殺し屋伝説国岡』シリーズの最新作『フレイムユニオン 最強殺し屋伝説国岡[私闘編]』(以下、『フレイムユニオン』)が、10月10日(金)より公開される。
『ベビわる』から約4年で感じた日本のアクション映画をめぐる環境の変化や現在の野望、そして『フレイムユニオン』の魅力まで阪元監督がじっくり語った!
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――2021年公開の『ベビわる』は人気シリーズになり、今年3月には自身初の漫画の実写化作品となる『ネムルバカ』も公開されました。監督を取り巻く状況は大きく変わったのではないでしょうか?
阪元裕吾(以下、阪元)自分のやりたいことが通じるようになりました。当時は上手に伝えられなくて。「こういうのを撮りたい」と話をしても、「何を言うてはるのキミは?」みたいな。
『ベビわる』の1作目も殺し屋アクションとゆるい日常ドラマの融合というコンセプトは、最初は通じない瞬間もあったのですが、主演の髙石あかりさんと伊澤彩織さんやスタッフの方も理解してくれて。すごく助けられましたね。
――「『ベビわる』っぽい」作品を作ってくれと言われたりするんですか?
阪元 ありましたね。でも、『ベビわる』は伊澤さんと髙石さんなしでは成立しませんから、それよりも新しいことをしようと考えました。たとえば『ネムルバカ』は『ベビわる』と同じふたり女の子が主役ですが、その関係が終わっていくまでの話なので、構造が『ベビわる』とは逆になっています。
来年、監督を務める放送予定のテレビドラマ『俺たちバッドバーバーズ』(テレビ東京)でも「どう『ベビわる』と差別化するか?」を工夫しています。最新作の『フレイムユニオン』でも、『ベビわる』だとできない、もっとコントっぽい"バカで話が進む"感じです。
「国岡」シリーズの3作目となる本作では、国岡(右)の相棒・真中(左)にスポットが当たる ©「フレイムユニオン 最強殺し屋伝説国岡[私闘編]」製作委員会
――監督は現在の邦画をどのように捉えていますか?
阪元 『ベビわる』を撮ったとき、これでアクション映画が増えるといいなと思ったんです。オリジナル企画で面白いアクション映画が、それこそハリウッドみたいに量産されるようになるのが理想だなって。
ただ、現実はうまくいかないですね。今年、面白い企画がたくさんあったホラー映画がうらやましいです。日本のアクション映画業界は、人材の流出が深刻でなかなか難しいところがありますが。
――人材の流出ですか?
阪元 日本のアクション人材は優秀だと海外で評判らしいんです。実際、アクション監督からスタントまで、軒並み海外作品に参加する中で、日本映画にアクション人材がいない時期があったんですよ。
今はまだ国内でもアクション映画を作れていますが、危機感はありますね。日本に優秀な人材がいることは間違いないので、「そういう人たちが活きる企画と脚本を書いていこうよ!」と思いますね。
――監督ご自身の内面に変化はありましたか?
阪元 今でも"欲求"で映画が撮れています。「やりたいね」「やろうよ」みたいな。ただ、以前のように時間をかけて映画を作ることができていなくて。
自分の中にある蓄積も、そろそろ使い尽くしそうな気がしているので、インプットのために今年は劇場で映画をいっぱい見ています。 そしたら「ホラーっていいなぁ」と(笑)。
――でも監督は過去にホラーテイストの『黄龍の村』も手掛けていますよね。今後はホラー映画を監督する可能性はあるのでしょうか?
