キネマ旬報ムックと東銀座・東劇のコラボ企画 『戦後80年 戦争の記憶をつなぐ映画たち』から選んだ8作品が東劇で特集上映!
東京・東銀座『東劇』で、8月8日(金)より8月20日(水)までキネマ旬報ムック『戦後80年 戦争の記憶をつなぐ映画たち』刊行記念として、「母と暮せば」「小さいおうち」「野火」「ほかげ」「二十四の瞳」「壁あつき部屋」「この空の花-長岡花火物語」「東京裁判」の8作品が上映される。本書の筆者の一人であり、特集上映のトークショーでゲストの聞き手として登壇する映画評論家の関口裕子さんに、現在(いま)、映画を見ることで戦争を検証する重要性を語っていただく。
なぜ戦争が起こってしまったのか
人は忘れることで生命を維持する。あまりのストレスにさらされ続けると精神的な疾患を発症することもある。嫌なことはなるべく思い出さないよう、自らの精神が健やかにあるように保つのだ。多くの人が実践していることだと思う。
だが、忘れてはいけないこともある。例えば戦争のような、我々が仕出かした“都合の悪い真実”のことだ。本来なら起きた事象を詳細に掘り起こし、原因や対処方法、その是非を検証し、むしろ忘れないように語り継いでいく必要がある。だが、残念ながら、日本では、自らの過ちを洗い出すことも、そのような検証を公的機関が行なうことも稀だ。何に、誰に、遠慮しているのか? たぶん明らかになることが“不都合”だと思うものに、なのだろう。
例えばドイツでは、自国の歴史の暗部を学ぶ教育が実践されてきた。それによって自国を好きになれない若者が増えたり、「戦争において非道な行為を行ったのはドイツだけではない」と罪を相対化しようとする歴史家が現れたりもした。ただそれは当時の大統領グスタフ・ハイネマンが、「世の中には難しい祖国がいくつかある。ドイツはその一つだ。しかしドイツは我々の祖国だ」と述べたように、国民が一度は直視しなければならない戦後の重要な過程だった。
2008年に朝日新聞出版は、『新聞と戦争』という、戦前戦後の紙面を徹底検証した本を出版している。上梓のきっかけは読者からの「朝日の論調が変わったら気をつけろ」という投稿だった。社論が、軍の強硬姿勢批判から支持へと変わったのは、満州事変あたりから。この本では、同新聞における変化が誰によって、どう促され、どのように拡大し、どんな影響を及ぼしたのかまで、徹底検証している。この本の執筆陣は、「タブーを恐れず、関係性や感情に左右されることなく取材する」こと。そして「これは過去を断罪して身ぎれいになるための企画ではなく。いま同じことが起きたら記者としてどう生きるか、その指針と教訓を探るもの」だという覚悟を持って臨んだ。
覆水盆に返らず。起きた失敗は、ないことにできない。同じ轍を踏みたくない。だからこそ、なぜ起きてしまったのかの検証が必要なのだ。

映画に描かれた“戦争”を、さまざまな視点で検証する
夏になり、8月15日が迫ると、新作の戦争映画が公開され、過去のさまざまな戦争関連作品も上映される。映画に描かれた“戦争”を、さまざまな視点で分類し、確認していくキネマ旬報ムック『戦後80年 戦争の記憶をつなぐ映画たち』は、やや無理やりではあるが、映画界(実際はキネマ旬報社)による積極的検証といえるだろう。
ムックでは、編集部が「日中戦争」「太平洋戦争」「戦時下の民衆」「敗戦後の日本」の4本柱に分類した132本の映画が、現在の視点で解説される。これが滅法おもしろい。戦後80年を経て、日本の政治が戦争を“知らない”人々によって行われ、世界情勢が緊迫する今だからこそのレビューが、これまでのどんな戦争関連本のそれより切実に胸に迫ってくるのだ。
第1章の山田洋次、香川京子、塚本晋也、片渕須直、渡辺浩、吉永小百合の「映画と戦争をめぐる映画人の言葉」、「語り継ぐ5人の証言」と題した第4章に登場する故人、新藤兼人、黒木和雄、大林宣彦、降旗康男、山田太一のインタビューも、他では読むことができない金言だ。
新聞記者3人による第6章「座談会 映画は戦争の何を映すのか」も興味深い。映画記者として長く勤めた、分析力、発信力のある3人が編集部のリードで、「新しい戦前」の観点から、いま見るべき古今東西の戦争映画を語る。同じ事象を、異なる視点で描いた別な映画と見比べることができるのは、映画ならではの利点だ。
いまこそ見たい、戦争を考える8作品を東銀座・東劇の大スクリーンで上映
そんなムック『戦後80年 戦争の記憶をつなぐ映画たち』とコラボレーションした特別上映企画が、8月8日(金)から20日(水)まで東京・東銀座の東劇にて開催される。
松竹だからできるこの上映企画での作品を、ムックのカテゴリー別に見ると、【戦時下の民衆】から「二十四の瞳」「小さいおうち」「この空の花-長岡花火物語」「母と暮せば」、【太平洋戦争】から「野火」、【敗戦後の日本】から「壁あつき部屋」「ほかげ」「東京裁判」となる。
ニュース映像を使用し、裁判に至るまでの状況や裁判、刑執行についてを収めた長編記録映画「東京裁判」は、1941年に招集され、戦後も46年まで捕虜収容所を経験した小林正樹監督の作品。同監督の作品では、なかなか劇場で見る機会のない巣鴨プリズンに収容されたBC級戦犯の苦悩を描いた「壁あつき部屋」も上映される。上官の命令に背けない戦場での行為を戦犯として裁かれる理不尽と、その上官の裏切りが描かれる。
