【スズキナオのグルメルポ】いりこ:第3回 大阪空堀の文学な建物でいりこに浸る
昆布だしが中心の関西の食文化の中でいりこを使い、しかもその中でも香川県観音寺市にあるいりこ専門店「やまくに」のいりこを選んでいるというお店に、その理由を聞いてみる。そしてそこで実際に食事をさせてもらい、「やまくに」のいりこを身近に感じてみようというのが今回の企画の趣旨である。お話を伺った結果、「やまくに」のいりこの特色を知ることができたのはもちろん、生産者と飲食店との幸福なつながり方についても考えさせられることになった。
シリーズの第3回目として、大阪市中央区・谷町六丁目にある「橋の湯食堂」にやってきた。老舗と新店がバランスよく混ざり合う「空堀商店街」を中心に多くの飲食店が集まっている“谷六”にあって、素材にこだわった体に優しい和定食やおばんざいを提供する食堂として人気のお店である。オープンは2017年。店主・橋本圭介さんは大阪の複数の飲食店で腕を磨いた後、「D&DEPARTMENT PROJECT」に関わることになったそう。デザイナーのナガオカケンメイ氏によって2000年に創設された活動体「D&DEPARTMENT」は、「ロングライフデザイン」をテーマに、日本の各地域の文化や歴史を掘り下げ、それをさまざまな形で全国に発信している。
その「D&DEPARTMENT」が、日本各地の郷土料理を手軽に味わえる食堂「d47食堂」を東京・渋谷の複合商業施設「ヒカリエ」にオープンしたのが2012年のことだったのだが、橋本さんはそこで立ち上げメンバーとして働いていたとのこと。その後、独立して自分のお店を持ちたいと考え、再び大阪へ戻って来られたのだとか。

「一人でもやれるような規模のお店を」と物件を探し、中崎町や中津、上本町といったエリアをめぐった末、たまたま見つかったのが現在の店舗だったという。ちなみに「橋の湯食堂」があるのは「萌(ほう)」という複合施設の1階で、2階には作家・直木三十五の記念館もある。直木賞にその名が冠される直木三十五はこの近くで生まれ育ち、建物の隣にかつてあった小学校に通っていたのだとか。


「萌」は、1960年に建てられた機械工場兼住宅を改装して作られた施設で、昔ながらの木造建築の風合いがそこかしこに残っている。そんな建物に、「橋の湯食堂」はしっくりと溶け込んでいるように思える。
スズキナオ(X/tumblr)
1979年生まれ水瓶座・A型。酒と徘徊が趣味の東京生まれ大阪在住のフリーライター。WEBサイト「デイリーポータルZ」「集英社新書プラス」「メシ通」などで執筆中。テクノラップバンド「チミドロ」のリーダーで、ことさら出版からはbutajiとのユニット「遠い街」のCDをリリース。大阪・西九条のミニコミ書店「シカク」の広報担当も務める。著書に『深夜高速バスに100回ぐらい乗ってわかったこと』『遅く起きた日曜日にいつもの自分じゃないほうを選ぶ』『家から5分の旅館に泊まる』(スタンド・ブックス)、『「それから」の大阪』(集英社)、『酒ともやしと横になる私』(シカク出版)、『思い出せない思い出たちが僕らを家族にしてくれる』(新潮社)、『大阪環状線 降りて歩いて飲んでみる』(インセクツ)。パリッコとの共著に『酒の穴』『酒の穴エクストラプレーン』(シカク出版)、『椅子さえあればどこでも酒場 チェアリング入門』(ele-king books)、『“よむ”お酒』(イースト・プレス)、『ご自由にお持ちくださいを見つけるまで家に帰れない一日』(スタンド・ブックス)。
記事提供元:オーヴォ(OvO)
※記事内容は執筆時点のものです。最新の内容をご確認ください。