阪元 やってみたいですね。あとはグロい映画も作りたいです。僕、実写版の『アイアムアヒーロー』(2016年)が直撃世代なんですよ。あれを見た次の年に映画を撮り始めたので、影響は大きいです。それに黒沢清監督の『CURE』(1997年)も。
実は薄っすらと先のことを話すと......『アイアムアヒーロー』と『CURE』と『ベビわる』を合わせたような映画を撮ろうと思っています。ジャンプ漫画的で、人がサクサク死んで、展開も早い。
――想像が難しい......。
若い世代のリアルな描写も評判の阪元監督だが、今後は「おじさんのリアルについて描いていきたい」と語る
――ご自身も周辺の環境も、さまざまな変化もあったようですが、一方で、監督の若者の「世知辛さ」への関心は一貫しているように思います。
阪元 それは今後も描いていきたいテーマですね。たとえば、これは知人から聞いたのですが、高校生の子が「お金がないから、カラオケのドリンクバーが頼めない」って言っていたと。高校生になんて悲しいことを言わせるんだと思いつつ、その話をヒントにセリフを思いつくこともあります。
ただ、僕はギリギリ20代なのですが、これからはおじさんの世知辛さも書けたら面白いと思っています。
――『フレイムユニオン』では、その片鱗が見えましたね。
阪元 主人公が「いつまでそんな感じで生きているつもりなの」と、おばあちゃんに詰められるシーンですね。そういう視点はあった方がいいと思いましたし、自分自身の「30歳になったからって何が変わるんだろう」という気持ちもあり、そういう所から『フレイムユニオン』のストーリーが生まれたというのはあります。
――ここまで過去から現在の話を聞かせてもらいましたので、次は今後の目標を教えてください。
阪元 野望で言うと、映画興行ランキングの上位に入りたいです。そしたら別の目標も実現できるかなと。
――それはどのような?
阪元 映画批評や自作解説をやりたいんです。でも、僕は映画監督ですから、この映画はイマイチという話をすると、「じゃあお前はどうなんだ?」と言われてしまう。そこをクリアするために結果を出したいですね。
そして「そもそも映画監督ってどういう人なの?」という疑問に答える人になりたいです。今は監督を目指している若い子たちの、参考になる人が少ないと思うんです。僕は映画監督には夢がないと言われてきた世代でもあるので、「楽しいよ、食えてるよ」と伝えたいです。
演者にも興味がありますね。僕が映画館でトークイベントをしたら、お客さんが来てくれるようになったらいいなと。後輩の映画の宣伝に参加して、お客さんを呼べたら、先輩としてカッコイイじゃないですか。監督をやりながら、批評もやって、演者もやって。出たがりなので。
『ベビわる』が公開された2021年の僕には、「5年後も、意外とやっていることは変わんないよ。楽しいよ」と言ってあげたいです。
2021年の阪元監督の写真
●阪元裕吾(さかもと・ゆうご)
1996年生まれ、大阪府出身。『ファミリー☆ウォーズ』(2018年)で長編商業映画デビュー。殺し屋女子ふたりのゆるい日常と最先端のアクションの組み合わせで話題を呼んだ『ベイビーわるきゅーれ』(2021年)が異例のヒットを記録。2024年にはシリーズ3作目となる『ベイビーわるきゅーれ ナイスデイズ』を公開した。ほか、サスペンスホラー&アクション『黄龍の村』(2021年)や、漫画原作の実写化で夢と現実に揺れる大学生たちのモラトリアムな青春を描いた『ネムルバカ』(2025年)など。ジャンレスな若い才能で今後の日本映画を担う存在として注目されている映画監督だ。
●『フレイムユニオン 最強殺し屋伝説国岡[私闘編]』
監督・脚本:阪元裕吾
アクション監督:垣内博貴
出演:松本卓也、伊能昌幸、上のしおり、大阪健太、Rio、沖田遊戯、藤澤アニキ
INTRODUCTION:"業界"にその名を轟かせるフリーの殺し屋、国岡昌幸(伊能昌幸)の日常を追ったモキュメンタリー『最強殺し屋伝説国岡』シリーズの最新作。国岡の相棒、真中卓也(松本卓也)は殺し屋として成果の出ず、酒に逃げる日々を過ごす。そんな中、大ミスにより真中は自身の父親から殺し屋からの引退を迫られる。あまり役には立っていない、しかし友達として放っておけない――国岡は真中にある提案をする。
10月10日(金)より池袋シネマ・ロサ、シネマート新宿ほか全国順次公開予定
取材・文/加藤よしき 撮影/榊 智朗
記事提供元:週プレNEWS
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