"歴代最速優勝"を達成した猛虎軍団を徹底解剖! "史上最強"阪神タイガースに日本一への死角はあるか?
1990年の巨人を超え、プロ野球史上最速でリーグ優勝を達成した藤川監督
今季、セ・リーグ首位を独走し、プロ野球歴代最速優勝を達成した藤川阪神。2年ぶりの日本一奪還を目指す〝最強猛虎〟に隙はないのか? CS、日本シリーズで戦うであろう〝強敵〟との相性など徹底分析する。
※成績はすべて9月17日時点
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■今季の阪神は森西武クラス1990年に独走優勝した巨人を上回り、9月7日に史上最速優勝を決めた阪神。現役投手を指導するピッチングデザイナーで、『週刊プレイボーイ』本誌おなじみの野球評論家・お股ニキ氏はその強さをこう表現する。
「球史に残る独走劇だった90年の巨人ですが、日本シリーズでは森 祇晶(まさあき)監督率いる黄金期の西武に4連敗を食らいました。
当時の西武は投打、守備とすべての完成度が高く、89年のV逸がなければリーグ9連覇をしていたほどのチームであり、盤石すぎてつまらないと批判されたほど。今季の阪神も強すぎて批判されていますが、まさに森西武に匹敵する完成度です」
そんなチームからMVPを選ぶとすれば、まず挙がるのは本塁打、打点でリーグ1位を独走する4番の佐藤輝明だ。
今季、打撃が本格的に開花した佐藤輝。現在、38本塁打、96打点と大台まであとひと息だ
「チーム本塁打数の半分近くをひとりで打つなど、シーズンを通してバットが止まらなかった。左打者に不利な甲子園を本拠地としていますが、40本塁打&100打点はぜひ達成してほしいですね」
正捕手として100試合以上でマスクをかぶった坂本。投手陣を見事に引っ張った
攻撃のキーマンが佐藤輝なら、守備のキーマンはチーム防御率1点台に迫る投手陣を支えた正捕手の坂本誠志郎だ。
「捕手として求められるすべてのことを高次元でできる。さらに、投手とは個々にコミュニケーションを図るなど信頼関係を築けています。ミットの構え方や動かし方が良いので、投手は制球力や球質がより上がります。思考力がずばぬけており、きっと野球以外の仕事でも成功するタイプだと思います」
選手会長として、不動の2番・セカンドとして、チームをまとめ上げた中野
そして、「攻守両面でMVP級の活躍」と絶賛するのが中野拓夢だ。
「優勝決定後、藤川球児監督の次に胴上げされたのが中野でした。選手会長であること以上に、セカンドの守備、不動の2番打者として代えの利かない存在だったからこそでしょう」
打っては首位打者を争い、犠打数もリーグ1位を記録している。
「2番の中野が犠打や進塁打でつないでくれるから、1番の近本光司は積極的な仕掛けができ、3番の森下翔太と4番の佐藤輝がイケイケで打てる。今季の阪神を象徴する選手と言えます」
投手陣では先発の才木浩人、村上頌樹、ジョン・デュプランティエらの存在も光ったが、リリーフ陣の安定感も顕著だった。特に別格だったのが中継ぎとしても、抑えとしてもフル回転した石井大智だ。
現在、48試合連続無失点の世界記録を誇る石井。中継ぎに抑えに獅子奮迅の活躍を続ける
「連続無失点試合の世界記録が象徴するように、石井の〝点の取られなさ〟は尋常じゃない。ストレートとフォークは抜群に良く、カーブもあり、私が推奨する併殺狙いのスラッターも投げられる。中継ぎながら手札が豊富で、常に考えながら投げているのが素晴らしいです」
その石井を超えて60試合以上に登板し、防御率0点台の安定感を誇るのが左の及川雅貴だ。昨季両リーグ最多の70試合登板だった桐敷拓馬が一時戦線を離脱する中、補って余りある活躍ぶりだ。
「及川は横浜高校時代からいいものを持っていながら、昨季は先発をするも伸び悩み、中途半端な立ち位置でした。
しかし、藤川監督に中継ぎとして見いだされて覚醒。就任早々の秋季キャンプではマウンドでの立ち姿から意識の持ち方まで、監督直々に指導を受け、2軍では同じ左腕の髙橋遥人からカッターやツーシームを学んだようで、いい球を安定的に投げられるようになりました」
及川に限らず、2軍再調整を経て活躍した事例は多い。
