映画館での映画鑑賞は時代遅れ?広がる「映画以外の用途」での映画館活用

近年、NetflixやAmazonプライム・ビデオといった動画配信サービスの急速な普及、そして個々のライフスタイルの多様化に伴い、「映画館で映画を観る」という体験そのものの位置づけが大きく変化しています。
かつては「娯楽の王様」であった映画館ですが、手軽にどこでも映像コンテンツを楽しめるようになったいま、「映画館はもはや時代遅れなのだろうか?」と思ってしまう方もいるのではないでしょうか。
実際、地方の小中規模の映画館は苦境を強いられています。たとえば筆者が中高生時代によく通っていた、地元の中規模映画館は今年の夏に閉館予定で、併設されていたアミューズメント系の施設も先んじて閉鎖済みです。
しかしこのような状況下でも、映画館はその存在意義を問い直し、新たな活路を見出そうとしています。
本記事では、映画館が単なる「映画上映施設」という枠組みから脱却した上で、音楽ライブや演劇のライブ・ビューイング、企業や地域のイベントスペース、さらには講演会やセミナーの会場など「映画以外」の用途でどのように活用されているのか、具体的に見ていきましょう。
映画館の苦境と広がるVODでの独占配信・新作視聴
Netflixに代表される動画配信サービス(VOD)が普及し、映画視聴スタイルが根本から変わったと言っていいでしょう。月額定額制で膨大な作品を手軽に楽しめるVODは、特に若年層を中心に急速に普及。自宅で好きな時間に、好きな作品を、誰にも邪魔されずに鑑賞できるという利便性で、映画館から足が遠のいたという人も少なくないでしょう。
実際、動画配信サービスは独占配信や新作映画の配信にも積極的です。

たとえば2025年4月にNetflixでのみ公開された映画「新幹線大爆破」は、配信開始から1週間後の非英語映画の週間グローバルチャートで全世界2位を記録。日本を含めた4つの国と地域で1位を獲得しています。
JR東日本が全面協力したこともあり、撮影には本物の新幹線が使われたことも話題に。もはや映画が映画館だけのものではないと思わせるクオリティと人気が注目を集めました。
新型コロナでの「習慣の変化」が追い打ちをかけた一面も

追い打ちをかけたのが、新型コロナウイルスによるパンデミックです。長期にわたる映画館の休業や入場制限、そして「三密」回避の意識の高まりは、観客の映画館離れを加速させました。
また、コロナが終息した後も、完全に元通りにはならないのが「人々の習慣」です。たとえば日本映画製作者連盟が2025年1月に発表した2024年 (令和6年) 全国映画概況によると、国内興行収入は2,069億円。コロナ前の2019年が2,611億円から20%減少したことになります。
映画館に通う習慣が消えてしまった方々の中には、アフターコロナに移行しても「VODで十分だし、きちんと新作も視聴できるから満足」という方が一定数いるでしょう。こうした「習慣の変化」はアフターコロナのいまでも、映画館の経営をじわじわと圧迫している事項だと言えます。
映画興行収入への「依存」にすでに限界が来ている?

一過性の出来事とはいえ、映画コンテンツの供給不足が映画館にじわりとダメージを与えている面もあります。たとえば、2023年に発生したハリウッドでの脚本家組合と俳優組合のダブルストライキで、多くの映画製作・公開スケジュールが遅れました。
新作映画の安定供給は、映画館の集客における生命線であり、公開予定の延期は経営に直結します。こういった外部要因の変化も、映画館の経営に深刻な影響を与えています。
たとえば、日本版CNC設立を求める会による「映画館の経営状況と今後についてのアンケート」によると、全国のミニシアターの約68%が経営状況について「とても悪い」「悪い」「やや悪い」と回答したとのこと。
さらに11.5%のミニシアターが今後1年間に閉館を検討する可能性が「ある」と答えています。
つまり地方の映画館のみならず、独自の作品選定で文化的多様性を支えてきたミニシアターも観客動員数の伸び悩みに苦しんでいます。つまり、「一時的な供給不全や動員の落ち込みがあっても、耐える余力があるシネコン」以外の映画館の苦境が鮮明だと言えます。
広がる「映画以外」での映画館活用

映画館ではいま、映画鑑賞以外の使い道も検討されています。たとえばコンサート映像のライブ・ビューイングもそのひとつ。さらに109シネマズでは劇場を貸し切ってイベントを行うことも可能となっています。
ライブ・ビューイングでの活用

