【#佐藤優のシン世界地図探索107】米露中による世界の「縄張り分け」
世界はテキヤのトランプ、博徒のプーチン、別タイプヤクザの習近平で棲み分けられている(写真:時事)
ウクライナ戦争勃発から世界の構図は激変し、真新しい『シン世界地図』が日々、作り変えられている。この連載ではその世界地図を、作家で元外務省主任分析官、同志社大学客員教授の佐藤優氏が、オシント(OSINT Open Source INTelligence:オープンソースインテリジェンス、公開されている情報)を駆使して探索していく!
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――前回より話は続きますが、世界はいま、米露のトランプとプーチンの総長どうしの賭博下で、ふたつの組が縄張りを分けてようとしている、という状況ですか?
佐藤 それに近い感覚です。あるいは、稼業違いの発想ですね。ヤクザには博徒とテキヤがいます。
――はい。
佐藤 それで、稼業違いであればその縄張りは重なっていません。だから「挨拶がない」といったような話も出ないのです。「稼業違いの兄さんにとやかく言われる話はないよ」となります。
――すると博徒はプーチンで、テキヤは?
佐藤 トランプですね。
――トランプは世界中にモノ売って、関税で儲けようとしてますからね。
佐藤 いま米露は稼業で棲み分けているのです。
――中国はどうですか?
佐藤 中国はやはり、稼業違いの別のタイプのヤクザです。
――だけどいまは、中国が価値の外交に引きずられていますね。
佐藤 そうですね。逆に、すでに時代が変わっていることにも気が付いていません。そして、不必要な警戒心をアメリカに対して持っています。
――それは中国のトップ、習近平が権力の座に長くいすぎるからですか?
佐藤 そうです。
――なるほど。では、米露の代理戦争下の総長賭博に口を出したウクライナのゼレンスキー大統領。米国亡命の可能性は低いですか?
佐藤 そう思います。トランプの機嫌をだいぶ損ねましたからね。
――すると、英国へ亡命することになりませんか? あそこでは、数々のロシア情報機関による暗殺メニューが豪華です。ポロニウム巻寿司、ドアノブにノビチョクなど、イギリスではこれまでにロシアによる毒殺が明らかになっています。
佐藤 いや、イギリスがやってプーチンに被せる可能性も十分にありますよ。イギリスはそういう工作が得意ですから。いずれにせよ、代理戦争なんて引き受けたらダメなんですよ。
――人の金で戦争してはダメだと。それで米露中の棲み分けになる、と。ところで、イスラエルのガザ地区はどうなるんでしょうか。やはり厄介ですか?
佐藤 そんなに大変ではないと思いますよ。
トランプが「リビエラ構想」を打ち出しましたよね。ガザを米国が所有して、地中海の観光地・リビエラのように再開発するという。あれは"認知戦"なんですよ、皆を驚かせるための。その後、エジプトとヨルダンは難民を引き受けるでしょ、と。そこがミソです。
まず、なぜガザ地区にパレスチナ政府が生まれたかというと、1948年の第一次中東戦争、つまりイスラエル独立戦争がきっかけとなったからです。あの時、エジプト軍がガザ地区から去らずに占領しました。つまり、エジプトにガザ地区の「製造者責任」があるから、ケツを持てと。
そして、1967年の第三次中東戦争となる六日戦争で、ヨルダンが西岸地域の主権を放棄しました。だから、その西岸にパレスチナ国家ができてしまったわけです。これは、ヨルダンだけに責任があります。
そうすると、ガザ地区にリビエラを作るため、二百数十万人のパレスチナ人をガザ地区から追い出すことになりますが、オスロ合意によるイスラエルとパレスチナの二国家共存は無理です。
だから、これからガザ国、それから西岸国が生まれます。つまり、イスラエルに3つの国ができることになるわけです。
――なるほど。
佐藤 各国はお互いに承認しません。ガザ国のケツ持ちはエジプト、西岸国のケツ持ちはヨルダンです。支援金もエジプトとヨルダンが出す形です。そうすれば皆、上手く収まりますよね。
一方、イスラエルは今回のことを深く反省するわけです。「壁が足りなかった」と。なので、500m離して8mの壁をふたつ作って、その間は地雷原にします。
――深く反省しているようには聞こえず。さらに警戒を厳しくしているのではないですか?
佐藤 いやいや、今回は壁がひとつだったから打ち破られたわけです。なので、深く反省しているからこそ、二度と過ちは繰り返さないようにするんですよ。
そうすれば、イスラエルがガザを占領することはあり得ません。そんなことしたら自爆テロの標的になるだけですから。つまり、イスラエルが「西ベルリン」になるわけです。
――なるほど!
