【不定期対談】天竺鼠の川原と。浅野忠信「俳優と芸人にとって『賞』は大切なのか?」(後編)
天竺鼠の川原克己さん(右)と俳優の浅野忠信さん
お笑い芸人、絵本作家、映像監督、俳優など、ジャンルを飛び越えて唯一無二の存在感を放つ天竺鼠の川原克己さんが、各界のアーティストとお互いの創作活動についてさまざまな言葉を交わす対談企画。
前編に引き続き、俳優として国内外で活躍する一方、音楽活動や絵画制作にも精力的な浅野忠信さんをゲストにお迎えします。
■消える寸前で認めてもらえた川原 ドラマ『SHOGUN 将軍』でのゴールデングローブ賞助演男優賞受賞、おめでとうございます。シンプルに言うと、名誉すごいですね。なんかもう、おめでとうよりも腹が立ちます。勝手に浅野さんも僕も好きなことをするタイプだと思ってるんやけど、僕には名誉がない。ちょっと分けてください、名誉。
浅野 ははは(笑)。素直に、本当にうれしかったです。今まで、自分の演技に対してものすごく共感してくれる方はいたんですけど、「なんで自分は表に出る側じゃないんだろう?」ってずっと思ってたんですよ。
それこそ、自分はずっと闇側を背負って生きてると思ってたんで、まさかあの賞がもらえると思わなかったですね。
自分がやったことを認めてくれる人がいると思って、自分で自分を認められました。自分では正しいと思ってるけど、世間からはそう見られていないんだと思って、本当にほぼ消える寸前の、ギリギリのところでちゃんと認めてもらえた。
川原 浅野さんは、評価とかから自負が持てたりする?
浅野 評価、めちゃくちゃ大切にしてますね。お客さんが喜んでくれる、スタッフが現場で喜んでくれるとか、そういうものの先にこういった賞みたいなものがあるのかなと思うから。
賞が欲しいわけではないですけど、「自分、正しかったんじゃない?」って思えるんですよね。川原さんは、お笑いの賞レースはどうとらえているんですか?
川原 僕は「賞レースで優勝して売れたい」というのはまったくなくて、「全国で変なことをしたい」「なるべくたくさんの人を腹立たせたい」という気持ちがあるから出るようにしてて。
だから、決勝に行けたりすると、「やった!でっかい場所で変なことできる!」って思ってうれしいです。でも、準決勝で一番ウケても落とされることも多い。審査員も選考途中で「決勝でも変なことするだけやろ」って気づくんでしょうね。ちょっと嫌がられてるんやろうなって思う。
浅野 同じです。僕も現場で「変なことしないでください」って、はっきり言われるときがあります。でも、僕の場合は変なことしてるんじゃなくて、ものすごく一生懸命......ヘタすりゃ誰よりも考えてきた答えなんですって感じなのに。
ひどいときは、オファーされたものに対して僕なりに提案したら、断られるなんてこともあります。
川原 あぁ、やっぱ似てるかもなぁ。
浅野 今、川原さんがおっしゃっていたように、オファーした側の何かに収まってほしいんだと思うんです。脳みそをぶっ壊すような考えではなくて、彼らの脳みその中でやってほしいんだなと。
川原 そうですね。だから僕も浅野さんに対して、「枠に収まってない人だからこそ何者なんだろう?」って思ったし。逆に、浅野さんからオファーを断ることもあるんですか?
