日本有数の映画ガイド・高橋ヨシキが『クィア/QUEER』をレビュー!
評点:★3.5点(5点満点)
©2024 The Apartment S.r.l., FremantleMedia North America, Inc., Frenesy Film Company S.r.l. © Yannis Drakoulidis
意外なことに、と言っていいと思うが、ダニエル・クレイグの佇まいを通して原作者であり主人公「ウィリアム・リー」でもあるウィリアム・S・バロウズの姿が見える瞬間は数多くあった。そこには映画ならではの魔術的な喜びがある。
しかし、いかに原作が『クィア』という題名であり、執筆当時に(執筆から刊行までには30年ほどの開きがある)男性同士の性愛描写に一種の「ショック・ヴァリュー」が前提されていたとはいえ、極めてドライで、努めてハードボイルド「風」の原作に対し本作はウェットにすぎる。
またバロウズ作品を映像化するにあたって、バロウズ本人の数奇な人生をリミックスしたくなる欲望も分からないではないが、『クィア』を映画化するにあたってそれが必須だったのかどうか、という点にも疑問が残る。
何よりもったいないのは、ウェットな部分を拡大した結果、バロウズ独特の「ルーティン」(小話)のエッジーな部分がほとんどスポイルされてしまっていることで、たとえば「垂れ下がった痔が車のホイールに巻き込まれて内臓が全部しゅぽんと抜けてしまった」というような面白悲惨なオチは、不必要にくどい性愛描写を削ってでも死守すべきだったと思う。
STORY:1950年代、メキシコシティ。退屈な日々を過ごすアメリカ人駐在員ウィリアム・リーは、美しくミステリアスな青年ユージーンと出会い、ひと目で恋に落ちる。やがてリーはユージーンを幻想的な南米の旅に誘い出すが......
原作:ウィリアム・S・バロウズ
監督:ルカ・グァダニーノ
出演:ダニエル・クレイグ、ドリュー・スターキーほか
上映時間:137分
5月9日(金)より新宿ピカデリーほかにて全国公開予定
記事提供元:週プレNEWS
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