SNSで画像を共有・品評していた教師グループが次々逮捕! エスカレートする「学校盗撮」の最新実態
兵庫県警が押収した校内盗撮で用いられた小型カメラの仕込まれたハンガー。矢印はレンズのある穴を指している
児童の健全な人格形成を担うはずの教員によるおぞましい盗撮事件が社会を震撼させている。子供たちを性的対象に定め、役得とばかりに学校現場でそのあられもない姿を画像に収める盗撮犯たち。聖職者が"性職者"へと堕ちた背景を探った。
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■アプリ開発国に捜査協力を要請教師による一連の盗撮事件は端緒から常軌を逸していた。愛知県警は3月、駅のホームで少女のリュックサックに体液をかけたとして、器物損壊容疑で名古屋市立小学校の教員だった水藤翔太被告(34歳)を逮捕した。余罪捜査で、同被告が校内で児童の給食や、リコーダーにも体液を付着させていたことが発覚する。
そして、6月24日に事件は急展開を迎える。水藤被告の携帯電話を解析した結果、学校で盗撮した画像や動画を共有するSNSのチャットグループに参加していることが判明。
ここから捜査が進み、女子児童の下着姿などを撮影して同グループに投稿したとして、性的姿態撮影処罰法違反の疑いで、名古屋市立小学校教員の森山勇二(42歳)と横浜市立小学校教員の小瀬村史也(37歳)の両被告が逮捕されたのだ。全国紙社会部デスクが解説する。
「このグループは10人程度で、犯行時はいずれも小中学校の現役の教員。一連の事件でこれまでに5人が逮捕されました。
彼らは『エレメント』と呼ばれるNATO軍なども使用する秘匿性の高い通信アプリのチャットグループ上で、盗撮した女子児童の性的な画像をお互いに披露。さながら品評会のように『いいですね~』『うらやましいです』などといったやりとりを繰り広げていました。
主犯格は森山被告とされ、SNS上で盗撮画像をアップしていた同好の教員を集めて、1年ほど前にチャットグループを開設したとみられます。グループでは、『同じ教員なら秘密が守れて安心』などと開き直っていました」
事件が及ぼした影響は大きく、名古屋市教育委員会は1万2000人の学校関係者へのヒアリングを実施し、教室内への私有スマホの持ち込みを禁じた。愛知県警は、生活安全部の事件としては異例の捜査本部を立ち上げ、捜査に力を入れる。
「被害者は延べ25人以上になりますが、起訴状では犯行の場所を『学校内』とすら記載しないほど、個人の特定につながらないように配慮しています。全容解明に向けて、県警はエレメントの開発国であるイギリス当局に情報開示を求める方針で、捜査に対する士気は非常に高いです」
名古屋市立の小学校で教員をしていた森山被告がグループを立ち上げ、同じく名古屋市教員の水藤被告、横浜市教員の小瀬村被告らが参加。ほかの容疑者は北海道の教員と、盗撮教師のネットワークはSNSを通して全国に広がっていた
人間の尊厳を修復不能にまで損ないかねない盗撮行為。その危険性とは裏腹に、街中では公然と盗撮機器が販売されている。実際にそのような機器を販売している店内に足を運ぶと「パワハラ、セクハラ、不倫、レジ金盗難の被害に対する証拠保全」など、その〝意義〟を強調するポップが目に飛び込んでくるが......。
ショーケースには、ハンガーや眼鏡、万年筆、USBメモリー、コーヒーカップなど、日常生活でありふれた物品が並び、そのどこかに目視ではわからないほど小型のレンズが仕込まれている。価格は1万円台からで購入しやすい。
さらに機能も進化している。暗い場所でも鮮明に撮影できる暗視補正。人間の動きにだけ反応して撮影するため、メモリー消費が節約されて長時間撮影に向く動体検知。また、4K高画質で撮影ができる商品もあり、高機能化が盗撮を後押ししている現状が垣間見える。
防犯教育に取り組むNPO法人「体験型安全教育支援機構」の代表で、犯罪行動分析を専門とする清永奈穂氏が注意を呼びかける。
「盗撮機器は設置型と持ち運び型に分かれます。設置型は更衣室や教室、そして特にトイレの汚物入れに設置されがち。盗撮犯は股間を撮るために上向きのアングルにしたがるので、目線よりも下に不審物がないかを確認してもらいたいです。
持ち運び型はペンや腕時計などに偽装されて、見抜くのが難しい。また撮影画像の記録でも、SDカードなのか電波で飛ばすのかなどで違いますし、電源についても電池型やコンセント型など、ハイテク化によって盗撮機材は多岐にわたっています。
また、機器による盗撮だけでなく、最近は対象者のスマートフォンに遠隔操作アプリを仕込む手口も目立ちます。犯人がアプリを遠隔で操作し、カメラやマイク機能を強制作動させることで盗撮や盗聴が可能になるものです。
