プロ野球CS展望 阪神&ソフトバンクを脅かす"不気味な難敵"
このまま順当に阪神とソフトバンクが日本シリーズへ突き進むのか?
レギュラーシーズンが終わり、いよいよポストシーズンが開幕するプロ野球。阪神とソフトバンクがそのまま順当に日本シリーズへと突き進むのか? はたまた、セ・パ共に下克上が起きるのか? 各球団の最新状況を踏まえて解説する。
※成績は9月30日時点
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■勢いはDeNA。虎の不安要素は?阪神とソフトバンク、結果的には開幕前の下馬評が高かった2球団がペナントレースを制した今季のプロ野球。しかし、昨季はDeNAがリーグ3位から下克上日本一を成し遂げたように、ポストシーズンで波乱が起こる可能性は十分にある。
「CS(クライマックスシリーズ)は1位球団が勝って当たり前、という制度設計だからこそ、1位の重圧も大きい。また、CSファイナルステージでは同じ相手と最大6連戦しますが、これは世界的に見ても珍しく、投手への負担が大きい。ここで苦しむと、その後の日本シリーズの戦いにも響きます」
こう語るのは現役投手を指導するピッチングデザイナーで、『週刊プレイボーイ』本誌おなじみの野球評論家・お股ニキ氏だ。そんな識者と共に、まずはセ・リーグのCSを展望していこう。
ファーストステージでは9月に球団月間最高勝率に迫る強さで2位に立ったDeNAと3位の巨人が激突する。
「モメンタム(勢い)の観点ではDeNAが全球団で抜けています。そもそも先発陣は充実し、打撃成績も得点数と本塁打数ではリーグ1位と駒はそろっている。筒香嘉智が8月、9月で13本塁打と好調な上、離脱していた牧 秀悟と宮﨑敏郎も復帰予定。昨季、下克上で勝ち上がった経験値もあります」
対する巨人は2位を長く維持しながら、最後の最後で3位に転落してしまった。
「打線は砂川リチャードと岡本和真以外は低調。投手陣は戸郷翔征の状態が最後まで上がらず、開幕から36イニング連続無失点と序盤に無双した山﨑伊織も疲れでキレは落ちている。井上温大も不調、赤星優志は右肩痛と先発陣がそろわず、田中将大がマウンドに立つ可能性もあります」
巨人の明るい材料は今季のDeNA戦で15勝9敗と勝ち越している点。中でも山﨑は4勝1敗とお得意さまだ。
3年連続2桁勝利の巨人・山﨑。得意とするDeNAを相手に今季は7度登板したが、シーズン後半は打ち込まれる試合も増えた
「超短期決戦のファーストステージは3位球団が勢いで勝つパターンも多く、DeNAキラーの山﨑で勝てるかどうか。ただ、山﨑は今季すでにDeNA戦に7度も登板。5度目は4回6失点、7度目は3回4失点と炎上していますので、かなり研究されているかもしれません」
阪神から見て、どちらが勝ち上がると嫌な相手なのか。
「圧倒的にDeNAです。そもそも巨人はここ数年、西日本でなかなか勝てず、今季も甲子園は4勝8敗。一方、DeNAは甲子園で4勝5敗。さらに、投手も阪神が苦手にするタイプが何人もいます」
その代表格として、防御率1点台のアンソニー・ケイと、9月20日の甲子園での阪神戦で7回1失点と好投した新人右腕、竹田 祐の名前が挙がる。
球団歴代最高となる防御率1.74を記録したDeNA・ケイ。今季は阪神戦に8度登板してすべてQSを達成し、防御率0.85と抑え込んだ
「阪神打線は竹田のような上手投げから力強いストレートとフォークを駆使するタイプ、ケイのように低いアングルから速いストレートとスライダーを駆使する左腕が苦手。今季のケイは阪神戦に8度登板して1勝2敗と負け越しているものの、防御率は0.85と相手打線を抑え込んでいます」
藤浪晋太郎が古巣相手にどんな投球をするかも注目だ。
今季は5番打者として、伸び盛りの森下翔太、佐藤輝明を支えた阪神・大山。9月は5本塁打を放つなど調子も上向きに
