【ピエール瀧の「萌え萌やしソバ探訪録」】5杯目「あの文豪が愛した麺は、こだわりがかなりすごかった!」
今回訪れたのは神保町の「揚子江菜館」
これは"もやしソバ"を食べ歩く連載です。もう一度言います。"もやしソバ"を食べ歩く連載です。......でも、時々ズレちゃうこともあるんです。だから、広い心で見守ってください。お願いします。
***
――いやー、暑くなってきましたねー。ということで今回は、東京の神田神保町にある「揚子江菜館」に来ています。
ピエール瀧(以下、瀧) ん? これはどういうこと? 入り口の看板に「元祖冷やし中華」って書いてある。
――そうなんです。揚子江菜館は、冷やし中華発祥の店といわれているんです! 楽しみですね。
瀧 何言ってんの。冷やし中華は食べないよ。連載のタイトルどおり、今回も当然のごとくもやしソバを頼むから。5回目でブレるの早いって。
――......わ、わかりました。じゃあ、お店に入りましょう。
瀧 おじゃまします。わあ、円卓だよ。なんか高級感がある。あれ、ちょっと待てよ。あそこの壁に張ってあるのが気になるんだけど。
――メニューには、「元祖冷やし中華 五色涼拌麺(1680円)」って書いてありますね。
瀧 「池波正太郎セット 文豪 美食家 池波正太郎 こよなく愛する料理で免疫力を高めよう」だって。作家の池波正太郎先生が、この店で食べてたってこと? あと常連感も感じる。
これが「池波正太郎セット」
――あ、メニューにもやしソバが載ってますよ。「豆芽湯麺」って書くんですね。
瀧 メニューにも「池波正太郎の大好物 上海炒麺(上海式肉焼きそば・1380円)」って書いてある。池波先生は、この店の上海式肉焼きそばが好きだったのか。
――じゃあ、いつものようにもやしソバを注文しましょうか。
瀧 あのさ、もやしソバはもちろん注文するよ。でも、池波先生の感じも味わってみたくない?
――冷やし中華はどうします?
瀧 確かに、ここは冷やし中華発祥の店かもしれないよ。でもさ、グルメ作家でもある池波先生が愛した上海式肉焼きそばが、どんなものか味わってみたいじゃん。
――まあ、それはそうですけど。
瀧 はい、決定。すいませーん!
店員さん はい。
瀧 もやしソバをひとつ。あと、池波先生と同じやつもひとつお願いします。
店員さん 上海式肉焼きそばですね。わかりました。
――ちなみに、池波正太郎さんは『鬼平犯科帳』シリーズなどで知られる時代小説家で、美食家としても有名です。そんな池波正太郎さんの大好物だった上海式肉焼きそばともやしソバが......なんと、今、やって来ました!
「もやしそば」(1380円)
瀧 驚愕! ちょっと待ってよ。もやしソバと上海式肉焼きそばの色みと見た目が、ぱっと見一緒じゃん。もやし、タマネギ、キクラゲ......ほぼ同じ材料を使ってるよ。
――本当にそうですね。
瀧 これ、見た目だけで言うと、もやしソバは「汁あり上海式肉焼きそば」とも言えるし、上海式肉焼きそばは「汁なしもやしソバ」とも言えるよ。
――確かに!
瀧 なんという奇跡! これは、もやしソバを追い求めている俺たちに池波先生がくれた何かのヒントかもしれない。
――まさか「もやしソバの祖先は、上海式肉焼きそばだった」なんてことはないですよね。
瀧 それは、まだわからない。でも、おいおい考えていこう。では池波先生、いただきます!
――......いただきます!
瀧 まずはもやしソバからね。麺は細麺に近いね。そして、麺がすごくうまい。コシがある! これはうまいわ!
――すごくおいしいです!
瀧 具はもやし、細切りの豚肉、タマネギ、キクラゲ。それらをトロみのあるアンでまとめてるんだけど、アンがそこまでトロトロしてない。なのにまとまりがある。スープは透き通っていて、あっさり。すごくシンプルな味。
――上品な感じがします。
瀧 で、次は上海式肉焼きそばね。うん、こちらもやっぱり主役は麺ですな! 麺が抜群にうまい。麺の味が飛び込んでくるよ。で、味のシンプルさは、こっちのほうが上かもしれない。池波先生はたぶん、この麺の感じを楽しんでいたんじゃないかな。
「上海式肉焼きそばの主役は麺! 麺が抜群にうまい」
――なるほど!
瀧 おそらく、池波先生はお酒を飲みながら食べていたと思うから、上海式肉焼きそばだと麺が伸びないんだよ。いやー、なんかすごいことになってきてるな。勝手に文豪気分だよ。
――あ、店主の沈松偉さんです。
店主の沈松偉さん(以下、沈) お味はいかがですか?
瀧 どちらの料理もひと口目から麺がすごくおいしかったです。
沈 ありがとうございます。上海式肉焼きそばの麺は、生麺をゆでて一度寝かすんです。そして、下味をつけて焼いて、注文が入ったらもう一度焼く〝二度焼き〟をしているんです。
瀧 なんと二度焼き! すごい手間がかかってるんですね。麺が主役に感じるのは、そういうことだったんですね。あと焼きそばももやしソバも具材にタマネギが入っていましたよね。やっぱりタマネギが入ると歯応えが足されますね。
「麺を二度焼きするなんて、すごい手間がかかってるんですね」
沈 はい。あと、うちは白菜も入れているんですよ。
瀧 え、全然気がつきませんでした。それはやはり歯応え重視で?
沈 もやし、タマネギ、白菜の3種類の具材が入ることで、食感や香りが豊かになるんです。
瀧 なるほど。もやしソバのスープもあっさりしてるのに印象深かったです。
沈 スープは豚骨ベースなんですが、透き通ったスープを作るのは大変なんです。沸騰させない状態をずっとキープしています。そして、一回火を落として温度が下がったら味が変わってしまうので、翌日は使いません。
瀧 マジすか。すごいこだわりですね。そういうところを池波先生もわかっていたんでしょうかね。
――もし、お店に来た人がもやしソバと上海式肉焼きそばのどちらかしか選べないとしたら、瀧さんはどっちをオススメしますか?
瀧 「迷わず上海式肉焼きそばを頼みたまえ」とだけは確実に言えるね。もやしソバには悪いけど(笑)。
***
■揚子江菜館
東京都千代田区神田神保町1‐11‐3
03‐3291‐0218
※営業日時、メニュー、価格などは変更になる場合があります
※この連載は隔号で掲載予定です
※おいしいもやしソバなどの情報は【moemoyashisoba@gmail.com】まで
■ピエール瀧(ぴえーる・たき)
1967年生まれ、静岡県出身。ミュージシャン、俳優、声優、タレント。
「無駄こそ宝なり」が信条。好物はもやしソバ。
公式Instagram【@pierre_taki】
構成/TAKA-HO
記事提供元:週プレNEWS
※記事内容は執筆時点のものです。最新の内容をご確認ください。