ひろゆきが睡眠学者・柳沢正史に聞く、眠りについての本当の話⑯「『ポケモンスリープ』の監修や 『あすけん』とのコラボでわかったこととは?」【この件について】
「寝不足になると食欲を増進させるホルモンが増え、摂取カロリーが増えてしまうんです」と語る柳沢正史先生
ひろゆきがゲストとディープ討論する『週刊プレイボーイ』の連載「この件について」。睡眠学者の柳沢正史先生を迎えての最終回は、柳沢先生が睡眠ゲームアプリ『ポケモンスリープ』の監修をしたり、食事管理アプリ『あすけん』とコラボしたりしてわかった、いろいろなことについてのお話です。
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ひろゆき(以下、ひろ) そういえば、柳沢先生は睡眠ゲームアプリ『ポケモンスリープ』の監修もされていますよね。
柳沢正史(以下、柳沢) はい。『ポケモンスリープ』を続けているユーザーは、3ヵ月で平均1時間10分も睡眠時間が増えたというデータがあるんですよ。
ひろ 睡眠時間の少ない日本人がですか(笑)。それはすごい。
柳沢 ええ。だから「日本人もやればできるじゃん」と思いました(笑)。あのゲームはうまくできていて、「長く寝れば寝るほど」「規則正しく寝れば寝るほど」スコアが高くなるように設計されているんです。で、これは私が監修を依頼された際に、絶対条件として要求したポイントでもあります。
ひろ なるほど。先生のこだわりだったんですね。
柳沢 監修の依頼は本当に突然でした。ある日、株式会社ポケモンの代表の方が私の研究所を訪ねてこられて、『ポケモン GO』が大ヒットしたので「歩きの次は眠りを考えている」と言うんです。で、「睡眠をテーマにしたスマホゲームを作りたいから手伝ってほしい」と。でも正直に言うと最初は「ふざけるな!」と思いました。
ひろ というのは?
柳沢 だって、スマホゲームなんて、子供たちが夜更かしする最大の原因じゃないですか。だから、「ご冗談でしょう?」と(笑)。
ひろ 確かに。寝る前にスマホゲームを始めたら、よけいに眠れなくなりますよね。
柳沢 でも、彼らは非常に真剣で、「そうじゃないんです。私たちは、子供たちがよく眠るようになる革新的なスマホゲームを本気で作りたいんです」と熱弁するわけです。そこまで本気で言うのであればと私も考えを改めて、「とにかく長く眠れば眠るほどスコアが上がること」、そして「土日も含めて毎日規則的な時間に眠るほど良い評価が得られること」というふたつの条件を提示しました。
ひろ 先ほどのやつですね。
柳沢 はい。このふたつは睡眠において非常に重要なので「必ず実装してください」と。そうしたら「わかりました!」となりました。
ひろ 『ポケモンスリープ』のユーザーの睡眠時間が延びたというデータは、先生のこだわりのたまものだったんですね。
柳沢 ですから、このゲームが世に出て多くの方に使っていただき、実際に睡眠が改善しているというデータを見ると感慨深いものがあります。
ひろ そうでしょうね。
柳沢 データでいえば食事管理アプリの『あすけん』ともコラボしているんですよ。『あすけん』も非常に多くのユーザーがいますから、両方のアプリを使っている人を抽出して、データを共同で分析してみたんです。すると、非常に興味深い相関関係がいくつか見えてきました。
ひろ どんなことがわかったんですか?
柳沢 「摂取カロリーが多い人は、睡眠時間が短い」という傾向がはっきりと出たんです。これは5000人近くのユーザーを対象にした研究なので、あくまで相関関係ではありますが非常に面白い結果です。
ひろ どんな因果関係があるんだろう?
