新横綱・大の里は伝統的稽古で最強に。名古屋場所では期待の新入幕力士も!!
横綱として名前が載った名古屋場所の番付表を手にする大の里。名古屋場所では横綱での初優勝で、3場所連続優勝なるか
7月13日、大相撲名古屋場所が名古屋市北区のIGアリーナ(愛知国際アリーナ)で初日を迎えた。前売り券は、発売後すぐに15日間の全席が完売。そんな場所で注目を集めているのは、新横綱に昇進した大の里(25歳、二所ノ関部屋)だ。
初土俵から13場所での横綱昇進は、昭和以降で史上最速。現在の年6場所制が確立された1958年(昭和33年)以降では、73年夏場所の後に昇進した輪島の「21場所」を大幅に更新する超スピード出世で最高峰に駆け上がった。
新横綱は6月30日、愛知県安城市内の二所ノ関部屋宿舎で行なわれた番付発表の記者会見に臨み、「立場が変わっていろいろ変わってくることもありますけど、15日間しっかりやるべきことをやって、自分なりに目標を掲げて一日一番集中して頑張っていきたいと思います」と落ち着いた口調で述べ、新横綱場所での優勝を見据えた。
長い大相撲の歴史を塗り替え続ける男は、経歴を振り返るだけでも規格外だ。
本名・中村泰輝は、2000年6月7日に石川県津幡町(つばたまち)で生まれた。小学校1年のとき、父・知幸さんがコーチを務める津幡町少年相撲教室で相撲を始める。アマチュア相撲の力士だった父の薫陶(くんとう)を受けて徹底的に下半身を鍛え上げると、中学で相撲をさらに磨くため、新潟県の糸魚川市立能生中へ〝相撲留学〟して親元を離れた。
その後、同じ新潟県の強豪・海洋高校から日体大に進学すると一気に才能が開花。190cm、170kgを超える体格を生かし、1年時に国体の「青年の部」で優勝すると、学生選手権も制して学生横綱に輝いた。さらに3、4年時には全日本選手権を連覇し、2年連続でアマチュア横綱という栄冠を手にした。
そんな輝かしい実績を引っ提げ、大相撲の世界に入ったのは23年。現役時代に誠実な相撲を貫いた、憧れの元横綱・稀勢の里が師匠を務める二所ノ関部屋に入門。四股名は、大正時代から昭和初期にかけて活躍した大関「大ノ里」にあやかり、「大の里」に決まった。
同年夏場所、規定により幕下10枚目格でデビュー。幕下を2場所で通過して秋場所で新十両に昇進し、24年初場所で新入幕を果たす。
新三役に昇進した夏場所では、初土俵からわずか7場所で初優勝し、秋場所でも賜杯を抱いて大関昇進を決めた。このときはまだ大銀杏を結えず、前代未聞の〝ちょんまげ大関〟としても話題に。そして、今年の春場所で3度目の優勝。さらに夏場所も制して横綱に駆け上がった。
小学校の頃から鍛え上げてきた強靱な下半身による立ち合い、そこから得意の「右四つ」に持ち込んで相手を制する
強さの秘密は、巨体を存分に生かした立ち合いでの突進力にある。得意は「右四つ」だが、立ち合いの出足と圧力で一気に相手を土俵の外まで吹っ飛ばすほどの馬力が武器だ。その出足は、子供の頃から積み重ねてきた稽古のたまものだ。
二所ノ関部屋に入門してからは師匠の教えを受け、四股、鉄砲、すり足の伝統的な稽古を徹底。こうした地道な日々の努力で手に入れた強靱な下半身が、大の里を支えている。
その姿勢は、横綱に昇進しても変わらない。番付発表会見では「親方の方針が、『横綱になったから稽古場に遅く降りるのではない』なので。今までどおり、若い衆と一緒に基礎・基本、四股からやっていたので、私生活や稽古場でも横綱になった実感は自分でもないんですが、今後も継続して結果を残していきたいと思います」と、慢心なく3場所連続優勝へ意気込みを語った。
また、24年1月の能登半島地震から復興に時間がかかっている故郷を勇気づけたい、という気持ちも支えとなっている。番付発表の前日となる6月29日には、津幡町で横綱昇進パレードが行なわれた。
町の人口とほぼ同じ3万7000人から祝福を受け、「横綱になって初めて津幡町に帰り、たくさんの方に集まっていただいて本当にうれしかったです。大変な状況が続いていますが、自分の活躍で石川県が元気になってくれればうれしい」と決意を語った。
名古屋場所は、昨年まで愛知県体育館で行なわれていたが、今年から新たにオープンした「IGアリーナ」へと会場を移した。新たな会場での新横綱場所と、〝大相撲新時代〟を象徴する7月になったが、新たな活躍が期待される、新入幕の2人に注目したい。
まずは東前頭14枚目の草野(24歳)。日大時代に学生横綱に輝くなど多くのタイトルを獲得し、25年6月に元横綱・照ノ富士が新たに師匠となった伊勢ヶ濱部屋に、昨年入門。今年の春場所、夏場所で十両を制し、わずか7場所で幕内に昇進した。
得意の右四つを生かした粘り強い相撲が特徴の新鋭は、番付発表の会見で「立ち合いから、自分の形にならなくてもしっかり前に出て押し切る相撲が増えたのが、勝てている理由だと思っています」と胸を張った。出世が早く、先場所まではザンバラ髪、今場所からちょんまげを結う。
部屋では24年春に、新入幕だった尊富士(たけるふじ)が優勝する快挙を達成していることも踏まえ、「新入幕で活躍した兄弟子も多いので、それに続けるよう頑張ります」と旋風を起こすことを誓った。
さらに、20歳で新入幕を果たした若碇改め藤ノ川(伊勢ノ海部屋)も楽しみな存在だ。
父は元幕内の大碇(現甲山親方)。高校相撲の名門・埼玉栄を卒業し、23年初場所で初土俵を踏んだ。176cm、119kgと小柄ながら、スピードを生かした取り口に定評があり、今場所からは部屋に代々伝わる四股名、藤ノ川に改名。「伝統のある名前でありがたい気持ちです。プレッシャーに感じず、自信に変えて相撲を取りたいですね」と初々しく抱負を明かした。
新横綱の大の里、新星たちの快進撃も期待される名古屋場所は、千秋楽まで目が離せなくなりそうだ。
取材・文/松岡健治 写真/アフロ
記事提供元:週プレNEWS
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