「藤浪は制球が安定しているかどうかはその日次第で、どちらにも転ぶ〝飛び道具〟なだけに、甲子園で森下翔太や大山悠輔ら右打者との対戦は見ものです。
あとは、上半身のコンディション不良を訴えているエース、東 克樹の状態が気になります。東を巨人に当てるのか、その先まで温存するのか。今季限りでの退任が決まった三浦大輔監督の采配にも注目です」
迎え撃つ阪神は、投手陣を中心に不安材料もあるという。
「村上頌樹、才木浩人、大竹耕太郎が9月末、立て続けに打球が直撃するアクシデントに見舞われたのが運気的にも気がかりです。さらに、グラント・ハートウィグが故障、ジョン・デュプランティエも2ヵ月近く投げていません」
もっとも、早すぎた優勝決定のおかげでリフレッシュ期間が取れたことも間違いない。
「9月は勝率がほぼ5割。モメンタムという意味でDeNAとは好対照です。それでも、8月に不調だった近本光司の状態が上がり、チームプレーに徹していた大山に本塁打が増えるなど、CSに向けて明るい材料もある。救援陣も休ませながらリフレッシュできた。DeNAの好調ぶりは不気味ですが、本来の力を出せば阪神優勢は揺るぎません」
■互角の2位、3位。「微差」に秀でる鷹一方のパ・リーグでは、CSファーストステージで2位の日本ハムと3位のオリックスが激突。レギュラーシーズン戦績は12勝12敗1分けとまったくの互角だ。
9月27日の楽天戦で388日ぶりに白星を挙げたオリックス・山下。CSに向け、剛腕が完全復活した
「オリックスは今季、春先から打撃はいいのに、投手陣がピリッとしない状況が続きました。しかし、今は山下舜平大が復調してカーブとフォークが非常にいい。エースの宮城大弥は勝ちきるピッチングこそできていないが、投げている球は一級品。九里亜蓮もスプリットチェンジを武器に日本ハムから今季4勝をマーク。この先発3枚を並べられたら、日本ハムは苦戦しそうです」
先発だけでなく、中継ぎもここにきていい状態だという。
「春先に不調だった山﨑颯一郎の球速が戻ってきて、育成出身の才木海翔が台頭。さらに、故障前から天才的なピッチングを見せていた椋木 蓮が復調し、トレードで移籍してきた岩嵜 翔が160キロを連発。相当手ごわい救援陣になっています。むしろ、懸念は野手陣。首位打者争いをしていた西川龍馬が骨折し、少なくともCSには出られそうにありません」
対する日本ハムの状態はどうか。
「今季は先発完投が多いと話題になったものの、裏を返せば中継ぎが育たなかったということ。エースの伊藤大海、防御率1点台の北山亘基がどこまで踏ん張れるか。CSの秘密兵器として期待されていた古林睿煬が再故障してしまったため、先発3枚目として21歳の達 孝太に期待したいところです」
日本ハム打線といえば両リーグ最多の本塁打数を誇る一発攻勢が魅力だ。ただ、その野手陣にも故障者が多い。
「本塁打と打点の2冠王が確実となっているフランミル・レイエス、そして、万波中正がシーズン終盤に欠場。大事を取っただけでしょうが、どれだけ万全の状態で臨めるか。明るい材料は清宮幸太郎の調子がいいということくらいです」
1点の重みが増すCSでは、「どこでも守れるユーティリティ選手が多い」という日本ハムの武器がマイナスに働く可能性もあるという。
「例えば、捕手が本職の郡司裕也はサードの守備で逆シングルを選ぶべき打球でも、捕手らしく正面で捕ろうとしてミスにつながることも。日本ハムを見ていると『微差は大差』と痛感します」
その「微差」の積み重ねで優勝したのがソフトバンクだ。
「今季は主力の不調やケガが多く、投手ではカーター・スチュワート・ジュニア、ロベルト・オスナらが不在。野手では柳田悠岐、近藤健介、今宮健太、栗原陵矢ら経験豊富な選手たちが相次いで欠場したが、5月以降の強さは神懸かっていた。
その要因は中村 晃、柳町 達、野村 勇、牧原大成、川瀬 晃ら、開幕当初は控えだった選手たちが攻守で質の高いプレーを見せたからです」
柳町と牧原に至っては首位打者争いをするほど、今やチームに欠かせない存在だ。
