【実況リポート】ジャングリア沖縄で見た"地獄の大渋滞"殲滅大作戦
仕掛け人はユニバーサル・スタジオ・ジャパン(USJ)の再建を手がけた森岡毅氏。周辺の宿泊施設や建設業の雇用創出などを含めると、開業初年度の経済効果は6500億円ともいわれる
沖縄県北部の新たな観光資源として期待されるも、メディアやSNS上で「大渋滞で地獄絵図」と予想されていたテーマパーク「ジャングリア沖縄」。
地元行政や企業と協力して対策に乗り出していたが、開業の7月25日直前、付近で台風が複数発生するなど暗雲が垂れ込め始める......。果たして結果はどうなったのか? 混乱必至と思われた現地周辺を直撃リポート!
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■期待と不安のはざまでついにオープン!7月25日金曜日、沖縄県国頭郡今帰仁村(くにがみぐん なきじんそん)に、新たなテーマパーク「ジャングリア沖縄」が開業した。
沖縄本島北部の自然豊かな「やんばるの森」に囲まれたロケーションで、総面積は東京ドームほぼ13個分に当たる約60 ha。全22のアトラクションをはじめ、スパやレストラン、ショップなどを用意し、「大自然没入型のテーマパーク」をうたう巨大施設だ。
集客の見込みについて公式発表はないが、近隣の人気施設「沖縄美(ちゅ)ら海(うみ)水族館」の半分程度としても、1日当たり5000人、同程度とすると1万人が来場することになる。
目玉アトラクションのひとつであるダイナソーサファリ。初日は3時間待ちだった
今帰仁村の南に隣接する名護市にとっては、この集客力が経済活性化への大きな後押しになる可能性を秘めている。背景にあるのがジャングリアと名護市との位置関係だ。
ジャングリアは所在地こそ今帰仁村だが、その立地は名護市に隣接する山あいだ。
名護市は沖縄の玄関口、那覇市から美ら海水族館(本部[もとぶ]町)に向かうルート上にあるものの、水族館を訪れる客の多くが沖縄本島の他地域からの日帰り客に占められ、名護市街は素通り状態だった。
名護市は沖縄本島北部最大の都市だが、人口は約6万5000人で、経済規模は決して大きくない。1981年に竣工した市庁舎は地域の風土的特性を盛り込んだデザインが特徴
しかし、ジャングリアが開業し、美ら海水族館と併せて泊まりがけで巡るなら、名護市はベストな宿泊地になる。市関係者の期待は大きい。
「ジャングリア開業で市内ホテルの予約が増えています。これまで春のプロ野球キャンプ、夏の海水浴シーズンには多かった来訪者が平準化するという期待もあります。
また沖縄本島南部に比べ比率が小さかったインバウンド観光客の増加にもつながるのでは」(名護市観光課)
■"地獄の大渋滞"予想&脆弱な宿泊インフラだが、ここで課題となるのが、ジャングリアまでの交通インフラ、そして名護市の宿泊インフラだ。
名護市からジャングリアへの主要なアプローチは、市街地を走る国道58号から片側1車線の県道84号に入り、4㎞ほど走った所にあるT字路交差点を右折、さらに曲がりくねった市道を上がっていく。このルートにクルマが集中すれば、渋滞は免れない。
開業前、名護市の担当者は不安を隠さなかった。
「市道の草刈りや白線を引き直すといった取り組みは行なっていますが、渋滞対策については国道や県道がメインとなるため、市としてできることはほぼありません。
ただ『渋滞が市民生活に影響を与えないよう、ぜひ対策を』と、国や県にお願いを続けています」(名護市まちなか再開発・公共交通課)
特に先に挙げたT字路は信号機もなく、ジャングリアに向かうクルマが右折待ちをすれば、県道84号の渋滞は必至だ。
そこで沖縄県は、このT字路付近の道路を拡幅し、右折レーンを確保。さらに信号機を設置する事業に着手。当初、完工が「8月11日」とされていたことから、開業に間に合わないのではという懸念もあったが、実際には開業1週間前から運用が始まっている。
名桜大学は名護市からやんばるの森に分け入る小高い場所に位置する。学生数は約2300人で、6割がクルマで通っている
ただし、渋滞予想ポイントはここだけではない。県道84号が教職員や学生の通学ルートになっている公立名桜(めいおう)大学は渋滞への不安を隠さない。
「本学は教職員のほか、学生の6割がクルマ通学です。また、学生送迎バス利用者も少なくありません。
