メキシコ犯罪事情。大リーガーの告白【二宮清純 スポーツの嵐】
たまたまテレビ(テレビ朝日系「大下容子 ワイド!スクランブル」)をつけたらメキシコのプロレスラーで“千の顔をもつ男”として知られるミル・マスカラスのコメントが紹介されていた。
「女性はあらゆる面で男性と同じ権利を持っているという意識が少しずつ目覚めている」
6月2日に行われたメキシコ大統領選挙を受けたものだ。投開票の結果、メキシコ市の女性市長だったクラウディア・シェインバウム氏が女性実業家のソチル・ガルベス氏に大差をつけ、同国初の女性大統領に就任した。
「女性が恐怖を感じることのない、暴力のない生活を実現する」
シェインバウム氏は、こう訴えて支持を集めた。
しかし、言うは易し行うは難し――。女性初の大統領が誕生する数時間前に、中西部のコテハという町で女性町長が銃撃され、殺害された。
地元紙は麻薬密売組織「ハリスコ新世代カルテル」の一員である可能性が高い、と伝えている。
メキシコでは、女性殺しのことを「フェミサイド」と呼ぶ。毎日、約10人の女性が殺害されているという。
メキシコには「マチスモ」(男性優位主義)と呼ばれる独特の文化がある。カトリックの国スペインからの入植者たちが家父長制的な支配体制を築き上げたことに由来する。
マチスモは麻薬密売組織など犯罪集団と相性がいい。男同士の連帯、すなわち“鉄の結束”を図る上で、実に都合のいい思想だからである。
「裏切者は消せ!」
「敵対する組織は潰せ!」
在メキシコ日本大使館のデータによると、2019年の殺人件数は3万395件。コロナでやや減少したものの、それでも22年は2万7220件。1日平均で75件の殺人事件が発生している。
<自分の身は自分で守る! が基本です>
大使館は邦人に、こう警告を発している。
そんな国でプレーする日本人スポーツ選手は少なくない。野球、サッカー、ルチャ・リブレ(プロレス)など多岐に渡る。
元メジャーリーガーのマック鈴木(本名・鈴木誠)は、06年から約4シーズン、メキシカンリーグでプレーした。
「レストランでごはんを食べていると、いきなりマフィアと武装警察との間で銃撃戦が始まり、“床に伏せろ!”と言われたことがあります。途中で慣れましたけどね」
まるでテレビドラマ「西部警察」の銃撃シーンのリアル版だ。メキシコではスポーツをするのも命がけである。
初出=週刊漫画ゴラク2024年6月28日発売号
(にのみや・せいじゅん)
スポーツジャーナリスト。1960年愛媛県生まれ。オリンピック、サッカーW杯、メジャーリーグ、ボクシング世界戦など国内外で幅広い取材活動を展開中。1999年6月より、インターネット・マガジン「Sports Communications」(http://www.ninomiyasports.com)を開設。 新刊『森保一の決める技法 サッカー日本代表監督の仕事論 (幻冬舎新書 )』が好評発売中。他に『スポーツ名勝負物語』(講談社現代新書)、『スポーツを「視る」技術』(同)、『勝者の思考法』(PHP新書)、『プロ野球裁判』(学陽書房)、『人を動かす勝者の言葉』(東京書籍)、『歓喜と絶望のオリンピック名勝負物語』(廣済堂新書)、『昭和平成ボクシングを語ろう!』(同)、『村上宗隆 成長記~いかにして熊本は「村神様」を育てたか』(廣済堂出版)など、著書多数。
記事提供元:ラブすぽ
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