「かつての川島慶三のように、ソフトバンクは代々この系譜の選手がいる。競争が激しいからこそ、『自分はどんな働きで貢献できるのか』と考える選手が出てくるのでしょう」
懸念があるとすれば、モメンタムが9月中旬で途切れていないか、という点。優勝直前には4月以来の本拠地4連敗を喫し、ファンをヤキモキさせた。
「その苦しい状況で柳田が復帰したのは好材料。1番・柳田、2番・近藤の強力布陣で打線は力強さを増しています。ただ、近藤は腰に不安を抱えるだけに、コンディション維持は重要な課題です」
昨季はポストシーズンに向けて中継ぎ陣が崩れ、日本シリーズで本来の力を出し切れなかった。同じ轍は踏まないのか。
今季のソフトバンクが試合終盤になるほど強さを発揮できた要因でもある、中継ぎの藤井皓哉と松本裕樹、抑えの杉山一樹による「樹木トリオ」の存在はCSでも不可欠だ。
「今季は藤井が驚異的な奪三振率で相手打線を沈黙させ、松本は最優秀中継ぎ賞、杉山はシーズン途中から抑えを務めたにもかかわらず30セーブ超。この3人の傑出度は球史に残るレベルだと思います。
優勝直前には松本 裕も杉山も打たれるなどやや疲れはありそうですし、藤井が腰痛で遠征を回避したのは少し不安材料ですが、昨季のようなリリーフ総崩れとなる前に大事を取ったのでしょう」
そんなソフトバンクがファイナルで戦いたくないのはどちらなのか?
「どちらかといえばオリックス。シーズン終盤に4連敗しています。先発の有原航平や上沢直之、杉山ら日本ハム打線が苦手なフォーク投手が充実しているのは強みです」
■捕手力の差がチーム浮沈の鍵短期決戦では捕手が重要、とは昔からいわれてきたこと。今季CSに臨む6球団はそれぞれ捕手に注目すべき点が多いという。
「投高打低の今の時代、いかに失点を防ぐかは重要な要素であり、捕手の果たすべき役割は非常に大きい。その意味で、守備力が高く、配球にも優れ、投手の良さを引き出すタイプである坂本誠志郎の阪神、海野隆司のソフトバンクがセ・パを制したのは象徴的です」
正捕手として2年ぶりのリーグ優勝に貢献した阪神・坂本。多くの指標でキャリアハイを記録するなど打撃面でも成長した
今季からスタメンマスクをかぶったソフトバンク・海野。卓越したリードで投手陣を引っ張り、リーグ優勝に貢献した
今季開幕時、「巨人に移籍した甲斐拓也の穴が埋まるのか」と不安視されたソフトバンク。だが、ふたを開けてみれば海野が補って余りある活躍を見せ、甲斐は指の骨折で長期離脱と、明暗が分かれるカタチとなった。
「甲斐不在の巨人は今、岸田行倫が正捕手を務めています。打撃での良さはありつつも、配球面や守備力でいえば小林誠司こそ球界屈指の存在。大事な短期決戦では、小林もうまく生かしたいところです」
一方、配球に課題を抱えるのが日本ハムの主戦捕手、田宮裕涼だ。
今季は一時打撃不振で2軍降格するも、1軍復帰後は主戦捕手としてプレーした日本ハム・田宮。守備面でのさらなる成長に期待
「田宮の配球はパターンが固定化されていて打者からすると読みやすい。打撃に優れ、肩も強く、外野手で出ても活躍できるポテンシャルはあるだけに、使いどころが悩ましい選手でもあります」
シーズン終盤に調子を上げたDeNAとオリックスも捕手の存在が大きいという。
パ・リーグを代表する捕手のオリックス・若月。打者の裏をかく配球に加え、強肩も魅力。短期決戦での存在感も抜群だ
「オリックスの若月健矢は、坂本や海野と並んで配球に優れた選手です。一方のDeNAは主戦捕手の山本祐大、若い松尾汐恩、ベテランの戸柱恭孝と、捕手の層の厚さでは球界トップクラス。昨季ポストシーズンでは戸柱が攻守で活躍しただけに今季も注目です」
優勝チームが順当に勝ち上がるのか。2年連続の下克上はあるか。今年のプロ野球もいよいよクライマックスだ。
文/オグマナオト 写真/時事通信社
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