塚本晋也監督「野火」は、究極の飢えや上官の陰惨な命令、劣悪な環境を生き抜いてレイテ島から帰還した一等兵・田村の痛みを共有できる物語。同監督の「ほかげ」は、帰還した田村が見たであろう、戦火で何もかもが失われた日本で、生きようとする女性や子どもを描く。
大林宣彦監督「この空の花-長岡花火物語」は、米軍が原爆投下の予行演習として8月1日に行った空襲で命を落とした長岡市民の供養を起源とする長岡の花火にまつわる物語。演劇やアニメーションなどを取り入れてカリカチュアライズした大林タッチで描かれる。花火の場面をクライマックスとする本作は、ぜひ大きなスクリーンで見たい作品だ。」
山田洋次監督作品としては、続くと思われていた日常を長崎の原爆によって一瞬で奪われ、この世に生がないことを納得できない息子との対話を描いた「母と暮せば」と、郊外の丘の上に建つ赤い文化住宅を舞台に東京大急襲で亡くなった“奥様”への思いを元女中のタキの視点で描く「小さいおうち」。

木下惠介監督作品では、戦時下の小豆島の分教場を舞台に、若い女性教師と12人の子どもたちの交流を描いた不朽の名作「二十四の瞳」が上映される。
本を読んで戦争を検証するのも重要だが、それに勝るのが映画そのものを見ること。今年、見て感じたことを大切にし、更新された自身の感覚をもって、何をするべきか考える。映画を見ることは、自分の考えと言葉を持つことの一助となるだろう。
文=関口裕子 制作=キネマ旬報社
キネマ旬報ムック『戦後80年 戦争の記憶をつなぐ映画たち』
第1章 映画と戦争をめぐる映画人の言葉
山田洋次/香川京子/塚本晋也/片渕須直/渡辺浩/吉永小百合
第2章 映画と戦争と歴史 132選
「日中戦争」「太平洋戦争」「戦時下の民衆」「敗戦後の日本」のカテゴリー別に選ぶ312作品の解説
コラム
日本細菌戦部隊「七三一部隊」日本での映画化を望む
映画で描かれた日本兵による捕虜への虐待
『はだしのゲン』が願うこと
映画の記憶をつなぐ2025年の映画たち
「木の上の軍隊」「摩文仁 mabuni」「黒川の女たち」「長崎―閃光の影で―」「満天の星」「雪風 YUKIKAZE」「ハオト」「神の島」「ペリリュー -楽園のゲルニカー」「豹変と沈黙 -日記でたどる沖縄戦への道」
「黒川の女たち」松原文枝監督インタビュー
第3章 戦意高揚と民主化と戦争責任
国家統制下の日本映画界
占領軍の映画検閲
戦争責任者の問題 伊丹万作
第4章 語り継ぐ5人の証言
新藤兼人/黒木和雄/大林宣彦/降旗康男/山田太一
第5章 時代別戦争映画論
1953年 反戦か反米か? 戦記映画の辿っている道 キネマ旬報企画調査部
1967年 戦争映画22年の屈折 荻昌弘
2005年 日本映画は戦争とどう向き合って来たか 佐藤忠男
2025年 「戦争映画」から「戦争に関する映画」へ 轟夕起夫
第6章 座談会 映画は戦争の何を映すのか
◎B5判/210頁/1980円(税込)/キネマ旬報社
キネマ旬報ムック刊行記念上映「戦後80年 戦争の記憶をつなぐ映画たち」
【日時】
2025年8月8日(金)~8月20日(水)
※8月10日(日)、8月16日(土)は休映となります。
【料金】
一般料金(各種招待券・サービスデイ料金適応可)
※『野火』イベント回は、各種ご招待券・SMTM60ポイント無料鑑賞クーポン、株主優待券等はご利用いただけません。
『東京裁判』のみ
一般2,500円、シニア・大学生1,900円、高校生以下・障がい者割引1,000円
※各種ご招待券・各種割引券、SMTM鑑賞クーポン、株主優待券等はご利用いただけません。
【上映作品】
『二十四の瞳』 監督:木下惠介 (1954年/156分/モノクロ/DCP 2Kデジタル修復版)
『小さいおうち』 監督:山田洋次 (2014年/137分/カラー/DCP)
『野火』 監督:塚本晋也 (2014年/87分/カラー/DCP)
『この空の花-長岡花火物語』 監督:大林宜彦 (2012年/160分/カラー/DCP)
『母と暮せば』 監督:山田洋次 (2015年/130分/カラー/DCP)
『壁あつき部屋』 監督:小林正樹 (1956年/110分/モノクロ/デジタル)
『東京裁判』 監督:小林正樹 (1983年/277分/モノクロ/DCP)
『ほかげ』 監督:塚本晋也 (2023/95分/カラー/DCP)
【登壇イベント】
8月11日(月)『野火』 15:40の回(※上映後トークショー)
ゲスト:林哲史さん(『野火』助監督) 聞き手:関口裕子さん(映画評論家)
8月15日(金)『東京裁判』 11:30の回(※上映後トークショー)
トークゲスト:寺脇研さん(元文部科学省官房審議官)
※登壇者および舞台挨拶の予定は、都合により予告なく急遽変更になる場合がございます。
【チケット販売スケジュール】
インターネット販売
・SMT Members会員 各上映日の3日前17:00~
・SMT Members非会員 各上映日の3日前21:00~
劇場窓口販売
各上映日の2日前、劇場オープン時より
記事提供元:キネマ旬報WEB
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