"高エンゲル係数"の家計を副業で支えるも多難‥‥。アラフィフを迎えても終わらない「氷河期エレジー」
「5キロ2000円」の実現を掲げる小泉農水相には庶民の期待が寄せられているが‥‥
コメに代表される物価高騰と実質賃金の低下という二重苦に苦しむ氷河期世代が、副業に乗り出している。
ある40代男性は「子どもの塾代になれば」と週末にコンビニのレジバイトを始めたが、「POSレジ」に悪戦苦闘し、年下の外国人アルバイトに冷笑される日々。別の50代男性はスキマバイトアプリを使ってホテルでの清掃業や皿洗いに勤しみ、「優遇されるのは新卒ばかり」と嘆きつつ、「物価高の分は何とかして働くしかない」と自らを鼓舞している。
■実質賃金は3年連続マイナス総務省が1月に発表した生鮮食品を除く全国消費者物価指数の2024年の平均(2020年=100)は、前年比2.5%上昇の107.9となり、3年連続で上昇。中でもコメの高騰は深刻で、農林水産省の4月の発表によると、4月14~20日に全国のスーパーで販売されたコメ5キロ当たりの平均価格は4220円となり、最高値を更新。その後、コメを巡る失言で江藤拓農水相が辞職し、小泉進次郎農水相が誕生。目下、「5キロ2000円」を掲げて奔走しているが、実現性には疑問符がつく。
このような物価高騰に、サラリーマンの賃金上昇は追いつかない。厚生労働省の「毎月勤労統計調査」によると、物価変動を考慮した1人当たりの2024年の実質賃金は前年比0.2%減で、3年連続のマイナス。さらに家計の消費支出に占める食費の割合を示す「エンゲル係数」は43年ぶりの高水準で、一般家庭はどこも生活にゆとりがない状況である。
■留学生バイトにも冷笑され‥‥「スーパーに行くと気が滅入りますね。コメはもちろん、キャベツなどの野菜類、子どもが食べるパンやお菓子。全ての値段が上がっています。唯一の楽しみの発泡酒も上がっていて、げんなりしますよ」
こう嘆くのは、埼玉県に住む武藤義則さん(仮名)、46歳。氷河期世代にあたるが、大学卒業後、運よく都内の医療機器メーカーに入社、営業職を中心に歩んできた。妻はパート勤めで、小学5年、2年の男児と女児を抱える。中学受験を控える長男の塾代は月4万8000円。さらに月9万6000円の住宅ローン、長女が通うダンススクール代も重くのしかかる。
「金ばかりかかる中学受験なんかしなくていいというのが私の本音ですが、妻がママ友に影響されて『中学受験、中学受験』とうるさくて...。でも現実、この物価高ではお金が入る蛇口をもう一つ作らなきゃ早晩首が回らなくなると思って、半年前から副業を始めたんですよ」(武藤さん)
かつては単純作業だったコンビニ店員も、業務の多角化やIT化により、覚えなければならない業務が増えた
武藤さんの副業は近所のコンビニのアルバイト。店内の「シニア歓迎」「副業歓迎」の貼り紙を見て試しに申し込んでみたところ、採用された。
「シニアよりさすがに若いとはいえ、未経験で46歳の自分が採用されるとは思いませんでした(笑)。どこも人手不足なんでしょうか。でも周囲はみんな外国人留学生です。最近はベトナムの方が多いようですね。私は週末限定。あえて夜勤中心にしてます。たまにある夜勤明け月曜の本業はふらふらですが、背に腹は代えられません」(武藤さん)
苦労したのが「POS」と呼ばれる販売管理システムを使ったレジ業務。このシステムはスキャンした商品などの情報が蓄積され、売上や在庫管理を行う仕組みだが、レジでは公共料金の支払いや宅配便の受付も行わなければならず、操作が複雑かつ多岐にわたる。
「レジだけでなく商品の陳列、ホットスナックや惣菜の調理など、とにかく覚えることが多すぎる(笑)。その都度、二回り以上下のベトナム人留学生の女の子に聞いています。何度も聞くもんだから、さすがに失笑されています。彼らより私がいくぶんか優れているのは日本語だけっていう...」(武藤さん)

本業では部下を使う立場でも、副業のバイト先では下っ端。年下から叱責されることもしばしば
■スキマバイトや治験モニターまで...
一方、千葉県に住む52歳の会社員、山岸学さん(仮名)はスキマバイトアプリを使って、会社が休みの時に副業に乗り出している。妻はパート勤めをしているが、都内の私立大学で理工学部に通う一人息子にお金がかかるという。
「きっかけはやっぱり物価高騰です。初任給を上げるニュースはたくさん見ますが、我々の給料は上がりませんし。私の場合はいろんなスキマバイト先に行くわけではなく、基本的にホテル清掃かファミレスの皿洗いに絞ってます。
肉体的には辛いですけど、その場限りで黙々とやればいいので。1日3~4時間が多く、1回4000~7000円ぐらいになるので助かります。体は辛いけど、物価高の苦境は働くことでしか解決しないでしょ」(山岸さん)
加えて山岸さんは最近、治験モニターの副業バイトも始めた。
「採血と問診だけで1回1万円という抜群のコスパです。ただ場所が限られていて、やっぱり都心部の病院が中心なので交通費がかかる場合があります。それと、長期にわたる治験モニターは他の治験が受けられないので、1年で7万円ぐらいにしかなりません。コスパを考えて一回きりの治験を狙ってます」(山岸さん)
総務省の「就業構造基本調査」(2022年)によれば、「副業がある者」は2012年約214万人だったが、2022年は約305万人と10年で100万人近くも増加している。氷河期世代の会社員がこれからのインフレ時代を生き抜くためには、副業をこなせるだけの度胸と胆力、体力が必要なのかもしれない。
文/山本優希 写真/時事通信社、photo-ac.com
記事提供元:週プレNEWS
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