佐藤 東ベルリンが壁を作るのではなく、西ベルリンが壁を作ると考えればいいんです。東側との交流が嫌だから、巨大な西ベルリンを作ると。あとは、飛行機や船で外国と繋がっていればいいんですから。
――すさまじく合理的、かつ実用的な策だと思います。これまでは空にミサイルドームだけでしたが、地上に塀を築くと。
佐藤 そうです。本当の壁を囲って西ベルリンになればいいんです。
――それは本当にそうですね。
佐藤 そして、イスラエルの善意と人道精神で、ガザと西岸、特に西岸の貧しい土地がパレスチナ人の領域であることを認めれば問題ありません。だから、これはイスラエルの善意と人道、それらの勝利ですよ。
――神の善意は色々でさまざまな種類があることを学びました。
佐藤 話は変わりますが、日本の評論家は三段論法でイスラエルを理解しようとするからわからなくなっているんですよ。
A:日米同盟がある。
B:アメリカにとって、イスラエルは同盟条約中の最重要国であり、事実上の同盟国である。
C:ゆえに、日本はイスラエルを支持する。
AとBという前提があるから、Cという結論が導かれる。これが三段論法です。
しかし、私は日本の評論家たちと違って、イスラエルを直接見ています。だからわかるんですが、イスラエルは中東の北朝鮮です。
――なんと!!
佐藤 イスラエルは全世界から同情されながら死に絶えるよりも、全世界を敵に回してでも戦って生き残ろうとしています。そして、核兵器を持っています。だから、中東の北朝鮮と言えるんです。そして、そういう国を締め付けて何かできると思ったら、暴発して大変なことになります。
――イスラエルも北朝鮮も刺激してはならないと。それ、韓国はわかっていませんね。
佐藤 全然わかっていません。だから、北に色々と変なことを仕掛けているんです。
――納得します。
それから聞きたいのがトランプのことです。最近、驚いたんですが、イエメンの反政府勢力・フーシ派に対して、トランプが攻撃命令を出して数百人単位でフーシ派が死んでいます。第一次政権の時は攻撃着弾地での死者予測数を聞いて、寸前になって出撃を止めたにもかかわらずに、です。完璧にトランプは光の子になりましたね。
佐藤 やはりトランプは、人命を非常に尊重する人ですね。いま、トランプ自身が命懸けで政治やっているのも影響しているんでしょうけど。
――なるほど、逆に殺す時は殺すわけですね。
佐藤 はい。最後の命令に従って、最後まで命を完遂して、命がけで行動している人間たちだからこそ、救わないといけないということです。つまり、トランプは抗命できない彼らに向き合っているわけです。
一方で、ゼレンスキーは安全地帯にいて、国民を無碍(むげ)に殺しています。
――映画『激動の昭和史 軍閥』の東条英機と同じですね。切迫した戦況でも「勝利への道は必ずや開かれる」と国民に玉砕を強いる......。
佐藤 そうです。切羽詰まったときの指導者というのは、そのあり方になってしまうんでしょう。だから、トランプは当事者ではないですが、非常にウクライナの民衆の事を考えていると言えます。だって、生きていれば何かできると、そういった希望のもとで選ばれた人ですから。
――神と米国民に選ばれた。
佐藤 だから、ゼレンスキーには申し訳ないですが、トランプとプーチンはスケールが違う政治家なんですよ。
――やはり、トランプは暗殺されかけて助かった。あの瞬間、生まれ変わった。
佐藤 はい。だから、トランプ自身は平和を本気で考えています。しかも、リアリストですからね。
――憲法9条もありますが、日米同盟においてトランプ皇帝の下では、アメリカと一緒に戦争するのもマズいんですね。
佐藤 面倒な事に巻き込まれないように、見(けん)に回るのがベストです。
――前々回、トランプの下で守るべき二条を教えていただきましたが、すると第二条にはB項もあるわけですね。
佐藤 そうです。
【第二条B項】見に回してもらい、アメリカと敵対しない
別に一緒に戦う必要はないんですよ。ただ、利益があるなら一緒に戦えますけどね。
――なるほど。
佐藤 でも、今の日本はなかなか巧みですよ。日本の外交能力は高く、G7の中で唯一ウクライナ戦争で疲弊してない国ですから。
――完全に負け組が西欧、日本は準勝者となり、米国は勝ち組に入ろうとしている。
佐藤 3月末に行なわれた英仏主導のパリ有志国会合に、日本は参加せずメッセージだけ送りました。ZOOM会議にも出ていません。
――見にまわっていますね。そこがまさに、巧みなところというわけで。
佐藤 そういうことです。
次回へ続く。次回の配信は5月9日(金)を予定しています。
取材・文/小峯隆生
記事提供元:週プレNEWS
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