現在でも授業の開始、終了のタイミングで県道84号は渋滞しますが、ここにジャングリア来訪者のクルマが加わると、授業や試験に大きな支障が出る可能性が高い。
当面は、送迎バスの始発を早める、学生に時間に余裕を持って行動するよう呼びかけるといった対策を行なっていきます」(名桜大学教務部 入試・広報課)
一方、宿泊インフラの課題は、そもそも名護市の市街地に十分な数のホテルがないことにある。
大型のリゾートホテルは名護市の中心地から離れた南部の海岸沿いや、さらに南の恩納村(おんなそん)に点在するが、そのエリアはインバウンド富裕層の需要もあり、ハイシーズンは1泊4万円台も珍しくない。それに対し、市街地にあるのは中小規模のビジネスホテルが中心で、その数も決して多くはないのだ。
「ジャングリア開業に伴い、予約は例年に比べ多くなっています。一方で、当ホテルを含め、いくつかのホテルがジャングリアのスタッフ宿舎として利用されていることもあり、そもそもお客さまに提供できる部屋数が限られてしまっている。
料金も例年より高く設定しておりますが、それでも週末は空きがない状態が続いています」(ビジネスホテルフロントスタッフ)
名護市中心部の繁華街付近や国道58号線沿いにはビジネスホテルが点在
このホテル不足による価格高騰が、ジャングリアのもたらす経済効果を"頭打ち"にする可能性もある。名護市の繁華街で複数の飲食店を営むオーナーが語る。
「ジャングリアがターゲットにするインバウンドの富裕層が名護市街にお金を落とすかというと疑問です。
彼らが泊まるような高級ビーチリゾートは、ホテル内もしくは近接するお店で飲食が完結する。そのため、私たちは市内のビジネスホテルに泊まるお客さんに期待してるんですが、ホテル代が高騰すれば、その人たちが街でお金を使う余裕が果たしてあるのか......」(名護市内の飲食店オーナー)
■渋滞予想ポイントを現地実況!では、ジャングリア沖縄が開業を迎えた7月最後の週末、最大の懸念点だった交通渋滞はどうなったのだろうか。
各所の渋滞ポイントを熟知して、余裕のある旅行プランを立てたい
前出のボトルネックになると思われた「①県道84号のT字路」のほか、ジャングリア沖縄の駐車場にクルマが集中することを避けるために用意されたパーク外イオン提携無料駐車場からシャトルバスが発着する「②イオン名護店」、ジャングリアからの帰路となる県道84号と交通量の多い幹線の国道58号が交差する「③白銀橋(東)交差点」、那覇市方面に戻るクルマと恩納村方面に進むクルマが交錯する「④沖縄自動車道許田(きよだ)IC付近」を実際に訪ね、状況をチェックしてみた。
《①県道84号T字路》
・右折レーンと信号設置で渋滞は杞憂に!
県道84号のT字路。ジャングリア沖縄に向かう右折車が後続車を妨げないよう、長い右折レーンと時差式信号機を設置。開業初日、2日目とも渋滞はほとんどなかった
時差式信号機と右折レーンの効果は大きく、かつ配置された交通整理スタッフが反対方向の赤信号を確認して右折車を誘導したことで、朝の時間帯に名護市方面からジャングリアに向かうクルマが滞留することはほぼなかった。
午後、帰りのクルマが増え始めた時間帯には信号の時間を調整。県道側の信号待ちのクルマの列がやや長くなる時間帯はあったものの、ジャングリアからの帰路も渋滞はほぼ見られなかった。
《②イオン名護店》
・初日の反省を生かし2日目は運用を効率化
イオン名護店。初日はバス乗り場からの行列が駐車場の反対側まで延び、クルマの通路と交錯する状態に。この後、並び直しが行なわれた
開業初日、イオン名護店発のシャトルバスの初便は8時30分。しかし「駐車場、シャトルバス運賃が共に無料」ということで、イオン名護店には早朝から利用客が殺到。8時前には駐車場内バス乗り場に長い列ができ、一時は駐車場内のクルマの通路をふさぐ形に。
係員により、店舗に沿った形での列の並び直しが行なわれるなど、若干の混乱が見られた。また、指定駐車場は店舗屋上であるにもかかわらず、列を見て店舗前駐車場にクルマを止め、列に並ぶ人の姿もちらほら......。
しかし開業2日目にはクルマを屋上駐車場に誘導。そこでバス乗車整理券を配布し、1階に降りるエレベーター前に列を作るという形に運用を改め、初日よりはるかにスムーズな流れとなった。
ただし、両日とも午後には買い物客も含め駐車場内がほぼ満車となり、空きを待つクルマが通路にあふれた。
《③白銀橋(東)交差点》
・抜け道のない交差点では長い渋滞が発生!
