【アジフライ&エビフライ&イカメンチ定食】熱海旅行のスタートを華々しく飾ってくれた、駅前ビル地下街の名店との出会い:パリッコ『今週のハマりメシ』第198回
ある日、あるとき、ある場所で食べた食事が、その日の気分や体調にあまりにもぴたりとハマることが、ごくまれにある。
それは、飲み食いが好きな僕にとって大げさでなく無上の喜びだし、ベストな選択ができたことに対し、「自分って天才?」と、心密かに脳内でガッツポーズをとってしまう瞬間でもある。
そんな"ハマりメシ"を求め、今日もメシを食い、酒を飲むのです。
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小学校2年の娘が夏休みに入ったということで、なにかそれらしい思い出でも作ってあげたいなと思い、打ち上げ花火が開催される日に合わせ、家族で熱海旅行へ行ってきた。
熱海の街も、海も、宿も、そしてもちろん花火も、それはそれは素晴らしいものだった。旅行に来たのは十数年ぶりだったと記憶しているが、こんなにいいところだったっけ? とすっかり大好きになってしまい、秋冬ならばもっと手頃に行けるのでは? と、帰宅してからもやたらと旅行サイトを眺めたりしている昨今だ。
ただ、それはそれとして、真夏の家族旅行には"暑さとの戦い"という最大の問題がある。特に、僕が訪れた日はこの夏の最高気温を記録したとかで、1、2分外にいるだけで頭がのぼせてくる。娘にとってはさらに死活問題。なるべく炎天下を避けるゲーム要素もあるというわけだ。
「熱海サンビーチ」
昼前に熱海駅に到着し、まずは重いキャリーカートを宿に届けてくれるサービスがあるということで、その窓口がある駅前のビル「第一ビル名店街 ATAMIX」へ。するとここが、ほどよいレトロ感のある僕好みのビルで、しかも地下に飲食店街があるらしい。そこで昼ごはんが食べられればありがたいと、行ってみることに。
地下には定食屋、居酒屋、まぐろ料理専門店、ラーメン店などが立ち並んでいた。けれどもさすがは人気の観光地、ほとんどの店にすでに行列ができている。ところがくまなく見ていると、通路の最深部に1軒だけ、すんなりと入れそうな店が。酒場と定食屋を合わせたような「結」という店で、メニュー構成もとても魅力的だ。迷っている間に行列ができてしまうなんてこともありえるし、入ってしまおう!
通路の最深部に
カウンターが数席にテーブルがふたつと、かなりこぢんまりとした店だ。お店のお姉さんが教えてくれたところによると、ふだんなら今日は定休日だけど、花火の日なので特別に営業しているそうで、すんなり入れたのはそのせいもあるのかもしれない。幸先がいいぞ。
メニューは、高級な部類でも、「金目の煮付け定食」が税込2,000円、「海鮮丼」が1,850円。「しらす・いくら丼」が1,300円、「刺身3点盛り定食」が950円など、まったく観光地価格ではなく良心的。また数量限定の「結 海鮮あられ丼」が、なんと600円。写真がないのでわからないけれど、どんなものかめちゃくちゃ気になるな......。
が、気になるブロックがもうひとつあって、それが揚げもの定食ゾーン。「アジフライ定食」(900円)、「鶏から揚げ定食」(800円)、「ミックス定食(アジ・エビ・ヒレカツ)」(900円)、「カキフライ定食」(1100円)、う~ん、迷う。が、店名が冠された「結定食」が、アジ、エビ、イカメンチという内容で、いちばん熱海っぽいかもしれない(?)。値段も950円とお得だ。それと「ビール 生中ジョッキ」(600円で)お願いします!
「結定食」
旅行先で残念な1食と出会ってしまうことほど悲しいことはない。この結定食はその真逆で「もしかして、いちばんいい店選べたんじゃない!?」「こんな店、近所にあったら通いまくるっしょ」と、届いた瞬間から饒舌になってしまう豪華さだ。
中央の大皿には、千切りキャベツの上に、良い色に揚がった大ぶりのアジフライの半身がふたつ、エビフライが1本、イカメンチふたつ。それから漬けもの、大根のみそ汁、ごはん。なにはともあれ、中央にそそり立つフライタワーが圧巻だ。
夢みたい
アジフライの迫力
実際に食べてみると、どれもがその美味しそうさを裏切らないばかりか、余裕で超えてくる美味しさ。
まず感動したのがアジフライで、何気なくひと口食べると、その肉厚さで口いっぱいが想像以上にアジになり、しかし驚くほどふわふわと柔らかくジューシーで、ざくりとした衣を噛んでいると思ったらその身がほどけてなくなってしまっているような感覚。たまにスーパーで買うアジフライもうまいけど、これが本当のアジフライてやつなんだな。
初めは醤油をちょろりとかけてその繊細さを味わっていたものの、途中からは当然、ソースをどぼどぼ。それを白メシの上にどーんとのせて一緒にばくばく。あぁ......至福......。
幸せの具現化
ぷりんとした弾力が心地いいエビフライは特別なごちそうだし、自家製らしきイカメンチがこれまたいい。細かく刻まれたたっぷりのいかと野菜が、少しとろみのある餡でまとめてあり、ものすごく楽しい食感。ほんのりと甘めの味つけが、ソースにも醤油にもマヨネーズにも合う。ゆえに、ごはんにもビールにも合う。あぁ、このイカメンチをまた食べたくなったら、熱海までやってくるしかないのか。しかたない、これは味を知ってしまったものの宿命だ。
熱海の逸品
娘のメニュー選びにはまだ「せっかくの熱海だから」みたいな基準がないので、家でもよく食べている好物の「焼き鮭定食」(850円)を選んだ。が、家のものとはサイズも厚みも違うふわふわの鮭には驚き、大満足していた。妻が頼んだ刺身定食のまぐろも、ひと切れわけてもらったけど新鮮そのもの。うっとりの美味しさだった。
我々の熱海旅行のスタートを華々しいものにしてくれた結さんに、あらためて感謝。謎の「海鮮あられ丼」の正体については、検索などせず、次回熱海旅行の際の楽しみにしておこう。
取材・文・撮影/パリッコ
記事提供元:週プレNEWS
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