本当に怖いのは人か?ヴァンパイアか?別次元のホラー大作降臨 『罪人たち』
飯塚克味のホラー道 第125回『罪人たち』

昨年から公開されていたライアン・クーグラー監督の新作『罪人たち』の予告編を見た時は、正直、どんな映画だかさっぱり分からず、面喰ってしまった。ギャングの抗争ドラマのようで、人種問題を扱った社会的なドラマにも見えるし、ホラー的な要素も散りばめられている。全米最大の映画情報サイトIMDb(インターネットムービーデータベース)にはジャンル分けの区分で明確にホラーを謳っている。結果的に、どの要素も含んだホラーアクションだったのだが、これがとんでもない作品に仕上がっていた。
物語はシカゴから南部ミシシッピ州の田舎町に戻ってきた双子の兄弟スモークとスタックが、仲間を集めて古びた製鉄所を酒場にして、一儲けしようするものの、そこにヴァンパイアの一団がやって来て大混乱してしまうという内容だ。
勘のいい人なら、クエンティン・タランティーノ製作、ロバート・ロドリゲス監督の『フロム・ダスク・ティル・ドーン』(1996)を思い出すだろう。あれも兄弟が主人公で、前半がガンアクションだったのに、後半、突然酒場がヴァンパイアの巣窟でホラーに転じるという話だった。
もちろん、『ブラックパンサー』(2018)や『クリード』シリーズ(2015~)で、従来のジャンルとは異なる新しいスタイルを確立してきたライアン・クーグラー監督なので、今回も似て非なる全く別の作品になっていることは言うまでもない。酒場のライブシーンで、時代を超えて音楽の歴史を見せる手法はその最たる例で、唸らせられること必至だ。映画が自由な芸術表現の場であることを改めて思い知らされた。全米ではオープニング成績が4800万ドルで、オリジナル作品としては、ここ10年で最高の数字を記録した。現時点で全米では2億7720万ドル、海外では8660万ドルという空前の大ヒットとなっている。

映画の冒頭は、衝撃的な姿で教会に戻ってきたプリーチャー・ボーイことサミーの姿から始まり、「その1日前」とテロップが出て、本筋が始まる作りになっている。つまりこの映画はたった1日の出来事を描いているのだ。どこから見てもヤクザないでたちのスモークとスタック。演じているのはクーグラー作品には欠かせないマイケル・B・ジョーダン。今回は1人2役で主人公を演じている。この二人を軸にヘイリー・スタインフェルドが演じる元カノや、呪術師、そしてミュージシャンらが絡んでドラマが展開していく。
注目すべき点はIMAXのフルフォーマットで撮影されたことで、上下に目いっぱい広がった映像の迫力たるや、これぞ没入と感動せざるを得ない。前半は綿花畑など、自然の風景をまるでその場にいるように見せ、後半の激しいバトルでは戦いに参加させられているような錯覚を覚えさせてくれる。その一方で通常上映には2.76:1のシネスコスクリーンでも上下に黒帯が入る横長サイズで完成させている。多種多様なフォーマットがあることはライアン・クーグラー監督自身が、それぞれの魅力を語っている動画があるので、ぜひ検索してご覧頂きたい。
そして詳しくは語れないのだが、本作はクライマックスが2段階構成になっており、更にエピローグもエンドクレジット途中とクレジット終了後に入ってくるので、場内が明るくなるまで席を立たないでほしい。特にクライマックスの後半は、本当の「罪人たち」について描いていて、アメリカでは拍手喝采だったのではないかと思われる。
ここまで自由な映画を完成させて、ライアン・クーグラー監督の次なる表現は、どのような方向に舵を切るのか、注目せずにはいられないだろう。映画は既に公開が始まっているので、IMAXやドルビーシネマなど、お近くに対応劇場があれば、ぜひそれで。もし無かったとしても、映画館での鑑賞は忘れ難いものになるはずだ。
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飯塚克味(いいづかかつみ)
番組ディレクター・映画&DVDライター
1985年、大学1年生の時に出会った東京国際ファンタスティック映画祭に感化され、2回目からは記録ビデオスタッフとして映画祭に参加。その後、ドキュメンタリー制作会社勤務などを経て、WOWOWの『最新映画情報 週刊Hollywood Express』の演出を担当した。またホームシアター愛好家でもあり、映画ソフトの紹介記事も多数執筆。『週刊SPA!』ではDVDの特典紹介を担当していた。現在は『DVD&動画配信でーた』に毎月執筆中。TBSラジオの『アフター6ジャンクション』にも不定期で出演し、お勧めの映像ソフトの紹介をしている。
【作品情報】
罪人たち
2025年6月20日(金)IMAX®及び2D字幕、Dolby Cinema®で劇場公開
配給:ワーナー・ブラザース映画
© 2025 Warner Bros. Ent. All Rights Reserved. IMAX® is a registered trademark of IMAX Corporation. Dolby Cinema® is a registered trademark of Dolby Laboratories
記事提供元:映画スクエア
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