SVリーグ1年目は男子を中心に及第点。一方で解決すべき課題は?
サントリーの髙橋は「ベスト6」などタイトル4冠に輝いた。ほかの日本代表の選手たちも含め女性を中心に人気が拡大した
「2030年までに世界最高峰のリーグを目指す!」
昨年10月に発足したSVリーグは、そんな御旗を掲げている。運営も、クラブも、選手も、それに向かって突き進めるか。男子でいうと、世界最高峰といえば石川祐希(ペルージャ)も在籍しているイタリア、もしくはポーランドのリーグになるが、それに追いつき、追い越すことが具体的な目標だ。
SVリーグ1年目は、上々の結果を出した。男子レギュラーシーズンの観客動員数は約66万5000人。前身であるVリーグ最終年の昨シーズン比で約175%と増大した。1試合の平均観客数は3000人以上を記録し、1年目の〝ご祝儀〟はあるにせよ、これはイタリアやポーランドをわずかだが上回った。
髙橋と共にリーグの中心選手であるブルテオンの西田は、リーグの改善点も指摘。試合数、選手会の発足などに言及した
髙橋 藍(サントリーサンバーズ大阪)、西田有志(大阪ブルテオン)の二大スターが果たした役割は大きかった。パリ五輪前後に沸騰した代表人気をSVリーグにも持ち込み、ファン拡大に貢献。彼らを応援しに来たファンが、それぞれの〝推し〟を見つけるなど関心は広がった。
SVリーグのプロモーションに功績のあった選手に贈られる「アタック・ザ・トップ賞」の受賞は当然だ。
SVリーグでは、練習からコートサイドの座席にボールが迫り、ぶつかることもある。選手との距離も近く、熱心な女性ファンが一斉に座席を埋めた。間近で見るプレーの数々は、かけ値なしの迫力があった。野球やサッカーのような屋外競技とは違う、ライブハウスのような臨場感でファンが定着した。
女性ファンはスマホをボールにはじき飛ばされてもすぐに拾い上げ、動画を撮り続けた。その熱心さは、すでにひとつの「世界最高峰」と言える。
女性たちが連れ立って会場を訪れ、推し選手のマフラータオルを掲げてハリセンを叩く姿は、もはや定番。王者サンバーズは平均でリーグ最多の5494人を集客し、1万人以上の動員にも成功した。
チャンピオンシップでは、ジェイテクトSTINGS愛知への声援が大きかった。大阪ではアウェーながら、関田誠大や宮浦健人のサーブで独特の一体感をつくっていた。
「GO STINGS!」
その合唱は決勝で窮地に陥ったチームにも届けられ、感動的だった。リベロの小川智大は、最後まで奮戦できた理由をこう語った。
「一本いいプレーが出るたび、会場(のファン)から、サポートの声が聞こえてきたんです。あらためて、みんなが〝やらなきゃ〟って自覚を植えつけられました」
さらに、各国の有力選手が来たことで、技術的にもレベルが上がった。
個人タイトルを総なめにしたウルフドッグスのニミルは今季で退団。世界最高峰の選手を呼び続けることもリーグの課題だ
ウルフドッグス名古屋のニミル・アブデルアジズ(オランダ)は、トップスコアラー、トップスパイカー、トップサーバー、MIP、MVPとレギュラーシーズンの個人賞をほぼ総なめ。異世界から来たような強烈スパイクを打ち込んでいた。
218㎝のドミトリー・ムセルスキー(サントリー/ロシア)も異彩を放ち、ミゲル・ロペス(キューバ)もブルテオンのレギュラーシーズン1位の功労者だ。
一方、名だたる外国人選手のスパイクやサーブをレシーブし、ブロックすることで、ディフェンスは確実に向上した。ベストレシーバーを受賞した髙橋 藍と、ミドルブロッカーの小野寺太志やリベロとの連係は特筆すべきものがあった。
また、ベストリベロを受賞した山本智大(ブルテオン)は、彼がいるところにスパイクを打つのを敬遠されるほどのディグを見せた。
攻守が刺激し合い、競争力を高めたと言える。
最優秀新人賞には、ウルフドッグスの水町泰杜が選ばれたが、ビーチバレーとの〝二刀流〟で注目を集めている。ニミルの影響を強く受けて殻を破り、王者サンバーズをあと一歩まで追い詰めた。
リーグ1年目としては、その活況は及第点だろう。ただ、チャンピオンシップでは、選手間で抑えられていた不満が次々に噴出した。
まず、レギュラーシーズン44試合は「プレーヤーズファースト」の鉄則に立ち返れば、日程が厳しすぎる。その過密さに関しては百歩譲ったとしても、レギュラーシーズン1位のブルテオンが2試合でチャンピオンシップ敗退というのは正当だったのか。長いレギュラーシーズンを戦った価値は担保されるべきだ。
また、チャンピオンシップではニミルがレッドカードを受け、審判のジャッジが話題の的になった。外国人選手の〝Fワード〟が俎上に載ったが、そもそも、すべての〝Fワード〟をカードの対象にすべきではない。
プレー中の叱咤や嘆きに過ぎない〝Fワード〟もあり(日本語にすれば「ふざけんなよ」のように品のない言葉だが)、プロでは理解も求められる。
決勝の1試合目と2試合目が違う会場で開催され、前日練習ができない点も批判が出ていた。バレーボールは会場次第で適応が必要。特にサーブに影響が出るが、会場が変わった2試合目は序盤から両チームともサーブミスが続いた。両者、同じ条件だけに不公平ではないが......。
いくつか課題は出たが、それを解決し、成長することで世界最高峰にたどり着けるのだろう。
「(選手としては)世界一になるには〝もっと1点にこだわっていく〟ということですね」
チャンピオンシップでMVPに輝いた髙橋も現状に満足しておらず、こう続けている。
「SVリーグを盛り上げるために、選手たちがやるべきことは、まず試合で勝つこと。あとはバレー以外のところで、ファンの方との交流を大事にすることですね。
今シーズンは運営面を含め、自分たちもどうすべきか、わからない状況もあったと思います。『ここはこうしたら良くなる』というのを、次のシーズンに生かしていきたいです」
挑戦は始まったばかりだ。
取材・文/小宮良之 写真/アフロ
記事提供元:週プレNEWS
※記事内容は執筆時点のものです。最新の内容をご確認ください。