映倫 次世代への映画推薦委員会推薦作品 —「おばあちゃんと僕の約束」
青年と祖母の交流から見えるもの、生まれるもの
大学を中退したエムは、ゲームの実況配信で稼ぐつもりだが成功には程遠い。ある日、祖母のメンジュにガンが見つかった。上手くやれば、遺産をもらえるかもしれない。エムは祖母の家に住み込み、世話をすることに――。
やや不謹慎な始まりから、青年が祖母と打算を越えた絆を育んでいくさまを描く「おばあちゃんと僕の約束」。タイの人気歌手および俳優であるプッティポン・アッサラッタナクンが演じるエムは、朗らかであっけらかんとしている。これが長篇映画デビュー作というウサー・セームカムが扮するメンジュは、慎ましくも気丈。いきなり湿っぽかったり、シリアスだったり、道徳観が強すぎたりしたら辛いな……と構えていただけに、こうした人物造形には救われた。両者の個性がドラマを活気づける。
もちろん、他の面々も印象的だ。エムの母にしてメンジュの娘であり、スーパーで働きながら家計を支えるシウ。メンジュの長男で裕福な家庭を築いているキアン。メンジュの末っ子で無職のお調子者・ソイ。さらにはエムの従妹であり、祖父を介護したことで豪邸を相続したムイ。いずれも真心と計算高さを併せ持ち、単純な善悪で割りきれない人としての幅を見せていく。新しさと古さが同居したバンコクの街、一家のルーツである中国の習俗、メンジュが屋台で売る粥、メンジュを見守るためエムが室内に据え付けたカメラやスマホアプリといった現代機器、すべては空間を色づけ、時間の海を泳ぎ、ただ一つの貴重な世界を編む。昔日にメンジュが味わった苦難など、時代の記憶も染み出してくる。
墓地の草原を渡る風のように、観る者は自由に思いを巡らせるだろう。それぞれの人生で、近しい人々との感触はどうか。それを映画にするとき、世界といかなる関係が生まれるか。
文=広岡歩 制作=キネマ旬報社(『キネマ旬報』2025年6月号より転載)
「おばあちゃんと僕の約束」
【あらすじ】
大学を中退してゲーム実況者を目指す青年エム。彼には粥を売りながら一人で暮らすメンジュという祖母がいるが、ステージ4のガンに侵されていることが判明する。従妹のムイが祖父の豪邸を相続したと聞いたエムは、メンジュに接近。遺産を得られることを期待しつつ、同居して世話を焼くが、メンジュの生き方に触れて大切なことに気付いていく──。
【STAFF & CAST】
監督:パット・ブーンニティパット
出演:プッティポン・アッサラッタナクン、ウサー・セームカム ほか
配給:アンプラグド
2024年/タイ/126分/Gマーク
6月13日より全国にて順次公開
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記事提供元:キネマ旬報WEB
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