「阪神2軍のゼロカーボンベースボールパークでは高精度カメラでの定点観測を導入し、投球フォームのちょっとした違いまでチェックできる体制が整いました。その結果、シーズン序盤は調子の上がらなかった伊藤将司も2軍での調整を経て復活。
来日当初、制球力が課題だったデュプランティエもゼロカーボンベースボールパークでしっかり調整することで1軍でも圧巻の投球ができるようになった。以前から『鳴尾浜の魔改造』はハンパなかったですが、さらにチューニング力が上がっています」
もちろん、優勝する上で欠かせない戦力はMVP級の選手たちばかりではない。熊谷敬宥や髙寺望夢らがシーズン途中から出番を増やして躍動したことも大きかった。特にお股ニキ氏は29歳の熊谷を高く評価する。
内外野を高いレベルでこなす熊谷。今季は先発出場の機会が増え、バットでも結果を出している
「以前はサードの守備固めや代走が中心でしたが、それでも朝から守備練習をして出番に備えていました。今ではサードだけでなく、ショートやレフトでもスタメン出場できるまでに成長。
打撃では粘り強さを発揮してチャンスで活躍できるようになり、ついには8年目にしてプロ初本塁打も放ちました。献身的なユーティリティ選手が何人も控えているのは強みですね」
そして、個性的な選手たちの兄貴分として、数字以上の存在感を放ったのが大山悠輔だ。
「昨オフはFA移籍が濃厚と噂されながら残留を決断し、今季は不動の5番・ファーストとして攻守でチームをもり立てました。以前ほどの長打力はなくとも、ファーストの守備や勝負強い打撃は健在。常に全力疾走を怠らない姿勢はチームメイトの見本でした」
さらに、「大山の存在のおかげで、前を打つ森下と佐藤輝が伸び伸び打てている」とも指摘する。
「大山自身、『若手時代は5番に福留孝介さんがいたことで4番を務められた』という意識があるようで、同じ役回りを見事に演じました」
お股ニキ氏は、今の阪神の出発点は大山を獲得した2016年ドラフトと指摘する。
「当時の金本知憲監督の強い意向とスカウトや編成スタッフの目利き力で、大山を見事に一本釣り。この頃から投手、野手共にいい選手を次々と獲得し、チーム全体を底上げしました。極めつきが20年のドラフトです」
この年は1位で佐藤輝、2位で伊藤将、5位以下で村上、中野、髙寺、石井と今季の主力選手を一気に獲得した。
「まさに球史に残る〝神ドラフト〟です。当時の矢野燿大監督、スカウト、編成スタッフの目利き力が素晴らしく、次の岡田彰布監督が花を咲かせ、今季の藤川監督もその路線をしっかりと継続させました。球団も生き物なので、1年や2年で急に強くなるわけではありません。地道な積み重ねで強くなっていくのです」
■阪神が嫌なのは鷹か、ハムかまだパ・リーグ覇者が決まらない状況ではあるが、日本シリーズで戦うならソフトバンクと日本ハムのどちらが阪神にとって嫌な相手なのか?
「どちらがくみしやすいということはなく、どちらも手ごわい相手です。ただ、日本ハムは波に乗ると手がつけられないものの、若さゆえの穴もある。
対して、ソフトバンクは打線が1番から9番まで穴がなく、守備も堅い。投手陣も先発、リリーフ共に駒がそろっていてなかなか失点しない。より警戒すべきなのはソフトバンクだと思います」
今季のソフトバンクは、リバン・モイネロ、有原航平、大関友久、上沢直之による「球団20年ぶりの2桁勝利カルテット」の活躍が目覚ましい。
パ・リーグ防御率1位で球界屈指の左腕、モイネロ。安定感抜群の投球で打者を圧倒する
「有原も上沢もフォークがいい。阪神打線はオーソドックスな打ち方の選手が多く、フォークを嫌がる打者は多い。今季、中日を苦手にしたのもこのタイプが多いから。佐藤輝も私が夏に取材した際『伸びるストレートと落ちる球を駆使するタイプは打ちにくい』と話していました」
さらに、リリーフでは藤井皓哉、松本裕樹、杉山一樹の「樹木トリオ」が安定感抜群だ。
「阪神の石井、及川、岩崎優の3人と比べても互角以上です。この樹木トリオは安定感抜群で点を取られません。さらに、捕手の海野隆司の配球も素晴らしく、相手打者が嫌がるリードを根気強く徹底できています」
一方、日本ハム投手陣は?
