駅を降りたらライドシェアでGo! JR東日本も参加して千葉県房総半島で始まった「南房総・館山地域公共ライドシェア」をウォッチング【コラム】

あらためて移動手段としての鉄道のメリットとデメリットは? マイカーに比べた最大の長所は、渋滞知らずで時間通り目的地に到着できること。列車への乗車時間は、いわば旅行のプレタイム。車窓観光のほか、ビジネスでも有効活用できます。
一方の短所は、到着駅から最終目的地までの二次交通が必要になることでしょうか。エキナカやエキチカへ行く場合を除けば、降車後にバス、タクシー、レンタカーなどで移動しなければなりません。
しかし、東京や大阪といった大都市を除けば、地方圏の地域公共交通は衰退の一途。路線バスは利用減にドライバーの人手不足が追い打ちをかけ、路線廃止は今やニュースにもならないほどです。
そんな鉄道にとって、現状を打ち破るホワイトナイト(防衛策)かもしれないのが「ライドシェア」。一般ドライバーがマイカーを利用して有償(有料)で旅客を運ぶ移動手段で、自治体が中心の場合は「公共ライドシェア」(自家用有償旅客運送)と呼ばれます。国(国土交通省)も、交通空白地帯の解消策として推奨方針を打ち出します。
本コラムは鉄道参加型公共ライドシェアのモデルケースとして、JR東日本が協力して千葉県房総半島南端の南房総、館山の両市で始まった「南房総・館山地域公共ライドシェア」を取り上げます。
タクシーにも〝終タク〟!?
千葉県内初の公共ライドシェアとして、2025年3月にスタートした「南房総・館山地域公共ライドシェア(愛称名・房総ライド)」。珍しいのはJR東日本千葉支社が協力すること。JR社員4人がドライバーを務め、駅レンタカーを使用します。
房総半島南端の南房総市と館山市。南房総市は人口約3万4000人(2025年3月時点)。旧富浦町、旧和田町など7町村が平成の大合併で統合されて2006年に誕生しました。玄関駅はJR内房線富浦駅です。
館山市は人口約4万2700人(同)。地域経済の中核都市で、来訪観光客数約141万6000人(2022年データ)。館山駅はJR内房線の主要駅です。両市内には、ジェイアールバス関東が路線ネットワークを持ちます。



「なぜ両市でライドシェア?」の疑問に答えるには、地域の交通事情を紹介する必要があります。館山駅発の路線バスは19時ごろが最終。しかし、館山着列車は0時過ぎまであります。館山着の高速バスは0時前が最終です。
終バス後、自宅や最終目的地への移動手段はマイカー送迎やタクシーですが、タクシー会社も配車に応じられるのは22時過ぎまで。地方都市には、終電・終バスならぬ〝終タク〟もあるのです。
公共交通活性化協にJRが参加
公共交通再生を地域生き残りの課題とする両市は2019年度、「南房総・館山地域公共交通活性化協議会」を創設。新しい移動手段を検討する中で目を付けてのが、国(国土交通省)が2025年度からの3年間を集中期間として普及に乗り出したライドシェアです。
活性化協議会にはJR館山駅とジェイアールバス関東館山支店の代表が参加。鉄道の利用促進にもつながる、地域の挑戦に協力を申し出たというのが全体の流れです。
房総ライドの運行時間帯は22時~翌朝6時。走行エリアは両市に加え、隣接する鴨川市と鋸南町の4市町です(乗降車のいずれかは南房総、館山市内に限定)。利用(配車)にはスマホアプリ・房総ライドが必要で、運賃はタクシーと同程度。決済はクレジットカード、乗車時に支払います。

ドライバーは公募で、取材時点ではJR社員4人を含む8人。活性化協議会は安定運行に10人程度が必要としており、引き続き両市在住者・在勤者を募集します。
「JR参加に意義」(藤田関東運輸局長)
運行管理は地元のタクシー会社・鏡浦(きょうほ)自動車。日野自動車が協力します。日野はおなじみバス・トラックメーカーで、新規事業で公共ライドシェアを支援します。メーカーがクルマの新しい利活用方法をビジネス化するのは、比較的珍しいケースです。

活性化協は本年度1年間を実証期間とし、利用状況を見極めます。
初日の2025年3月3日、JR館山駅前での出発式。関東運輸局の藤田礼子局長が「房総ライドは鉄道事業者のJRが参加する点で、公共ライドシェアの普及に大きな意義を持つ」と期待を示しました。
飲みニケーション客もターゲット?
房総ライド、筆者は最初、運行時間帯が観光やビジネス移動が少ない夜間と聞いて、「利用者の中心は終バス後の地域住民」と思い、それにしては、「配車がスマホアプリ限定なのは、シニアのハードルになるのでは」と若干、心配になりました。
しかし活性化協議会は夜間、南房総に到着する観光・ビジネス客や、(最近この言葉はあまり聞かなくなりましたが)飲みニケーション客をターゲットにするようです。
実はライドシェアを夜間限定にした主な理由は、タクシーとのバッティングを避けるため。その点、「生みの苦しみ」といえそうな気もします。
野沢温泉村、茨城県4市……
ここで簡単に、鉄道会社とライドシェアをおさらい。
JR東日本(実際はJR東日本長野支社)、野沢温泉マウンテンリゾート観光局、AMANE(東京に本社を置くスタートアップ〈ベンチャー〉コンサルタント)、日本総合研究所の4者は2024年11月~2026年1月、長野県北東部の野沢温泉村でライドシェアを実証実験。スキー客やインバウンド客を対象に、需要を探りました。
【参考】長野の温泉でスポーツワーケーション JR東日本長野支社、野沢温泉村などが連携協定を締結)(※2022年3月掲載)
https://tetsudo-ch.com/12270298.html
茨城県つくば、土浦、牛久、下妻の4市では2025年1月から「地域連携公共ライドシェア」がスタート。こちらは京都丹後鉄道(丹鉄)を運行するWILLER(ウィラー)グループと関東鉄道が参加します。
【参考】ドライバー不足対策にWILLER乗り出す 茨城県4市で公共ライドシェア 「下妻物語」の聖地巡礼もお届けします【コラム】(※2025年2月掲載)
https://tetsudo-ch.com/12995597.html
マイカー数台という輸送規模の房総ライドで、鉄道利用が大きく伸びることはありません。それでもJR千葉支社が協力したのは、一種の行き詰まり状態にある地方鉄道路線にとって、一定の突破口になる可能性を見出したからでしょう。
国の支援という追い風を受けて始まった房総ライド。鉄道参加という新形態で、全国のモデルケースになるかを見極めたいと思います。
記事:上里夏生
記事提供元:鉄道チャンネル
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