目指せW杯制覇! 急増する欧州組を支える協会のキーマン&元W杯戦士が明かす、サムライブルー「欧州強化計画」最前線!!
元サッカー日本代表・松井大輔氏とナショナルチームダイレクター・山本昌邦氏
いよいよ、北中米W杯まで1年を切った。現在の日本代表は、メンバーの多くが強豪クラブに所属する欧州組で構成され、〝過去最強〟とも評される。代表・クラブとサッカーの最前線で戦い続ける彼らの活躍を支える日本サッカー協会の人知れぬ努力について、協会のキーマンと欧州通の元日本代表に聞いた!
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■欧州組飛躍の秘訣は超サポート体制!?森保ジャパンが世界最速(開催国を除く)で北中米W杯出場を決めた3月のアジア最終予選。メンバー27人のうち、22人を欧州でプレーしている選手が占めた。
歴代最強との呼び声も高い現代表だが、かつてはメンバーの多くが国内組だったことを踏まえると、近年の躍進には急増する欧州組の存在が寄与していることは言うまでもない。
アジア最終予選・バーレーン戦(3月20日)のサムライブルー。久保や三笘、板倉ら、欧州の主要五大リーグの強豪で堂々とレギュラーを張って活躍する選手たちが、今の日本代表を支える
2010年に開催された南アフリカW杯で、当時はまだ珍しかった〝欧州組のパイオニア〟としてベスト16進出に貢献した元日本代表・松井大輔氏は語る。
「当時の欧州組は僕を含めてたった4人。今はほとんどが欧州でプレーしていて『キャプテン翼』の世界が現実になったような状況ですよね」
W杯制覇を目指す上で、欧州組の存在は重要だと松井氏は続ける。
「一流のリーグには世界各国の代表が集まっていて、毎週いわば〝代表戦〟が行なわれるわけです。そうした環境に身を置いているか、いないかでは大きな違いがあります。
僕もリーグ・アン(フランス)で戦っていたおかげで、南アフリカ大会初戦のカメルーン相手でも面食らうことなく、いつものリーグと変わらない感覚で試合に入れました」
一方で、欧州クラブと日本代表の両立には苦労もあったという。
「代表活動はスケジュールがとにかくタイトで、クラブの試合後、すぐに移動して、代表に合流できるのは試合の2、3日前。そこから代表で戦って、欧州に戻った2日後には、またクラブの試合があるんです。
代表戦後の試合は、クラブ側がケガを心配して出してくれないことも多い。絶対的なレギュラーをつかめていない状況では、そうやって1試合休んだせいでクラブでの立ち位置が危なくなるなんてことも」
このように欧州組の代表活動には少なからず負担もある。しかし、現在の代表は欧州組が急増しており、彼らの調子は日本代表のパフォーマンスに直結する。
そのため、日本サッカー協会(以下、JFA)は欧州組のサポート体制を整えており、例えば、20年にはデュッセルドルフ(ドイツ)に「JFAヨーロッパオフィス」を構えた。
山本昌邦 現役時代はヤマハ発動機サッカー部(現ジュビロ磐田)でDFとして活躍。1992年からU-20日本代表コーチを皮切りに、その後U-20日本代表、U-23日本代表監督、A代表コーチなどを務め、中田英寿や松田直樹、松井大輔ら、数多くの選手たちを育成。23年からナショナルチームダイレクターに就任、森保ジャパンを支える
U-15からA代表まで、各世代代表の強化・統括を務めるナショナルチームダイレクターの山本昌邦氏に欧州拠点の役割を伺った。
「選手やクラブとのファーストコンタクトの窓口がメインの仕事です。われわれは各クラブから選手を〝お借りする〟立場。そのため、欧州拠点のスタッフは日頃から各クラブに出向き、コミュニケーションを図っています。
直接向き合うことで、選手の状態やメディカルデータの共有がスムーズになりますし、クラブの意向や本音も見えてきます。
代表活動は時間との勝負で、スムーズに選手を集めることも欧州拠点の大事な役割です。われわれとしては1時間でも早く選手を呼びたいんです。その時間にミーティングを詰められますし、早く呼ぶことで疲労具合や回復速度などの測定も可能になります。