柳沢 実はこれ、睡眠研究の世界ではすでに知られている現象で、原因は「睡眠」にあることまでわかっています。つまり、寝不足になると、食欲を増進させるホルモンの「グレリン」が増え、食欲を抑制するホルモン「レプチン」が減るため、結果として摂取カロリーが増えてしまうんです。よく、「寝る子は育つ」と言いますよね。
ひろ はいはい、昔から言われていますよね。
柳沢 あれは深いノンレム睡眠中に成長ホルモンが分泌されるので、文字どおり科学的な事実なんです。そして、この言葉には下の句があると私はよく言っています。それは「寝ない大人は横に育つ」です。これも疫学的に明らかで、睡眠不足だと肥満傾向になりやすい。メタボ気味の人に睡眠時間を確保してもらうだけで、症状が改善するという介入試験の結果も報告されています。
ひろ ということは「ダイエットしたいなら、しっかり寝たほうがいい」と言えるわけですね。
柳沢 そうです。これは両方のアプリを最低90日以上使っているユーザー約2000人を調査した結果としてわかったことですが、『ポケモンスリープ』を使い続けると多くの人の睡眠は改善します。
ひろ はい。
柳沢 その中でも改善度合いには個人差があるので、睡眠の改善度が大きいグループと小さいグループに分けて体重の変化を比較したんです。すると睡眠がより大きく改善したグループのほうがBMI(肥満度を表す体格指数)の減少幅が2倍近くも大きかったんです。
ひろ 2倍も! ということは、怪しげなダイエットサプリを使うくらいなら、『ポケモンスリープ』を使って、ちゃんと眠る習慣をつけたほうが効果的かもしれませんね。
柳沢 その可能性は非常に高いと言えるでしょうね。
ひろ で、今回が柳沢先生との対談がラストということで、編集さんからお互いの感想を教えてほしいと言われています。
柳沢 ひろゆきさんはどうでしたか?
ひろ 知らない話ばかりで驚きの連続でした。「睡眠は大事」という科学的な根拠があるのにもかかわらず、日本社会は睡眠を軽視しがちで、構造的にも〝眠りにくい国〟になってしまっている。その現実とのギャップが、なんとも大きいなと感じました。
柳沢 ええ。今の日本は、国全体がまるで〝思考停止〟に陥っているかのように感じることが多々あります。
ひろ その思考停止の原因が、そもそも国民全体の睡眠不足にあるのかもしれないですけどね(笑)。
柳沢 ははは(笑)。本当にその悪循環だと思います。ひろゆきさんの印象は、いまさら私が言うまでもありませんが、本当に物事の核心を突く方だなと感心しました。質問がすべてピンポイントで、さすがです。......ああ、最後にひとつだけ思い出しました。実はひろゆきさんとは不思議なご縁があるんですよ。2000年頃に、当時の『2ちゃんねる』に「柳沢って誰だ?」「柳沢正史先生の降臨を待つスレ」というスレッドが立ったことがあります。
ひろ まじすか!(笑)
柳沢 で、そのスレッドに本人として書き込んだことがあるんです。
ひろ あ、先生ご本人が書き込まれたんですか! それはそれは、当時からお世話になっていたんですね(笑)。
柳沢 そのスレッドには、サイエンスについてかなり真面目にいろいろと書き連ねた記憶があります。もし、ご興味があれば後でまとめサイトをぜひ読んでみてください。読者の皆さんもぜひ。
ひろ というわけで、柳沢先生との対談はこれにて終了です。では皆さん、まずはしっかり眠りましょう。僕も寝ます(笑)。
柳沢 はい。とにかく眠ることの重要性をひとりでも多くの人に知ってもらえたらうれしいです。ありがとうございました。
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■西村博之(Hiroyuki NISHIMURA)
元『2ちゃんねる』管理人。近著に『生か、死か、お金か』(共著、集英社インターナショナル)など
■柳沢正史(Masashi YANAGISAWA)
1960年生まれ、東京都出身。筑波大学国際統合睡眠医科学研究機構機構長・教授。1998年に睡眠・覚醒を制御する物質「オレキシン」を発見。監修した本に『今さら聞けない 睡眠の超基本』(朝日新聞出版)などがある
構成/加藤純平(ミドルマン) 撮影/村上庄吾
記事提供元:週プレNEWS
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