不動産業者の「転売ヤー化」で不動産高騰→マンションバブルへ!?
バブルがはじけ、建設が中断した千葉・市原市ちはら台のマンション(1993年2月撮影)
私は40年近く東京のマンション・不動産市場をウォッチングしてきたが、「なにそれ!」と卒倒しそうな現象を見聞きしたのは今回が三回目になる。
初回は言わずと知れた1980年代後半の平成大バブル期。あの時は日本国中が狂っていた。
2度目は2000年代の始めからリーマンショックまで続いた「ファンドバブル」と呼ばれた時期。オイルマネーが日本の不動産を買いまくっていた。しかし、リーマンショックと共に消え去った。
そして3回目がコロナ後に東京都心など、一部地域でマンション価格が吹き上がっている今。マンション市場はアベノミクスが始まった2013年以降、ずっと上昇基調にあった。地域を限定した不自然な値上がりを私は「局地バブル」と定義してきたが、それが危険な水準にまでに膨れ上がっている気配を感じる。
最近、とある不動産仲介業者から聞いたところでは、再販業者が都内の15億円のマンションを購入して、1億円くらいでリフォームした上で20億円で売却したという。再販業者とは、中古マンションなどを一般人から買い取って、リフォームしてから再び一般消費者に販売する不動産業者のことだ。
■再販業者の"転売ヤー化"。売買相手は中国人?しかもこの物件は1棟ではなく区分、つまりマンションの一住戸単位だったという。つまりこの再販業者は1住戸15億円の超高級マンションを購入し、超豪華なリフォームを施した上に、誰かに20億円で転売したらしい。
東京の都心でも1住戸15億円で売買される中古マンションはかなり限られる。さらに1住戸を20億円で買える人なんて、日本じゅうで何人いるのだろうか。ちなみに「売った相手は中国人?」と聞いてみたが、「そこまでは知りません」とのことだった。
都内中心部ではマンションの新規建設が相次いでいるが、その多くは平均的な会社員世帯が購入できる価格をゆうに超えている。写真は晴海フラッグ
再販業者が触手を伸ばすのは、中古物件だけではない。現在、東京都心で新築分譲されるタワーマンションの登録抽選に再販業者たちが群がって申し込んでいるのだ。仮に当選したら、それは「プラチナチケット」。なにせ、1.5億円ほどで購入した新築マンションを、引き渡し直後に転売すれば2億や2.5億くらいで売れてしまうのだ。リフォームなどで付加価値を付けるわけでもなく、右から左に物件を流すだけの彼らは、再販業者というより、不動産を扱う転売ヤーというべきか。
新築マンションを開発分譲するデベロッパーも、急速な値上がりに事業企画が追い付かない。ある大手デベロッパーの若手事業企画者が「この物件は坪単価1200万円で行けます」と経営陣を説得して、事業用地を取得。タワマンを開発分譲して見事に坪単価1200万円で完売させたところ、再販業者が買い取った住戸が引き渡し直後に坪単価2000万円で転売されていたことを経営陣が知ってしまった。その事業担当者が経営陣から「お前は坪2000万円で売れる事業を1200万円で仕切ったのか」と叱責されたとか。
■バブル経験者が抱く"嫌な感じ"こういう現象は、私的にはデジャブな感じだ。あの1980年代後半の平成大バブル期の異常さを再現しているような感じ。ただし、今回はかなり地域限定。上記のような現象が発生しているのは、いずれも東京の都心。山手線内側の南半分だ。
それでも正直なところ「おいおい、そこまで来てしまったか」という感じだ。私のような昭和人間なら、あの平成バブルとその後の混乱、そして低迷の「失われた30年」を経験している。しかし、今の30代、40代のプレイヤーはそれを知らない。
たとえそれを知識として知っていても、業界の内側で生きている人間はこのバブルに踊らざるを得ないのだ。なぜなら、みすみすの儲け話を見逃すのは「ただのバカ」と見なされるのが不動産業界だから。
しかし、"嫌な感じ"しかしない。こんなことが何年も続くとは思えない。上述のように取引されるマンションの利回り(賃貸運用した時の収益率)は2%あるかないか、という水準らしい。あの平成大バブルの時には「2%」の利回りは「高い」と見なされていた。
マンションを投資対象と考えると、基本的にいくつものリスクがある。まず、管理費等や固定資産税などの保有コストがある。債券や株など、金融資産にはほとんどこれはない。
さらには空室になる可能性や家賃低下、地震・火山噴火などの天災による建物の損壊、経年による建物劣化、入居者のトラブルなどである。そんなリスキーな投資対象の利回りが2%というのは、危険すぎる。
つまり、今都心のマンション市場の一部は経済合理性のないほどの高値で取引が成立している。だからこの現象は「バブル」と呼ぶしかない。
バブルはいつか消える。それは数年後かもしれないし、早ければ明日かもしれない。いつか消えることは確実だ。ただ、まだまだ膨らむ可能性も否定できない。しかし、合理性のない価格である限り、それはバブルだ。いつか消える運命にあるのも、確実である。
文/榊淳司 写真/photo-ac.com
記事提供元:週プレNEWS
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