そうしたメディカルデータを駆使することで、結果的に選手をいい状態でお戻しできます。クラブに戻ってからもいいコンディションで試合に出続けてもらい、試合勘を失わないようにサポートすることも重要です」
松井大輔 全国高校選手権で活躍、2000年京都に加入。04年から仏2部ル・マン(当時)に移籍し、以後、欧州や国内のさまざまなクラブでプレー。日本代表としても、各年代の代表、04年アテネ五輪、10年W杯に出場。現在はU-18日本代表コーチや日本フットサルトップリーグ理事長、浦和レッズアカデミーのロールモデルコーチなどを務める
欧州拠点にデュッセルドルフが選ばれたのは、利便性の高さからだという。ドイツ国内はもとより、欧州各国へのアクセスも良い。代表活動は「時間との戦い」と言うだけに、欧州拠点は招集後の送迎車やチャーター便に至るまで、移動の手配も担う。松井氏はそうした現在のJFAのサポート体制に感嘆の声を上げる。
「僕なんてフランスにいた頃は、代表に招集されると自分で電車のチケットを買って、パリまで行き、そこから成田への便に乗っていましたよ。しかも、当時はストライキがあって、飛行機を取ったのに電車が動かないこともありましたから。めっちゃストレスでした(笑)。
移動が楽になったのは、選手にとって大きいと思います。自分の体調についても、データの共有なんかなくて、自分で監督やGMに説明していました。
今のサポート体制を知ると、JFAも進化していて、選手にとって素晴らしい環境が整っているなと思います」
■W杯の戦いはすでに始まっている今月行なわれたE-1選手権、森保一監督率いる日本代表は初の連覇を果たしたが、メンバーはすべて国内組の選手を招集。JFAはW杯に向け、国内外、数多くのプレーヤーたちを吟味することにも余念がないと山本氏は語る。
「26人のメンバーを大会に呼ぶとなれば、100人規模のラージリストを作り、そのメンバーたちをサポートしていきます。そのため、欧州拠点のスタッフは、森保監督に代わって欧州現地視察を抜かりなく行なっています」
開幕まで1年を切ったW杯に備え、先述のメンバー視察をはじめ、JFAではすでにさまざまな準備を進めているという。山本氏は最後にその内容を話してくれた。
「例えば、テストマッチ。すでに多くの国に対して働きかけています。それと現地視察ですね。スタッフが何度も試合会場や環境などを見て回っています。アメリカについては、なでしこや五輪チームなどでの遠征経験もあります。日本の強みは〝準備力〟。組織立った早めの動きで本番に備えていきます」
ただ、W杯に向けて課題もある。それが新レギュレーションへの対応だ。山本氏は表情を引き締める。
「来年の大会から、32だった出場国が48に増え、合計試合数も64から104になります。となると、試合のデータ分析についても膨大な数字と向き合うことに。分析を担うアナリストの育成も急務でした。
現在は、4人のベーススタッフに加えて、東京大学や筑波大学の学生の協力も得ながら、情報収集やソフト開発などの作業において、約50人が関わっています」
出場国数が変わるだけではない。松井氏はW杯経験者として、来年の大会の難しさを次のように考える。
「そもそもW杯は親善試合やほかの大会とは、試合の強度も日程のハードさも全然違うんです。その上、来年はレギュレーションが変わって初めての大会で、何も予想ができません。3ヵ国開催というのも、移動距離や時差を考えると選手は大変だと思います。組織全体での準備がカギになるはずです。
例えば、メキシコで試合をすることになった場合、高地に特化したトレーニングも絶対必要です。
南アフリカも高地で、直前にスイスで1週間ほどの高地合宿を行ないましたが、実はこの準備がベスト16につながっていた。カメルーンなどはおそらく高地トレーニングをしておらず、明らかに動きが重くて、これはイケるなと思ったのを覚えています」
来年6月11日に開幕するW杯、日本代表は緻密な準備をもとに、大会を勝ち上がり、見事優勝トロフィーを掲げることができるのか。活躍に期待したい。
構成・文/高橋史門 撮影/山上徳幸
記事提供元:週プレNEWS
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