浅野 ありますね。そもそも今の自分に合ってないとか、そういうところで。逆に言うと、今の自分に合っていれば、つまんない台本や役もたくさんやってきました。要するに、「こんなものは誰もやらないから、僕におもしろくしてくださいって意味ですよね?」って受け止めてトライするというか。
川原 なるほどなぁ。やっぱ、楽しいってそういうことですよね。僕も浅野さんも、ずっとガキなんですよね。みんな、どんどん大人になって、「枠の中でちょっと遊べたらいい」が上手になっていくから、自然と遊びがどんどんなくなっていく。
そうすると、自分が今、何が本当に好きなことなのかがまひしてわからなくなっていっちゃう。その大人の沼が怖い。
木登りでいうと、「そこから上は登ったらダメよ」ってところが楽しいじゃないですか。僕はあまのじゃくなところもあるから、「ぶっ壊してください」って言われたら、ちゃんとしたくなる。
浅野 川原さんって長男ですよね? もしかしたら、そこがちょっと違うところかもしれないです。僕は次男なんで、まずはなんでも「はい」って言うんです。で、やらないんですよ。
だから、その後、「はいって言ったよね?」ってすごく怒られることがあります。でも、たぶん長男って最初からやらない。
川原 確かに、まず現場にすら行かないです。どうせやらないのに行ったら、その場の人たちがかわいそうって思っちゃうんですよ。
浅野 だから、川原さんのことは、「長男なんだなぁ」と思いながらいつも見てます。
川原 見方が変ですよ(笑)。僕を「長男だなぁ」って思って見てる人いない。おかんとおとんぐらい。いや、おかんとおとんも思わないですよ。
浅野 僕は共通点とか違いを見つけたときにけっこう兄弟構成を気にするんですよ(笑)。なんか......僕たち、兄弟かもしれないですね。
川原 お母さまとお会いしたときも、やっぱ他人じゃなかったもんなぁ。
■飽きることはあるのか?川原 浅野さんは演技に飽きることとかありますか? 僕は、「ちゃんとしないこと」が楽しいわけじゃなくて、「ちゃんとしてほしいところでちゃんとしない」のが楽しいから、「好きにするんでしょ?」って思われると飽きちゃう。
浅野 確かに、期待されちゃったりとかね。僕は駆け出しの頃、ナチュラルな芝居とか自然体な芝居とかってよく言われたんですね。でも、なぜかというと、僕がそれに一番こだわってたから。本当に自然体なわけではなくて、ものすごく作ってたんで。パントマイムをしている状態。
でも、28歳くらいの頃、そのやり方にやっぱり飽きましたね。真逆なことがやりたいって思うようになって。それまでは、ちょっとわざとらしく見える演技とか大げさなものはやらないようにしてたんですけど、30代からそっちを頑張ったんです。そしたら、そういう役もいただけるようになりました。
川原 そこよね。たぶん、みんな、頑張った部分を手放さなくなるから、ストレスがたまってどうしていいかわからなくなる。けど、浅野さんとか僕は、なんかちょっと飽きたと思ったら、すぐ変える。
浅野 本当に。最初の修業期間みたいなのって、もうやってきたからやりたくないんです。今までやってきたことで何かを得ることが自分に対しても失礼だと思ってるんで、だったらなくていいって思っちゃうんですよね。外から見れば成功してるように見えるかもしれないけど、それはもうできないなっていう。
■俳優にも賞レースが欲しい浅野 僕ね、俳優の『M-1グランプリ』みたいなものをつくってほしいなと思ってるんですよ。
川原 誰が審査すんねん(笑)。
浅野 お笑いのうらやましいところは、賞レースがあるところです。争えばいいわけじゃないけど、賞レースに向けて頑張った結果、本当にみんなおもしろいじゃないですか。俳優ってそれがないから、演技以外で評価されることも正直あるんです。だから、賞レースがあったら、みんなものすごく成長するのかなって。
自分でネタを作って舞台に立って、4分で人を泣かせたり、お笑いではないカタチで笑わせたりできるのか。僕、本当に一度、『M-1』に出てみたいと思いました。
例えば、山田孝之くんとかと僕が真剣に演技をして漫才をやったら、「お笑いじゃねえじゃん、でも泣いちゃった」みたいになるかもしれない。そうなったら、それは本物だなって。
川原 おもしろいなぁ、4分で泣かせる漫才。でも、浅野さんに関しては単純におもしろいものを作っても、たぶん決勝行けると思うんだけど。
浅野 本当ですか?(笑)。お笑いの人が映画やドラマに出ることはよくあるけど、われわれがお笑いに参加させてもらうことってほとんどないんですよ。だから、ハードルは高いけど、僕らもそこにチャレンジするべきなんじゃないかなって。
「俳優じゃねえか」って冷たい目で見られることを乗り越えてちゃんと笑わせられたら、演者としてもフェアですしね。
●川原克己(かわはら・かつみ)
1980年1月21日生まれ、鹿児島県出身。お笑いコンビ「天竺鼠」のボケ担当。芸人以外にも映像監督、俳優、絵本作家、音楽活動など多岐にわたって活動中
●浅野忠信(あさの・ただのぶ)
1973年11月27日生まれ。神奈川県出身。1988年にテレビドラマで俳優デビュー。多くの海外作品に出演し、数々の賞を受賞。モデルやミュージシャンのほか、絵画の個展を開くなど、マルチに活動中
構成/佐々木 笑 撮影/TOWA
記事提供元:週プレNEWS
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