日本の地デジ放送の画質は悪い? 地上波を4Kテレビで視聴する意味はあるのか

2025年現在、家電量販店のテレビ売り場は4Kテレビが主役となり、8Kテレビも次世代の選択肢として存在感を増しています。
しかし、その一方で、多くの家庭で視聴時間が長いとされる「地上デジタル放送(地デジ)」と4Kテレビの相性は悪いのが現状です。
「最新の4Kテレビを買ったのに、地デジがなんだかぼやけて見える…」「以前のフルHDテレビの方が綺麗だった気がする」——。このような声は、決して少なくありません。
そこには、日本の地デジと最新テレビの技術仕様との間に存在する、明確な「ミスマッチ」が横たわっています。今回は「地上波を4Kテレビで視聴する意味はあるのか」を詳しく見ていきましょう。
日本の地デジの画素数は4Kに遠く及ばない

日本の地上デジタル放送の実際の解像度は、多くの放送局で1440×1080ピクセル、約155万画素で放送されています。これは、一般的にフルHDと呼ばれる1920×1080ピクセル(約207万画素)と比較しても、約75%の画素数しかありません。
つまり、地デジは完全なハイビジョン放送ではなく、「なんちゃってハイビジョン」と揶揄されることもあるのが現状です。当然、日本の地デジの画質は「4K」には遠く及びません。
具体的には、撮影された1920×1080の映像の横方向を1440ピクセルに圧縮して送信し、受信側のテレビで再び1920ピクセルに引き伸ばして表示するという処理が行われています。このため、一つひとつの画素は正方形ではなく、横長の矩形として扱われることになります。これが、フルHDテレビで視聴している分にはあまり気にならなかった画質の甘さの正体です。
4Kテレビで日本の地デジがぼやけるのはなぜ?
フルHDテレビでさえ本来の性能を発揮しきれていなかった地デジ放送を、さらに高精細な4Kテレビで表示すると、画質の粗さはより一層際立つことになります。そのメカニズムは、小さな写真を無理やり大きく引き伸ばすプロセスに例えると理解しやすいでしょう。
地デジ放送が持つ情報量(約155万画素)を、4Kテレビの巨大なキャンバス(約830万画素)に表示させるには、1つの元画素の情報を約5.4個分のスペースに広げなければなりません。これは、元の画素を単純に複製して隙間を埋めるようなもので、結果として映像全体がぼんやりとした印象になります。特に価格が安いモデルほど、この補正が弱く、映像がぼやける傾向が強いのです。

具体的には以下のような「画質劣化」が顕著になりやすいです。
・ぼやけ(ブラー):映像全体のシャープさが失われ、ピントが合っていないような眠たい画になります。特に、人物の肌の質感や風景のディテールが失われがちです。
・ジャギー(エイリアシング):斜めの線や輪郭が滑らかに表示されず、ギザギザの階段状に見えてしまいます。テロップの文字や建物の輪郭などで目立ちます。
・ノイズ:元映像に含まれる微細なノイズや、放送の圧縮過程で発生するブロックノイズが、引き伸ばされることでより目立つようになります。
4Kテレビのアップコンバート技術は地デジも綺麗に映すことができる?
いわば現行の地デジと4Kテレビの間には、画質のミスマッチがあると言えるでしょう。これを解消するために、現代のテレビに搭載されているのが「アップコンバート(Upscaling)」技術です。
アップコンバートとは、入力された低解像度の映像信号を、テレビ側の映像処理エンジンが解析し、4K解像度に変換・補正する技術のことです。高性能なアップコンバート技術は、映像をピクセル単位で分析し、「本来ここにはどのようなディテールがあったのか」「この輪郭はもっと滑らかであるべきだ」といったことを予測し、擬似的に高精細な映像を生成します。
そしてこのアップコンバート技術は「玉石混合」なのが現状です。もともと存在しない映像上の情報をアップコンバート技術で作り出すことには基本的には限界があるためです。
そのため安価な4Kテレビではアップコンバート技術も低レベルで、やはり映像がぼやける状態は変わりません。
一方で、一部の国内メーカーの4Kテレビではアップコンバート技術の研究が大きく進んでいるのもまた事実です。その代表格がソニー『BRAVIA』です。

ソニー『BRAVIA』は、いわば「データベース型超解像技術」のパイオニアです。これは、映像をパターン解析し、テレビ内部に蓄積された膨大な映像データと照合することで、最適な高精細化処理を行う技術です。例えば、「これは人の肌」「これは木の葉」といった具合に被写体を認識し、それぞれに適した質感やディテールを復元します。
この技術に基づいた人の肌や髪の毛の自然な質感、テロップなどの文字のクッキリ感には定評があり、「X-Reality PRO」は高性能補正技術の代表格として挙げられることが多いです。
このように「地デジが綺麗に見える」と高く評価されているモデルは高性能な映像エンジンを搭載した各メーカーの中~上位モデルであるのは明らかです。
地デジ視聴がメインの場合、4Kテレビを買う意味はある?
もしテレビ視聴時間のほとんどが地デジ放送で占められている場合、現時点で焦って4Kテレビに買い替える積極的な理由は見当たりません。これまで繰り返し述べたように、地デジ放送の画質はフルHDにすら満たない約155万画素です。この低解像度のソースを視聴する限り、4Kテレビが持つ本来の表示能力(約830万画素)を全く活かすことができません。
むしろ、アップコンバート性能が低い安価な4Kテレビを選んでしまうと、現在使用しているフルHDテレビよりも画質がぼやけて見え、満足度が低下するリスクさえあります。
そして、日本の地上波放送がHD画質から4K画質にシフトする見込みは2025年現在は当面立っていません。

その理由のひとつは「電波帯域の不足」です。4K放送はフルHDの約4倍のデータ量が必要となるため、同じ帯域で4Kの番組を増やすと、電波帯域が大きく圧迫されてしまいます。
放送設備の大規模更新という課題もあります。地上波4K対応には、送信設備やアンテナ、中継局など全国に張り巡らされたインフラを根本的に見直し、4Kに対応した新しい送信装置などを一斉に導入する必要があります。さらに視聴者側でも4K対応テレビやチューナー、場合によっては新たなアンテナ設置などの追加投資が必要です。この巨額の初期投資に対し、広告市場の伸び悩みや視聴率分散もあり、放送局にとって投資回収の見通しは非常に厳しい状況です。
さらに、事業環境の変化も大きな要因です。近年テレビ局は、TVerなどインターネット配信サービスに経営資源をシフトさせており、放送設備への投資よりもネット配信強化を重視しています。画質向上だけで大きく広告収入が伸びる保証がないことも、設備刷新への消極姿勢につながっています。
地上波の4K化が当面見込めない以上、4Kテレビ購入に対して「将来のため」という理由もあまり現実的ではないでしょう。
もし、現在使っているテレビが故障したなどの理由でどうしても買い替えが必要な場合は、単に「4K」というスペックに惑わされず、「アップコンバート性能に定評のあるメーカーの上位モデル」を慎重に選ぶことが絶対条件です。そうでなければ、今のフルHDテレビを大切に使い続けるか、あるいは高品質なフルHDテレビを探す方が、コストパフォーマンスの面で優れた選択となる可能性もあります。
※サムネイル画像は(Image:「photoAC」より)
記事提供元:スマホライフPLUS
※記事内容は執筆時点のものです。最新の内容をご確認ください。