激化するスキマバイト「プラットフォーム戦争」の勝者は誰だ?
タイミーは2024年7月に東証グロース市場に上場。上場時点で小川嶺(りょう)社長は27歳だった
3月24日、リクルートがスキマバイトサービスの開発中止を発表した。シナジーも大きく、儲かりそうな事業なのに、なぜ撤退した? そして勢力図はどう変わるのか? バッチバチの覇権争いの行方を占った!
■闇バイト案件を排除しきれないリクルートが、スキマバイト業界への参入を断念した。「タウンワークスキマ(仮称)」を2024年秋に提供開始予定としながら計画が遅延していたが、3月24日に開発中止を発表したのだ。この報道を受けて、競合である業界最大手・タイミーの株価は一時20%以上高騰した。
リクルートは「Indeed」や「リクナビ」などを運営する人材業界最大手である。公式発表では「開発優先順位の観点から開発中止を決めた」と説明されているが、スキマバイト市場の優先順位がなぜ落ちたのかはよくわからず、釈然としない。あまり儲からないと判断したのだろうか?
「いえいえ、スキマバイトは時代にマッチしている巨大な市場です」と語るのは、経営戦略コンサルタントの鈴木貴博氏だ。
「タイミーは昨年7月に東証グロース市場への上場を果たし、初値ベースで時価総額1760億円を記録しました。この時点で、18年のサービス開始からわずか6年。いかにスキマバイト市場への期待が大きいかがわかるでしょう」
タイミーの売上高も、23年10月期は161億円、24年同期は268億円と急速に増加している。さらに同社によれば、スキマバイトサービスの市場規模は、物流・飲食・小売の主要3業種だけでも約1.2兆円。全産業なら約3.9兆円と推計している。伸びしろは十分にあるのだ。
「企業の人材不足はこれからも続きますし、物価高騰などに苦しむ中でスキマバイトに取り組みたいワーカーも増加し続けるでしょう。私は、タイミーが10年後にプロ野球球団を持てるほど大きくなる可能性すらあるとみています」
それほどのドル箱市場なら、なおさらリクルートの撤退は不可解だ。リクルートなら自社のサービスともシナジー(相乗効果)があるわけで、もし参入していれば、タイミーから一気にシェアを奪う未来もあったかもしれない。ではなぜ撤退を決めたのだろうか?
「昨年以降、スキマバイトを使った犯罪事案、いわゆる闇バイト求人が問題視されるようになっていますよね。関係者から漏れ伝わってくる話から推察すると、そういった悪質な求人に伴うトラブルのリスクを排除できないと判断したようです」
しかし、そのリスクは競合他社も同じでは?
「リクルートはネガティブな評判が広まりブランド価値が低下することを極端に避ける企業なんです。それは1988年に贈収賄によって同社会長の江副浩正氏や政治家が起訴された『リクルート事件』を起こした際に、社会から厳しい批判を浴びた過去があるからです。
それ以来、違法行為を避けるのはもちろん、グレーな部分についても非常に慎重な経営判断をするようになりました。今後スキマバイト事業で何か問題が起きた場合、他社にとっては謝れば済む問題でも、リクルートはそれでは済まないと判断したのでしょう」
とはいえ、求人情報をチェックして悪質な案件を排除すればいいだけでは?
「それが非常に難しいんです。既存の求人サービスでも、年に数回はルール違反の求人が掲載されてしまう事案が発生しています。
例えば、まともな求人情報を長年出していたクライアントから同じような求人情報が来れば、通常は審査を通しますよね。ところが求職者が面接に行ってみたら、ルール上NGな性風俗案件になっていたというケースもあります。
こういった求人情報の中身をすべて完璧にチェックすることは実質的に不可能なんです。特に、スキマバイトとなると面接をしないスタイルが主流。その分、よりトラブルのリスクが大きいので、泣く泣く撤退したというのが実情でしょう」
■炎上するほどタイミーが有利に?現状の代表的なスキマバイトプラットフォームは表に示したが、今後の勢力図はどうなっていくのだろうか。
「今は過当競争の真っ最中といえますが、数年後には撤退する企業が出てきて、最終的には3社ほどに絞られていくでしょう。そのときにはタイミーは業界1位か、それに近い位置にいると予想します」
リクルートほどではないとしても、メルカリやLINEヤフー、バイトルを運営するディップはタイミーにとって大きな脅威のはず。それでもタイミーが勝ち抜けると予想する理由は?
「求人のようなマッチングサービスにおいては、利用者が増えるほど利便性も向上します。求人情報が多ければワーカーも増えて、さらに求人情報が集まりやすくなるというサイクルが生まれるわけですね。そのため、この業界の先駆者であるタイミーの優位性は崩れにくいんです」
また、業界に残り続けるグレーゾーンの問題が、むしろタイミーにとっては追い風になりえると鈴木氏は言う。
「今後もスキマバイト事業者と悪質な求人とのいたちごっこは続くでしょう。そして、そういったグレーな要素は一般に、大企業よりもベンチャーにとって有利に働きます。
これは電動キックボードの貸し出しサービスで急成長しているLuupを例に考えればわかりやすいかもしれません。同社は利用者の危険乗車がたびたび批判の的になっていますよね。
でも実は、そういったグレーな部分がピックアップされるほど、大手企業がその事業に参入するのが難しくなるのです。トヨタやホンダが電動キックボードに参入するとは想像できないですよね?
一方、炎上リスクを恐れず突き進める社風を持ったベンチャーは競合が少ない分、よりシェアを拡大できます」
プラットフォームの覇権争いは数年後には決着がつくだろう。タイミーの座を脅かす事業者は現れるのだろうか?
取材・文/伊藤将史 写真/時事通信社
記事提供元:週プレNEWS
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