白銀橋(東)交差点。開業初日の午後、国道58号に出る信号を先頭に、県道84号は長い渋滞に見舞われた。那覇方面に戻る場合は、羽地内海側に進み、この交差点を迂回するほうが早くなるケースもある
事前に懸念されたとおり、長い渋滞になったのが白銀橋(東)交差点だ。
開業日は金曜日、さらに雨という天候もあり、夕方には仕事帰りの地元のクルマに加え、ジャングリア沖縄から帰るクルマ、そしてジャングリアからの大型バスにより、交差点から約800mにわたってクルマが滞留。通過に長い時間を要した。
開業2日目は午後から時折雷も鳴る大雨となったことでアトラクションが停止。ジャングリアから帰るクルマが分散したためか、渋滞は見られなかった。
《④許田IC付近》
・天候の影響もあり意外に流れはスムーズ
許田IC付近。許田IC手前にある「道の駅 許田」は、多くの観光客が立ち寄る人気スポット。駐車場に入るクルマの行列が国道58号まで延び、渋滞の原因になることも
許田IC手前では国道58号線に名護東道路が合流、その先で右車線が那覇方面への沖縄自動車道に、左車線が恩納村方面の国道58号へと分岐する。加えて人気の観光スポット「道の駅許田」があり、週末の午後には混雑が常態化しているエリアだ。
しかし開業当日、2日目共に台風や熱帯低気圧による本格的な雨に見舞われたことで、そもそも北部のビーチに向かった観光客が少なかったことも影響してか、この両日には目立った混雑はなかった。
■渋滞対策は成果あり! だが残る懸念も......このように、不安視された渋滞は最小限にとどまり、ジャングリアはまずは順調な滑り出しとなった。
その背景に台風や熱帯低気圧による悪天候での来客数減があったことは否めないが、前述のように渋滞対策として道路の拡幅や信号機の設置を行なった県の対策やジャングリアの企業努力も評価すべきであろう。
現地駐車場への入場導線は、入り口からのアプローチを長く取り、市道に車列が延びないよう配慮した上、周辺道路の交差点や関係者入り口など迷いやすい所には適切に係員を配置しクルマを誘導した。
また、入場チケットの発売枚数を絞り、予約制の現地駐車場も、収容可能台数よりかなり減らすことでクルマでの来場を抑制。他方、イオン名護店と提携した無料駐車場からシャトルバスを多数運行するなど、交通の分散を図った対策は渋滞抑制に大きく貢献した。
開業初日に混乱したイオン名護店でのバス待ちの列も、予定よりバスの初便を早めて対応。さらに翌日には並ぶ場所を変え、整理券を配布するなど、即応性のある対応は高く評価したい。
だが懸念も残る。これ以上イオン名護店にクルマが集中すると、一般の買い物客の利用に支障を来す。ほかにもチケット販売数や駐車場の予約枠を増やしたとき、道路の混雑への影響がどうなるかも未知数だ。
また、ジャングリアを楽しんだ後、その日の飛行機で自宅に戻る予定の人は要注意だ。ジャングリアを出て名護市街を抜けるのに30~40分、高速に乗って那覇空港付近まではさらに1時間がかかる。
レンタカーの給油や返却、レンタカー営業所から空港までの送迎バスでの移動を考えると、飛行機が出発する5時間前にはジャングリアを出たい。
なお最後に、開業初日にジャングリアを楽しんだ入場客の声を紹介したい。
「ようやく沖縄に本格的なテーマパークができた。ユニバーサル・スタジオ・ジャパンとはまた違った内容で面白かった」(20代カップル)
「システムトラブルがあり大変でした。目玉のダイナソーサファリに3時間並びましたが、ほかのアトラクションは整理券が発券終了になって、やることがないんで帰っちゃいました」(20代男性)
「雨でずぶ濡れでしたけど、パーク内には日陰がなくて、かえって雨でよかったかも。入場ゲート前に無料レンタルのパラソルがあったのはありがたいけど、炎天下だと厳しそう」(30代女性)
さまざまな対策で渋滞の抑え込みにほぼ成功したジャングリア。今度はパーク内の待ち時間対策、暑さ対策もぜひ頑張ってほしい。
取材・文・撮影/植村祐介 写真/時事通信社
記事提供元:週プレNEWS
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