勝利数、奪三振数、投球回数でパ・リーグ1位の伊藤。初のリーグ優勝&日本一を目指す
「伊藤大海、北山亘基、今季ブレイクした達 孝太らは球に勢いがあり、落とす球も投げられる。ただし、加藤貴之や山﨑福也ら技巧派はペナントレースを戦う上では不可欠な存在ですが、短期決戦向きではない。阪神としては故障で戦列を離れていた古林睿煬が戻ると厄介です」
阪神にとって、普段プレーしないみずほPayPayドーム、エスコンフィールドでの戦いに不安要素はないのか?
「阪神は今季、東京ドームで9勝4敗。狭い球場はむしろ得意で、打者陣もやりにくさはないはず。むしろ、ソフトバンクや日本ハムにとって、屋外で風もあり、土のグラウンド、さらに秋は急に寒くなることもある甲子園での戦いは厄介だと思うはずです」
ちなみに、日本シリーズ前のCSファイナルステージでは、巨人かDeNAを迎え撃つことになりそうだが、落とし穴はないのか?
「どちらと対戦するのが嫌かといえばDeNAでしょう。苦手にするアンソニー・ケイ、そして、荒れ球の藤浪晋太郎とは当たりたくないはず。打線も筒香嘉智が当たっていて、タイラー・オースティンも戻って厚みが増した上に、ケガで離脱中の牧秀悟がもし戻ってこられるのなら、油断はできません」
■ポストシーズンの懸念点は?セ・パのどの球団よりもポストシーズンの準備に時間を充てられる阪神。それでも死角や懸念点があるとすれば?
「もちろん、不動の1~5番、さらに坂本という代えの利かない選手たちがケガをすれば不安材料になります。ただ、藤川監督も適度に休ませながら起用するなど対策をしており、これで故障したらしょうがないとも言えます」
実際、優勝後には近本が死球を受けて左腕を打撲した。
「むしろ、この時期で良かった。もともと近本は今季そこまで調子がいいわけではないので、ここでしっかり休ませ、ポストシーズンに向けた調整に専念させてもいい。ただ、近本や森下は前に踏み込みながら打つスタイルなので、今後は死球にももっと警戒したほうがいいでしょう」
過去のポストシーズンでは、圧倒的なスーパーピッチャーの前に打線が沈黙し、そこで調子を落として一気に終戦してしまうチームもあった。
「投高打低で打線のリズムが生まれにくい状況も加味すると、ソフトバンクのモイネロが相手であれば、確かにその可能性はあります。とはいえ、阪神はロースコアの展開にも慣れており、交流戦でモイネロと対戦した際もある程度打つことはできていたので、問題ないでしょう」
昨季の日本シリーズでは、レギュラーシーズンでソフトバンクを支えた中継ぎ陣が故障や不調に見舞われて起用できず、DeNAの下克上日本一を許す一因にもなった。同じようなことが阪神にも起きないのか?
「阪神はシーズン中から中継ぎ陣の負担軽減を徹底しているだけに心配無用でしょう。藤川監督は投手運用に神経を使っていますし、選手の体調面は相当細かく見ています」
その藤川監督の運用面、采配面に不安要素はないか?
「ケガやマインドには相当気を使って起用していて、状態の見極めも良いため、1軍に上げた選手がすぐ活躍できています。ペナントレースと短期決戦では気を配るべきポイントも当然変わりますが、監督1年目でこれだけ的確に戦ってきた藤川監督であれば、その違いも踏まえた采配ができるはず。まさに黄金期西武の森采配のような抜け目なさです」
冒頭で紹介したとおり、90年の巨人はセ・リーグを独走優勝したものの、日本シリーズで森西武に4連敗を喫した。同様に独走優勝した阪神が同じ轍を踏む恐れは?
「そういった過去の教訓も糧にするはずです。特に阪神は、同じように独走優勝した05年の日本シリーズでロッテ相手に4戦合計『33-4』という屈辱的な4連敗を喫した苦い経験もあり、気が緩むことはないでしょう」
大団円が近づく大阪・関西万博閉幕日の2日後から始まる阪神のポストシーズン。10月は関西がますます盛り上がりそうだ。
文/オグマナオト 写真/時事通信社
記事提供元:週プレNEWS
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