アジアン・ヤング・ジェネレーション2~ボルネオ島(1)【「新型コロナウイルス学者」の平凡な日常】
エチオピアのアディスアベバから帰国して2週間。次の旅は「ジャングルツアー」! ちなみにこれは、見渡すかぎりのオイルパームのプランテーション。
エチオピアからの帰国後、謎の胃腸の不調に悩まされる日々が続く。次の旅先は、マレーシアのジャングル地帯。不安な旅の幕開けとなった。
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■日本人の腸内細菌を殲滅させる"なにか"エチオピアのアディスアベバ(118話)から帰国し、次の出張までの2週間ほどの時間を東京で過ごす。
ドイツからスイス、そしてエチオピアに至る旅(108話)の最中にはまったくの正常だった私の胃腸であるが、帰国した翌日にひどい下痢をした。帰国してすぐに食べた生魚がよくなかったのかとも思ったのだが、胃腸の不調がなかなか治らない。お腹に激痛が走るわけではなく、ただただゆるい、妙な色とにおいの便が1週間以上も続いた。
――これはさすがにおかしい。生魚にあたったくらいで、胃腸の不調がダラダラと1週間も続くものだろうか?
......もしや、と思い、アディスアベバ(117話)に同行したポスドク(博士研究員)のUに、からだの具合を訊いてみる。するとやはり。彼も帰国後に、まったく同じような症状が続いているというではないか。
しかし一方で、同じくアディスアベバに同行した、フィリピン人大学院生のJはまったくの無事のようである。つまり話を総合すると、私の胃腸の不調の原因はおそらくエチオピアの食事にあって、それは日本人の胃腸に特異的に作用するようである。
納豆や味噌で育まれた日本人の腸内細菌を特異的に殲滅する抗生物質のようなものが、アディスアベバで口にした食事の中に含まれていたのだろうか?
■「次の旅」に同行するチーム前年(2023年)のエクアドルのキト(58話)、2週間前のエチオピアのアディスアベバ(115話)に続き、次の旅もまた、赤道直下への旅となる。
キトとアディスアベバはどちらも高地だったので、涼しくて過ごしやすく、酷暑に悩まされるようなことはなかった。しかし今回は違う。次の旅の目的地は、赤道直下の「ザ・熱帯のジャングル」である。
私のラボから同行するのは、数ヵ月前にオーストリアのウィーンで開催されたドイツウイルス学会(97話)にも参加した大学院生のF。そしてさらに、2023年末に香港(76話)で会った、香港大学のトミー・ラム(Tommy Lam)博士の研究チームも同行する。
実は、2023年末の香港での打ち合わせ(76話)は、今回の「ジャングルツアー」を実現するための布石だったのである。そこで意気投合し、将来の共同研究の可能性に手ごたえを得た私たちは、それを実行に移すための連携を始めた。
トミーは、私との共同研究につながる、フィールドネットワークとのつながりを持っている。一方で私のラボには、共同研究を実施するための実験技術がある。それらを組み合わせて、新しい研究を一緒に立ち上げよう、というわけである。
それを実現するためにはまず、トミーがすでに築いているフィールドネットワークが不可欠。そして、ジャングルのど真ん中にある「フィールドセンター」という施設で、研究を滞りなく実行するための技術を、そこに常駐するトミーの研究チームのメンバーたちに伝授する必要がある。
この年(2024年)の4月、トミーとそのラボメンバーは、その技術を習得するために、東京・白金台にある私のラボを訪れた。トミーに同行したふたりの大学院生、カーホンとヤンは、今回私たちが赴く予定の、「フィールドセンター」に常駐するメンバーである。
(左)左から、ヤン、トミー、私のラボの大学院生のF、カーホン。(右)ちょうど桜の季節と重なっていて、カーホンとヤンは、上野公園の満開の桜を満喫した。
カーホンとヤンは、私のラボに数週間滞在し、「フィールドセンター」での研究に必要な実験技術を習得した。そして彼らは、在京中に私のラボメンバーたちと仲良くなり、上野公園の桜を見たりしながら、日本と香港の絆の萌芽のようなものを築いてくれた。
■「○曜どうでしょう」?今回の「ジャングルツアー」が決まると、私と大学院生のFは、さっそくあるテレビ番組をNetflixで見直すことにした。
その番組とは、大泉洋と、「ミスター」こと鈴井貴之、そして、個性あふれるディレクター陣の4人がドタバタ劇を繰り広げる「水曜どうでしょう」。その数あるエピソードの中から私たちが選んだのは、「マレーシアジャングル探検」。
――そう、私の次の旅、すなわち「ジャングルツアー」の行き先は、トミーのフィールドネットワークのひとつである、マレーシアのジャングルである。
海外出張の際、最近ではほとんど機内のビデオの類を見なくなった私である(その理由は単純で、普段からAirPodsをつけることに慣れてしまって、ヘッドフォンを装着するのが億劫になったから)。
しかしそんな中でも、機内食を食べながら惰性で垂れ流しているのが「水曜どうでしょう」である(その理由もやはり、ヘッドフォンを着けて音声を聴かなくとも、映像だけで話の内容がだいたい理解できるから)。
「水曜どうでしょう」の「マレーシアジャングル探検」といえば、過酷を極める動物観察小屋「ブンブン」での一夜や、嬉野ディレクターの「シカでした」事件があまりにも有名である。
しかし、出発直前のゴールデンウィークにこのエピソードを改めて見返したとき、私はある事実を知り、愕然とする。それは、マレーシアのジャングルの暑さでも、「ブンブン」の過酷さでも、出演陣の立ち回りの滑稽さでもない。
――この「マレーシアジャングル探検」というエピソードは、主演である大泉洋も体調を崩していて、下痢を催す中で始まっていたのである。
エチオピアから帰国して2週間。今や紅白歌合戦の司会も務め、大河俳優にまで上り詰めた大俳優の大泉氏よろしく、私の胃腸は結局回復に至ることのないまま、マレーシアへと旅立つこととなった。
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文・写真/佐藤 佳
記事提供元:週プレNEWS
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