話題沸騰中の「退職代行サービス」、違法業者の見分け方とは?
ゴールデンウィークを過ぎた今は、転職を考える若手社員が増える時期だ
「辞めたいけど気まずくて言い出せない...」。
そんな悩みを持つ人をターゲットに、退職の意思を本人に代わって職場に伝えてくれる退職代行サービスが話題だ。ネット広告を派手に打ったり、中には繁華街にアドトラックを走らせたりする業者も出現し、すっかり市民権を得たかに見える。
4月に新卒で不動産企業に入社した男性(22歳)も、退職代行サービスをさっそく利用した経験を明かす。
「求人票には『9時-18時、残業は月に20時間程度』と書かれていたのですが、現実との乖離(かいり)がすさまじかった。先輩社員たちはこぞって7時台から出社し、退社も21時以降がザラ。プライベートへの干渉もすさまじく、会社支給のPCの検索・閲覧履歴はすべて監視されており、プライベートのSNSアカウントまで上司に把握されました。未来はないと思い、ネットで知った退職代行業者に速攻で依頼。無事、退職できました」(22歳男性)
一方で、"気まずさ"がないことをいいことに、モンスター化する退職代行サービス利用者も少なくないようだ。東海地方のあるメーカーの社長が苦々しい顔で語る。
「自分で連絡しないのをいいことに、厚かましすぎる要求をしてきた新入社員がいました。入社からわずか1週間で来なくなったかと思うと、退職代行業者から連絡があり辞意を伝えられたのですが、驚いたのはその中身。試用期間中にも関わらず、こちらが厚意で付与していた有給を全日消化したい、そのうえで日割りの給与も支払ってほしいと言ってきたんです。こんなクレーマー気質の人間、早く去ってもらってよかったと思うようにしていますが、モヤモヤします」(メーカー社長)
こんな事例が、巷で溢れかえっているというのである。
■入って一週間で退職代行、有給消化の権利を求める人も...では実際、退職代行サービスを手掛ける業者は、依頼者の職場とどのようなやりとりをするのか。労働組合が運用する退職代行サービス「ローキ」執行委員の石丸隆之氏に聞いた。
「うちは3年ほど退職代行サービスを運用しているのですが、厄介な会社というのはたしかにあります。『本人出せ』『今から家に押しかけるぞ』なんて脅してくるのは日常茶飯事ですし、未払いの給与や有休の消化といった当然の権利を求めたとて、強烈なアレルギーを示して怒鳴り散らしてくることもしょっちゅう。
この仕事を続けていると、退職代行を依頼してくる〝常連〟のようなブラック企業も見えてきて、ある建設系の会社では1人が退職代行を使って辞めたら社員のほとんどが一斉に申し込んできた、という事例もありました」(石丸氏)
一方で、石丸氏は「異様に聞き分けのよい担当者もいた」という。
「ある程度大きな企業が相手の場合、人事担当者と話すことが大半なのですが、すごく丁寧なことがあったんです。こちらの手続き方法から段取り、法的な根拠まで、紳士的に聞いてくれる。これは良い企業じゃないかと思っていたら、なんとその人事担当者が『実は私も辞めたいので、来月お願いしたい』と申し込んできたのには驚きました(笑)」(石丸氏)
■乱立する退職代行。「違法業者」を見分けるには?活況を呈する退職代行業界は、これからのGW明けが一番、駆け込む客が増えるハイシーズンだという。
「大型連休中に、地元に帰って同級生と話すうちに、『うちの会社はおかしい』となるパターンが多いです。また、サザエさん症候群の重い版とでもいうのでしょうか、連休の終わりが見えてくると憂鬱さも増すのでしょうね。例年、この時期はすさまじく退職希望者が増えます」(石丸氏)
「辞めたい」と言い出せずに消耗してしまう社会人にとって、退職代行は頼れる存在だが、サービスを提供する業者は玉石混交だという
ここで注意しなければならないのが、退職代行サービスを謳う「違法業者」に引っかからないことだ。法律上、退職交渉ができるのは弁護士か労働組合が運営する事業者の2つのみ。ところが、世に跋扈(ばっこ)しているのは、労働組合との「提携」を謳う業者なのだという。石丸氏が解説する。
「ポイントは、法的に認められた事業者でないとできることに制限があること。弁護士や労組が運営する場合は、『未払い賃金を支払ってほしい』『有給を買い取ってほしい』などと企業サイドと交渉することが可能なのです。
一方で、そうでない業者ができるのは〝伝言〟のみ。『御社の〇〇さんが辞めたいと言っています、残業代をいくら払ってほしいと言っています』と伝えることはできても、それを実現できるよう交渉することはできない。これは昨年の11月22日に東京弁護士会が声明を出し、明確に非弁行為とされました」(石丸氏)
昨今の退職代行ブームで、企業側も退職代行サービスについて知見を蓄えており、下手な違法業者に頼むと依頼が難航するどころか「退職はできない、関係はさらに悪化する」という事態を招きかねない。では、優良な業者を見分ける方法はあるのか?
「特徴としては価格が相場より若干安いということも上げられますが、労働組合本体が運営しているか、それとも単に提携しているだけの民間業者かを見分ける方法は、実はとても簡単。
入金先の銀行口座を確認してください。入金先が株式会社などの法人口座であれば、それは民間業者であり、法的に交渉権限がない。逆に、入金先が労働組合名義か弁護士事務所名義の口座なら大丈夫です」(石丸氏)
退職代行を利用する事態に陥らないことこそ肝心だが、万が一利用する場合は「安かろう、悪かろう」となりかねない。細心の注意を払いたいものだ。
文/新田勝太郎 写真/photo-ac.com
記事提供元:週プレNEWS
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