しかも、ホーム画面にアイコンが表示されないので気づきにくいのが特徴。設定画面のアプリ一覧を定期的にチェックして不審なアプリを削除したり、スマホのロックをかけずに放置しないという対策が必要です」
清永氏は、学校という環境の特殊性にも着目する。
「教員は日々児童と接しているので、ターゲットに接近しやすい。また、教員という立場を利用することで警戒心を持たれることなく撮影ができます。
さらに低学年だと体育やプールでの着替えが苦手な子供がいて、男性であっても教員が付き添う学校もあるので、裸の相手に立ち会う機会が多い。そのため、もし子供に不審がられても言い逃れがしやすい。悪意を持てば、学校ではいくらでもわいせつな撮影ができてしまうのです」
一連の事件では盗撮だけでなく、通り魔的に体液をかけるなどの女児へのわいせつ行為でも立件されており、教員たちの目を覆うほどの「モラルハザード」が改めて白日の下にさらされた。
「教員という職業は、今年5月の東京・立川での小学校襲撃事件に象徴されるようなモンスターペアレントへの対応や、同僚教員からの監視の目、言うことを聞かない子供の世話などから、ストレスがたまりやすい。
また、学校から求められるのは『教育者』というよりマニュアルに徹した『ティーチングマシン』で、子供相手の平凡な商売だと教員が意欲を喪失してしまうケースが多い。これらが原因で退職した人の欠員補充を急ぐあまり、わいせつ事案で処分歴のある教員が別の教育委員会で採用されることもあります」
その上で清永氏は、児童の性の芽生えの低年齢化が及ぼす影響も指摘する。
「トー横キッズの中で、11歳の少女が売春していたという報道がありました。こういうニュースに接した教員が妄想を膨張させ、幼い小学生でも性的対象になると錯覚し、盗撮することも考えられます。スマホやタブレットを使い慣れた児童による盗撮も、今後気がかりです」
■ドーパミンを求めて盗撮を繰り返す常習者盗撮行為に走る教員たちについて、犯罪心理学を専門とする筑波大学の原田隆之教授はこう分析する。
「彼らは、日常では見られない性的な姿態を観察することに興奮を覚える『パラフィリア症』だと言えます。中でも、『窃視症』と『小児性愛症』のふたつが重なったタイプと言えます。今回の教員たちのように、盗撮犯は大卒など高学歴で定職に就いている人が多いのも特徴です」
半ば依存症のようにのめり込んでいく盗撮犯の心理状態について、次のように説く。
「盗撮は慣れていても毎回うまく撮れるものではない。たまに成功するからこそ興奮し、脳内快楽物質であるドーパミンが大量に分泌される。ギャンブルと同じです。何度も繰り返すうちに脳がさらなる刺激を求めるようになり、本人の意思ではやめられなくなるのです。いわば脳の機能不全とも言えるでしょう」
今回の事件に象徴されるように、SNSを媒介とした盗撮の過激化を原田教授は危惧する。
「盗撮はかつてはひとりでこっそり楽しむ人がほとんどだったのですが、SNSで同じ趣味の仲間が簡単に集うことができるようになった。犯罪心理学では複数犯になると犯行がエスカレートするとされていて、今回の教員たちも『より良い写真を』という心理が働いたことでしょう。
警察庁の統計では、盗撮の検挙件数は例年では年間4000~6000件程度で推移していたのに、昨年は8000件を超えて過去最多となり、性犯罪全体でも痴漢の件数を超えました」
原田教授は再犯防止への有効策として、心理学に基づいた治療法を挙げる。
「私が開発に携わった認知行動療法による再犯防止プログラムは全国の刑務所に導入され、再犯防止に一定の効果が示されています。また、私が民間のクリニックで導入したプログラムでも、1年間の性犯罪の再犯率が4%に減ったというデータがあります。
具体的には、盗撮であれば衝動が起きる場所をリストアップしてもらい、そこには近づかないように行動してもらう。盗撮が多いのは混雑する駅構内ですが、ラッシュアワーを避けたり、あえて乗降客の少ない駅を利用するといった具合です。盗撮犯は物色に数時間かけたりするので、家族に一日の行動を事前に伝えるだけでも効果はあります。
結局、教員は気高い心を持っているのだから悪い人はいないという性善説で、これまで学校の防犯体制はぬるかった。しかし、一定数は不届き者がいるという意識を持ち、盗撮が起きやすいトイレや更衣室付近の廊下に監視カメラを設置するなどして、物理的に犯行を起こさせない制度設計が必要です」
学校を〝盗撮天国〟にさせないための大改造が迫られている。
取材・文/武田和泉 写真/共同通信社
記事提供元:週プレNEWS
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