妖しい白塗りメイクで激しく踊る! 又吉直樹も注目する見世物小屋的ロックンロールバンド・フーテン族「俺が思うカッコイイを世の中に分からせたい!」
インディーズ界隈で今最も勢いのある五人組ロックンロールバンド・フーテン族。白塗り&長髪の妖しい出立ちで、なまめかしく歌い上げるボーカルの強烈な存在感に目を奪われるが、その後ろで黙々と重厚感のあるサウンドを奏でるバンド全体の雰囲気は、村八分やジャックスなど、70年代のニュー・ロックの匂いが漂う。
日本各地のライブハウスに立ち、定期的に開催しているワンマンライブのチケットはたちまちソールドアウト。ピースの又吉直樹や憂歌団の内田勘太郎、OKAMOTO'Sのオカモトレイジらが注目していることでも話題だ。
10月24日(金)には、新宿LOFTで過去最大規模のワンマンライブ「おどり」の開催を予定しており、11月5日(水)には実況録音盤(ライブ盤)『セミ』『ワルツ』の2タイトルが同時リリースされる。そこで今回、メンバーの山下大輝(Vo)、髙田勘吉(Gt)、藤野真之介(Dr)、小野寺だいき(Ba)、小杉宗太郎(Gt)に直撃! 謎に包まれた彼らの素性に迫った。
■白塗りのイメージは大野一雄!――早速ですが、バンド名が気になります。「フーテン族」って、1960年代の新宿を中心に実在した、ヒッピーを模倣した若者たちのことですよね?
山下 そうです。バンド名は僕が決めました。「〇〇族」って、なんだか響きがカッコいいじゃないですか。みゆき族、竹の子族、カラス族......と「族」にも色々あるけど、実際のフーテン族は、反体制を唱えるアメリカのヒッピーの真似をして、仕事や学校を拒否してフラフラしているだけ。そのテキトーな姿が自分たちにスゴく似てると思ったんですよね。60年代~70年代頃の文化が好きなこともあり、バンド名にしました。
――長髪に、サングラスに、草履。まさに皆さん、当時フーテン族と呼ばれていた若者のような見てくれですよね(笑)。何度かライブも拝見しましたが、山下さんは白塗りで登場。白目を剥いて、妖しく微笑んで、大きく身体を動かすパフォーマンスはかなり強烈でした。
山下 どんな対バンでも常に圧勝するつもりでパフォーマンスしているので、そう言ってもらえて嬉しいです。白塗りは、暗黒舞踏の大野一雄をイメージしています。舞踏のテンポ感とは全然違うけど、たくさん映像を見て家で練習したこともあるから、動きにもその片鱗が出ているかもしれません(笑)。
――この令和の時代に、大野一雄って! マラカスやタンバリン、ラトル(ガラガラのおもちゃ)など、小物を使った演奏も特徴的です。
山下 ガラガラのおもちゃも、実は大野一雄の影響なんですよ。厳密には息子の慶人さんが「花鳥風月」という有名な演目でガラガラを使っているのを見て、いいなと思ったんです。実家に帰った時に探して、塗装しました。
――当時のモノが残っていたんですね!
山下 そうなんです。僕がベイビーの時に親が使っていたやつです(笑)。
――フーテン族のライブは基本的にMCがなく、ノンストップのメドレー形式で楽曲を繋いでいくスタイルですよね。対バンで初めてパフォーマンスを見た時、自己紹介もせず激しい演奏だけしてはけていくので、呆気に取られた感じがありました。
山下 MCをやらないのは、僕自身が好きなアーティストのMCでグッときたことがないからです。結成当初はMCを挟んだ時期もあったのですが、全力でパフォーマンスをやり切るほうが自分の理想に近く、手応えも感じられたので、今のスタイルに落ち着きました。
あと、DJが曲を繋いでいく感じが好きなんです。それを生音でやったらカッコいいかなって。ライブでは、他のメンバーがジャム(即興)で繋いでくれるので、僕も臨場感があって楽しいです。
左から、小野寺だいき(Ba)、藤野真之介(Dr)、山下大輝(Vo)、小杉宗太郎(Gt)、髙田勘吉(Gt)
――ますます皆さんのことが気になってきました。改めて、結成の経緯を聞かせてください。
山下 大学3、4年生の頃、コロナ禍で家に閉じ込められていた時に、猛烈にバンドを組みたくなったんです。僕自身、その時点で音楽活動の経験はゼロ。ただ、小学生の時に買ったきり飾り物になっていたアコギを取り出し、簡単なコードを4つ覚えたら、"何か"やれそうな気がして。勢いで高円寺のライブハウスに直談判し、弾き語りでステージに立ちました。それが全ての始まりです。一度ステージに立ったら、ますますバンドへの憧れが強くなり、地元の宮城でバンド活動をしていた藤野(Dr)と勘吉(Gt)が上京するというので、声をかけました。二人は中学からの同級生なんです。
――そうだったんですね。ずっと仲が良いんですか?
