未知を追いかけた──。浮遊する映像で紡いだ鹿児島発の青春叙事詩「郷」
北京電影学院で学んだ新鋭・伊地知拓郎監督が高校球児を主人公に紡いだ“青春叙事詩”「郷(ごう)」が、監督の故郷でありロケ地となった鹿児島県にある劇場・鹿児島ミッテ10で2026年1月2日(金)より先行上映、新宿ピカデリーほか全国で1月9日(金)より順次公開される。ポスタービジュアル、場面写真、各者のコメントが到着した。
グラウンドで日々、汗を流す高校球児の岳(がく)。野球部内の理不尽な人間関係に苦しむが、担任教師の優しい励ましに救われ、幼なじみの隆(りゅう)との再会により昔の記憶を甦らせる。それは夏の田園、青空と入道雲、噴煙を上げる桜島、そして風や木々の匂いを感じながら、未知なるものを夢中で追いかける岳と隆の姿だった。
隆もまた苦悩を抱えてきたことを岳は知る。そして自身に問いかける。あの頃の自分は何を感じていたのか──。
伊地知監督が構想から約10年を費やして完成させた本作。台詞を極力排し、テレンス・マリックさながらにマジックアワーにこだわった映像で紡ぐ。第26回上海国際映画祭などに出品され、文部科学省選定作品となった、“心で見て、感じる”一本だ。
〈コメント〉
伊地知拓郎監督
『郷』は、一人の人生を通して、誰にでも起こりうる何気ない日常を描いています。
人生には思い通りにならないことが起き、予期せぬ困難と闘いながら私たちは今を生きている。
しかし、子どものころはどうだったか?『郷』のテーマは、「幸福の追求」。
その制作モチベーションの源には、日本人の精神的幸福度の低さ、若者の自殺率の高さという統計的事実と、海外生活での実体験から危機感を抱いたことにあります。自分に何ができるのか──映画を一つの手段として、潜在意識に届けることができれば、人々の心を救えるかもしれないという可能性を見出し、「郷」が生まれました。私自身も苦しかった時期があったからです。
物語は社会的幸福度と自然的幸福度を対比しながら、誰もが日常の中で感じることができる自然的幸福の回路を見つけ出し、忘れかけていた感情や潜在意識を呼び起こす“知的冒険心の探究”なのです。そして、観客自身の感情や深層心理と素直に向き合える時間となり、少しでも心が救われることを願っています。
「侍タイムスリッパー」安田淳一監督
野球に打ち込む高校生の夢と挫折、そして少年時代を過ごした故郷への郷愁。
極端に少ないセリフ、人間の視野に近い画角、浮遊感のある映像、壮大なオーケストラ音楽。
ドキュメンタリーの質感で控えめに提示される情報は、鑑賞者自らが「物語」を紡ぐことを求められる。その結果、映画の主人公の少年時代の記憶が、見るもの自身のそれと入れ替わる。
スクリーンの映像を、自ら物語として構成しようとする過程で生じる自己投影。
映画が「他人の物語」への共感により感動を生じさせる装置とするならば、「郷」の独特の語り口は、「他人の物語」を「鑑賞者の物語」へ転じる事に成功している。
小川夏果プロデューサー
留学先の北京電影学院で監督と出会い、心が洗われるような作品の美しさ、ユニークな音作り、映画作りへの誠実な姿勢に心を奪われました。学生時代、事故に遭いPTSDになった経験から、命の尊さを伝える使命を持ちました。それが映画作りに繋がっています。本作のテーマは「人々の精神的幸福度を上げること」。苦しみを抱える人々の心を解放できるよう、多くの人に「郷」を届けられるよう願っています。
〈鹿児島先行の意義〉「郷」を撮影するために鹿児島へ来たとき、鹿児島の美しさに魅了されました。撮影が1年半続く中で、鹿児島への移住を決断。鹿児島を舞台にした哀愁や郷愁が溢れる「郷」を鹿児島県民にいち早く届けたい──一人でも多くの方の心に響くことを願っています。
〈教育的意義(文部科学省選定)〉(選定日:2024年2月/科目:生き方、人生設計)全国の中学/高校を対象に心の健康や生き方を考える「郷」(3つの“ごう”)学習プログラムを作り、教育現場で活用が進んでいます。子どもたちの心の成長に貢献できるような取り組みを今後も広めていきます。
「郷」
監督・脚本:伊地知拓郎
プロデューサー・キャスティング:小川夏果
出演:泉澤祐希(語り)、小川夏果、古矢航之介、阿部隼也、千歳ふみ
編集・音楽・撮影:伊地知拓郎
衣装・美術・制作・演技指導:小川夏果
撮影地:鹿児島県各所(垂水市、姶良市、鹿児島市、日置市、南さつま市、指宿市、長島町、出水市、霧島市)、宮崎県都城市
製作:LETHEANY
配給:マイウェイムービーズ、ポルトレ
配給協力:MMCエンターテイメント、キネマ旬報
2025/日本/カラー/93分/5.1ch/アメリカンビスタ/映倫G
©郷2025
記事提供元:キネマ旬報WEB
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