巨額の赤字で大リストラ...。日産&ホンダ「脱EV」で起死回生はあるか!?
主力の北米市場に売れ筋のハイブリッドを投入できず、巨額の赤字で窮地に陥った日産。エスピノーサ社長は大リストラを発表したが......(写真:共同通信社)
経営再建中の日産が国内工場の閉鎖を検討していることが判明し、工場を抱える地元は大揺れだ。一方で日産とホンダが「脱EV(電気自動車)」を鮮明にしてきた。今、日本が誇るEV連合に何が起きているのか。
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■ふたつの工場閉鎖で神奈川県に激震!昨年12月、日産とホンダの経営統合交渉が始まると、大手メディアはこぞって"世界3位のEV連合誕生"などとお祭り騒ぎ。しかし、ご存じのとおり日産とホンダの経営統合は2月13日に破談という形であっけなく幕を閉じた。
5月13日、EVのパイオニアである日産は、25年3月期の決算が6709億円の大赤字になったと発表。経営再建を急ぐべく約2万人の人員削減と、国内外7工場を閉鎖する大リストラを表明した。
ところが、この経営再建案には神奈川県内にあるふたつの工場(横須賀市の追浜(おっぱま)工場と、平塚市にある子会社・日産車体の湘南工場)の閉鎖が含まれているという報道により、工場のある自治体と地域財界は大混乱に......。
火の手は瞬く間に政界へと広がり、自民党神奈川県連の会長を務める小泉進次郎農林水産大臣、神奈川県の黒岩祐治知事が相次いで日産のエスピノーサ社長と面会する異例の事態に発展した。
自動車評論家の国沢光宏氏はこうあきれる。
「黒岩知事との面会でエスピノーサ社長は、『何ひとつ決まったことはない』などと口にしてしまった。完全な悪手です。この言葉で神奈川県も、ふたつの工場がある地方自治体も、工場の閉鎖撤回に向けて動き始めている。
これで両工場を閉鎖したら猛反発は必至。赤字が膨らみ続け、日産は時間との勝負になっているのに......よけいな手間が増えてしまいました」
今、日産が苦しんでいるのは過剰な生産設備だという。
「現状、日産全体の年間の生産能力は500万台という大きな規模を持ちますが、昨年度の生産台数は339万台です。黒岩知事とのやりとりを見る限り、日産の工場閉鎖や人員削減は相当時間がかかるはず。
このままでは赤字は膨らむ一方です。工場を閉鎖するなら跡地の活用や雇用の問題など、関係各所と調整するのは当たり前の話です。なぜ日産は事前の根回しを怠ったのか」
神奈川県内のふたつの工場の規模はどの程度なのか。自動車誌の元幹部が解説する。
「閉鎖が噂されるふたつの工場には合わせて5000人以上の従業員がいるそうです。加えて神奈川県内には日産の関連企業が1500社以上あります。本当に日産が大リストラを行なうのであれば丁寧な説明が求められます」
これまで日産の主力車種を生産してきた神奈川県横須賀市にある追浜工場。工場閉鎖の報道が飛び交い、地域経済への打撃が懸念されている(写真:共同通信社)
しかも、これから日産が行なうリストラはとてつもない規模だと国沢氏は言う。
「1999年にカルロス・ゴーン氏が断行したリストラは75万台の生産規模縮小でした。一方のエスピノーサ社長は250万台規模の縮小を断行する。新経営陣は難しいかじ取りを迫られています」
■日産とホンダがハイブリッドに注力これまでEVのパイオニアとして胸を張ってきた日産だが、ここにきて矢継ぎ早にハイブリッドに関する情報を出している。この背景にはいったい何があるのか。自動車誌の元幹部はこう言う。
「日産のドル箱だった北米市場の売れ筋はハイブリッドです。加えてアメリカのトランプ大統領の"脱EV宣言"の影響も大きいでしょうね」
特に話題なのが"日産独自のPHEV(プラグインハイブリッド)"の報道。だが、自動車ジャーナリストの桃田健史(けんじ)氏は首をかしげる。
「PHEVについては当初、日産傘下の三菱との協業の噂もありましたが、どこまで日産独自の技術なのか......」
国沢氏も苦笑いで言う。
「日産は経営悪化で尻に火がついているので、前向きな情報を出したいのだと思います。ただ、日産が開発した新型PHEV向けガソリンエンジンの最高熱効率がBYD超えなんて報道もありますが、問題はいつ出せるか」
では、日産独自のハイブリッド技術e-POWER(イーパワー)搭載車の輸出検討の報道はどうか。桃田氏はこう指摘する。
「そもそもe-POWERは国内向けを想定して開発したものです。それを中国に導入しましたが、価格競争力不足で販売は伸びず......。
加えて日産のメイン市場である北米向けを想定していなかったのは、完全に旧経営陣の判断ミスです。ただ、今の日産は足元で売れる商材をフル活用すべきだとも思います」
ちなみに日産のe-POWERは燃費が悪いという声も飛び交っている。仮に海外に輸出して通用するのか。
「トヨタなどのストロングハイブリッドと比べて燃費が悪いという印象があるが、技術的、また、マーケティング的にどう戦略を立てるかが、海外での成功のカギです」
実はホンダも、5月20日に東京都内で三部(みべ)敏宏社長が記者会見を開き、経営戦略を修正し、ハイブリッドに注力すると発表した。このホンダの動きを桃田氏はどう見たのか。
「グローバルでのEV普及の鈍化などにより、市場の実需を重視した形ですね。ホンダの主力市場である北米で、ハイブリッド車の需要が高まっていることを強く意識したものです。ただし、2040年の世界新車販売をすべてEVとFCEV(水素燃料電池車)にするという目標は維持しています」
国沢氏いわく「実はホンダの次世代EV・ホンダゼロもPHEVが搭載できるよう現場の判断で勝手に改良されていたんです」
一方、国沢氏は別の角度からホンダの会見を解説する。
「21年4月に社長に就任した三部さんは、皆さんご存じのように就任直後に"脱エンジン宣言"を打ち出しました。さらにPHEVも『絶対やらない』とか言っていましたよね。
しかし、ホンダの救いは日産とはひと味違って現場が独自に動くこと(笑)。だから、EVが踊り場を迎えてもプランBが存在し、ホンダには新型ハイブリッドもPHEVもある。一方、日産は正念場を迎えています」
経営統合で注目を集めた日産とホンダのEV連合だが、明暗が分かれるか!?
取材・文・撮影/週プレ自動車班
記事提供元:週プレNEWS
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