勘吉 僕と藤野は保育園から一緒です。上京前は別々のバンドを組んでいたのですが、中学生の時に、山下も入れて、3人でバンドっぽいことはやっていました。数回、スタジオに入ったくらいですけど......。
山下 そういえば、やったね。ニルヴァーナのコピーバンド。
――まさかのニルヴァーナ!
山下 当時はニルヴァーナとかレッチリ(レッド・ホット・チリ・ペッパーズ)が好きだったんです。ただ、声変わりの途中で声が出なくて、さらに僕は馬術部で強制的に坊主にさせられていたので、ヴィジュアル的にもしっくり来なくて(笑)。一瞬で辞めて、普通にスケボーとかで遊んでいましたね。それでも感性が近い三人だったので、音楽の話はよくしていました。教室では、ちょっと浮いていたと思うけど。
髙田勘吉(Gt)
藤野真之介(Dr)
――小野寺さん(Ba)と小杉さん(Gt)はどのような経緯で?
小杉 僕は、たまたま下北沢の古着屋へ行った時に、店員として働いていた山下くんに出会いました。親の影響で幼少期からザ・フーやローリング・ストーンズを聴いて育ったのですが、緑のベルボトムを履いている山下くんを見て、何だか自分と似たようなヤツがいるなって。
山下 お互いに無言で見つめあったよね(笑)。その出会いから1年後、たまたま共通の知り合いがいて、高円寺の飲み会で再会しました。ちょうど僕がバンドをやりたくて仕方ない時期だったので、迷わず誘いました。
小杉 もともとパンクバンドを組んでいたんですが、ちょうど解散してフラフラしていたので。タイミングが良かったです。
山下 小野寺は地元が岩手で、上京前からやたらと勘吉の家に居候していたんだよね。
勘吉 もともと共通の友達がいて。「電気停まったから充電させて」みたいな感じで、僕の家によく来ていたんです。勝手に僕の大学に付いてきたこともありました(笑)。
小野寺 居候って......遊びに行ってただけだよ! で、勘吉と藤野が上京する時に、僕も上京したんです。「音楽やるぞ!」って、1万円を握りしめて。小山田壮平さんが大好きで、当時は弾き語りをやるつもりでした。でも気づいたら、部屋にこもってゲームばかりやっていて(笑)。
山下 みんなでスタジオ練習していたら、酔っ払ったコイツ(小野寺)が勝手に来ちゃったんです。ちょうどサポートで入っていたベースの子が辞めてしまったタイミングだったので、やらせてみることにしました。ベースは未経験だったらしいけど、意外といけるんじゃね? って。
小杉宗太郎(Gt)
小野寺だいき(Ba)
――山下さんを中心に、タイミング良く五人が集結したんですね。
小野寺 でも、最初は1年だけのお試しバンドって感じだったよね。山下が海外に行くかもしれないからって。
山下 そうだ。そんなことも言ってたわ(笑)。先ほどもチラッと話しましたが、僕、9歳から馬術を習っていて。コロナ禍が落ち着いたら、中国で馬の先生になる道も考えていたんですよ。ただ、バンドをやっていくうちに、俺らみたいなヤツら他にはいないなって。それだけで続ける価値を感じたというか。中国はいつでも行けるし、優先すべきはコッチだなって思ったんです。
――結成から約1年後の2022年5月には、自主制作盤アルバム『フーテン族の世界』を発表されます。なかなか早いペースに感じますが、こちらはどのような経緯で制作することに?
山下 僕の中では、わりと早い段階で「1周年でファーストアルバムを作ろう」と決めていました。活動を早くカタチにしたかったんです。アルバムって、バンドの名刺のようなものじゃないですか。思いつく限り曲を作って、手探りで完成させました。改めて聞くと拙くて恥ずかしいです。それも記録だからいいけど、自分では最近あまり聞いてないです(笑)。
――まさに"フーテン族の世界"が詰まっているアルバムだと感じました。劇場の開演ブザーのような音から始まり、ブルージーだったり、激しいロックだったり、緩急予測できない楽曲が続き、弾き語りで幕を閉じる。手探りとはいえ、完成度が高いと思います。
山下 ありがとうございます。タイトルからピンと来る方も多いと思いますが『ジャックスの世界』や『浅川マキの世界』という大好きなアルバムから影響を受けた部分は大きいです。コンセプトアルバムというほどではないけど、背景にお話があるようなアルバムにしたかったというか。とはいえ出来た曲を集めて作ったアルバムなので、一貫性を意識して作ったわけではないです。
――曲作りは山下さんを中心に?