映画館の「映画以外」の活用法としてもっとも注目を集めているのが、ライブ・ビューイングです。これは音楽ライブ、演劇、スポーツ、アニメイベントなどを映画館のスクリーンで同時中継またはディレイ(録画)上映するものです。
たとえばライブ・ビューイング・ジャパンが発表した「ライブ・ビューイングに関する実態調査」(2024年12月発表データ)によると、実際にライブ・ビューイングを参加した人は、「実際の会場に近い臨場感を味わえた」(47.3%)、「大音響空間で没入できた」(44.8%)といった、映画館ならではの大画面・大音響によるポジティブな感想を持っているとのこと。
また、ライブ・ビューイングのジャンルも多岐にわたります。J-POPやK-POPアーティストのコンサート中継は定番人気ですが、その他にも2.5次元ミュージカル、宝塚歌劇、さらにはスポーツ中継も行われています。
イベント・スペースとしての活用

映画館のシアターを貸し切り、企業や団体がさまざまなイベント会場として利用する「シアターレンタル」も活発化しています。具体的な企業イベントは、新製品発表会、プレス発表会、社員・取引先向けの新ブランド説明会などがあるでしょう。
映画館をイベント会場として利用するメリットとしては「映画本編と同じ大スクリーン、音響といった最高の映像設備を利用できる」「数十名から数百名まで、収容人数に合わせたシアターを選べる」「大都市の主要ターミナルエリアはもちろん、地方でもアクセスのよい絶好のロケーション」「映画館仕様の座席で長時間のイベントでも疲れにくい、飲食売店の利用も可能」などが挙げられます。
地域貢献・コミュニティ形成の場としての活用
映画館は、単にエンターテインメントを提供するだけでなく、地域社会への貢献やコミュニティ形成の拠点としての役割も担い始めています。
たとえば、NPO法人AYAは2025年3月から6月にかけ、全国の25箇所の映画館で、病気や障がい、医療的ケアが必要な子どもとその家族を対象に『映画ドラえもん のび太の絵世界物語』を鑑賞するイベントを開催。5,082名を動員したと発表しています。
「映画以外の用途」は映画館にとって大きな市場だと言えるのか?

映画館は基本的にチケット売上のうち一定割合を配給会社と分け合う形で収益を上げています。実際、帝国データバンクの「レポート映画業界の動向と展望」(2025年2月)にも、「興行収益は一般的に興行収入(興収)の50%ずつを興行会社と配給会社が受け取り、配給側の興収50%から配給手数料(10~30%)を引いた額が制作に分配される」と記載されています。
一方、このモデルはヒット作の有無に収益が大きく左右される不安定さを抱えていると言えるでしょう。
そこで重要になるのが、やはりライブ・ビューイング等の事業の強化でしょう。先ほども触れた映連の「2024年 (令和6年) 全国映画概況」によれば、映画以外のデジタルコンテンツ(ODS)の興行収入は1年間で約247億円。一定の市場規模を形成しており、映画館の新たな収益の柱として期待されています。
ただし、ライブ・ビューイング等の事業の数百億円という市場規模は、小さいわけではないものの「大きい」とも必ずしも言えないでしょう。先ほどもご紹介した通り、国内興行収入は2,069億円。247億円は全体の1割強であるため、ライブ・ビューイングの売上は映画館業界にとって「副業くらい」のサイズ感だと言っても過言ではありません。
「映画以外」のコンテンツを提供することは、従来の映画ファン以外の層、たとえば特定のアーティストのファン、イベント参加者、セミナー受講者などを映画館に呼び込む機会となります。これにより、新たな顧客層を開拓し、映画館の利用頻度向上に繋げることが期待できます。 顧客との継続的な関係構築も重要です。
仮に今後、「映画以外」に映画館業界が活路を見出すとしてもイベント企画・運営、デジタル技術の活用、地域連携などを推進できる専門知識を持った人材の確保と育成などは大きな課題となるでしょう。
映画館は優れた音響設備と、長時間滞在しても疲れづらい優れた空間設計を持ち合わせています。映画館は、単に「映画を観る場所」という伝統的な役割から大きく飛躍し、ライブ・ビューイングの興奮を共有する場、多様なイベントが開催される多目的スペース、そして地域コミュニティがつながる拠点へと、その姿をダイナミックに変えつつあります。
映画館が提供する「集い、共有し、体験する」という価値は、デジタル化が進む現代において、むしろその希少性を増しているのかもしれません。
ただし、この進化を持続的なものとするためにはコンテンツホルダー、配給会社、興行会社、そして観客が一体となって、映画館文化の未来を支えていく必要もあるでしょう。
※サムネイル画像は(Image:「photoAC」より引用)
記事提供元:スマホライフPLUS
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