山下 歌詞は全て僕が書いています。ただ僕は楽器がほとんど出来ないので、頭の中にあるメロディを鼻歌で録音したり、イメージに近い楽曲をリファレンスとして共有したりして、作曲はみんなにサポートしてもらっています。僕は70年代の日本のロックが好きだけど、例えば小杉はローリング・ストーンズが超好きだったり、藤野はもともとファンクっぽいバンドをやっていたり、絶妙に得意分野が違うので、色んな要素が混ぜ合わさった感じになっていると思います。
――歌詞に着目すると、否定的な言葉が多い印象です。"犬"や"子供"が登場する歌が多けど、一貫して、それらを遠ざけているような。
山下 肯定的な歌は世の中に溢れていますから、わざわざ僕が言うことじゃないかなって。そもそも世の中には「おかしいだろ」と思うことが多すぎる気がするんです。"犬"や"子供"はヨシヨシして愛でなきゃいけないと決めつけて疑わない感じとか、絶対おかしいじゃないですか。僕はどちらも好きだけど、好きじゃない人がいても、「あっちへ行け」と思う人がいてもいいと思うんです。
――現代や世の中の風潮に対して反発心がある、ということでしょうか?
山下 特に、地元への反発心ですかね。今でこそ高円寺で似たような感性の連中に出会うことができるけど、地元では、男がロン毛なんて有り得なかったし、ヤンキーファッションかモテファッションしかオシャレがなかった。古着が好きなだけで「奇を衒(てら)ってる」と思われるのも違和感でした。中でも、ヤンキーの雄(オス)っぽさに対する嫌悪感が強くて。馬術部で坊主にさせられていた反動もあり、大学進学を機に上京した後、すぐに髪を伸ばし始めました。
ただ、男らしさを捨てたいわけではないんです。逆に最近はナヨナヨした男が多い印象があるからこそ、誰よりも男らしくありたい気持ちもあります。以前、アラーキー(写真家・荒木経惟)の本で「中性的じゃなく、両性的でありたい」といったふうなことが書かれてあるのを読んで、めちゃくちゃ共感しました。どちらの要素も兼ね備えた人間になりたいんですよね。
――男に生まれたから男らしく、女に生まれたから女らしくする必要はないし、その逆になる必要もない。
山下 そうですね。このようにイヤなものの逆をいく中で、敬愛する文化や価値観に出会えた自負があります。フーテン族の活動を通して「俺が思うカッコイイを世の中に分からせたい!」と思っています。
――最高です。
山下 思えば、その原点は又吉(直樹)さんでした。周りに理解されなくても自身のファッションを貫いている姿がカッコいいなって。又吉さんの活躍を見るたびに、俺は絶対に間違ってない! と思えたんですよね。
――又吉さんといえば、YouTubeチャンネル(「ピース又吉直樹【渦】公式チャンネル」)でフーテン族の皆さんを取り上げていましたよね。それこそ自主制作盤を発表された直後くらいに、偶然、高円寺で出会ったとか。
山下 そうなんです。超大好きな人だったし、たまたま手元に完成したばかりの自主制作盤があったので、ダッシュして追いかけて、手渡しさせていただきました。その後、又吉さんのライブの出囃子に曲を使っていただき、僕らのライブも見に来てくださって。アルバムが全国流通する際にはコメントも寄せていただいたんですよね。ありがたいです。とはいえ、手元にアルバムがなかったら、それほど興味を持ってもらえなかったかもしれない......。全て結果論とはいえ、急いで作って本当に良かったです。
山下大輝(Vo)
――超強力な理解者が既にいらっしゃるわけです。山下さんが、フーテン族が表現するイカした世界。絶対に、もっと多くの人々に届くと思います。
山下 10月24日に新宿Loftでワンマンライブ「おどり」を開催します。それ以外にも、定期的にライブハウスに出させてもらっているので、少しでも気になる人は全員見にきてもらいたいですね。最近は、地元のほうのライブハウスにも呼んでもらえるようになって結構忙しいんですけど、全然稼げてないんですよ! 来年中には全員バイトを辞めて、バンドだけで飯を食えるくらい売れたいですね。
小野寺 一人、既に辞めてる人がいるけど......(勘吉さんを見て)。
山下 あ、そうだ。コイツは最近バイトをクビになったんだった(笑)。
●フーテン族
2021年に高円寺で結成された五人組ロックンロールバンド。強烈なヴィジュアルと独自の音楽性で、東京のライブハウスを中心に存在感を放つ。11月5日(水)には実況録音盤(ライブ盤)『セミ』『ワルツ』が同時リリース。ライブに来られない方も、是非こちらでフーテン族の世界を堪能してほしい。
公式Twitter【@futenzoku】
公式Instagram【@futenzoku】
■タイトル:実況録音盤「ワルツ」
アーティスト:フーテン族
レーベル:醉象
発売日:2025年11月5日
品番:SUZO10
定価:¥2,500 (\2,273+税)
■タイトル:実況録音盤「セミ」
アーティスト:フーテン族
レーベル:醉象
発売日:2025年11月5日
品番:SUZO11
定価:¥2,500 (\2,273+税)
https://diskunion.net/jp/ct/news/article/2/133132
■フーテン族ワンマンライブ『おどり』
日時:2025年10月24日 (金曜日)
会場:新宿LOFT
チケット:ADV 3,500円 / DOOR 4,500円 / U-22 2,500円
https://eplus.jp/sf/detail/4392750001-P0030001
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取材・文/とり 撮影/上村窓
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