今年のマスターズを制するのは誰か? 期待される「もしも」のストーリー【舩越園子コラム】
いよいよ今週はマスターズ・ウィーク。日本のゴルフファンは、2021年大会を制覇した松山英樹のマスターズ2勝目に期待を寄せていることだろう。
一方、米国では、米メディアの優勝予想でも、ブックメーカーのオッズでも、勝者の最有力候補には、スコッティ・シェフラーとローリー・マキロイが挙げられている。
とはいえ、世界ランキング1位と2位の彼らにも、それぞれに不安要素があり、実際の優勝争いは混迷をきわめそうな予感がする。その意味では、今年のマスターズの優勝予想は、なかなか複雑で難しい。
2022年にマスターズ初優勝を遂げ、昨年大会で2勝目を挙げたシェフラーは、ディフェンディング・チャンピオンとして臨む今年も勝利すれば、タイガー・ウッズの連覇(2001年&02年)以来の快挙達成となる。
しかし、昨年のクリスマスに右手のひらを負傷して手術を受けたシェフラーは、出遅れた今季、まだ1勝も挙げておらず、果たして今週、一気にアクセルを踏み込めるのか、どうか。
逆に、マキロイは今年はAT&Tペブルビーチ・プロアマとプレーヤーズ選手権を制して、今季すでに2勝。アクセル全開でオーガスタ入りする。しかし、マスターズが近づくにつれて、ギアを持ち替えたり、右ひじに違和感があると明かしたりと不安定な面も見て取れる。
マキロイには、2011年マスターズ最終日に首位を独走しながら、後半で大きく崩れて15位タイに甘んじた苦い経験がある。今年こそ悲願のマスターズ初制覇となるか、どうか。カギとなるのは、そのトラウマを克服できるか、否かだ。
そんなふうに、シェフラーにもマキロイにも、それぞれにクリアすべき課題が見て取れることに加え、今年のマスターズ出場者の顔ぶれは実に多彩ゆえ、今こそは勝利への扉が広く開かれていると言っていいのではないだろうか。
オーガスタ・ナショナルから特別招待を受けたデンマーク出身の23歳、ニコライ・ホイガードは、自力で出場権を獲得した双子のラスムスとともに、今週、2人一緒にオーガスタの土を踏む。双子兄弟が揃って出場するのは、マスターズ史上初めてのことだ。
チリ出身のホアキン・ニーマンも特別招待を受けて出場する。オーガスタ・ナショナルが2年連続でリブゴルフ選手に特別招待をオファーしたのは、言うまでもなく史上初。そして、リブゴルフ選手はニーマンを含む12名が出場。その中には、フィル・ミケルソンからジョン・ラームまで、過去のマスターズ覇者たちの姿もある。
どこのツアーの選手であるかはさておき、世界のトッププレーヤーたちが一堂に会することは、ゴルフファンにとって何よりうれしいこと。そして、特別招待の授け方一つ取っても、リブゴルフ絡みの一連の騒動で人気や注目が低下したと言われているゴルフ界を立て直し、ゴルフというゲームの成長と発展を願うオーガスタ・ナショナルのひたむきな姿勢が伝わってくる。
「ひたむき」と言えば、ゴルフに対して、とことんひたむきなブライソン・デシャンボーは、今年のマスターズを沸かせてくれそうな筆頭選手だと、私は秘かに期待している。
独自の科学的理論を掲げるデシャンボーは、米ゴルフ界では「狂った科学者」と呼ばれている。米スポーツイラストレイテッドのインタビューに応えた際、「なぜ、ボールを塩水に入れるのか?」と問われたデシャンボーは、「よくぞ聞いてくれた。ありがとう」と喜んだ上で、「塩水実験は、バランスをチェックするためのものだ」と答えていた。デシャンボーによると、「重みが偏ってバランスが崩れているボールは、塩水の中でくるくる回る」とのこと。
「最近のボールでバランスが狂っているものは、ほとんど無いけど、ストレートに打つのが得意ではない僕のような選手にとっては、わずかな狂いであっても、それを事前に取り除くことが大きなモノを言う」
だから、ボールのバランスを1つ1つ、丁寧にチェックするのだと、デシャンボーは明かしていた。
とことんこだわり、追及する姿勢は、その度合いが過度になれば、セルフ・プレッシャーをかけることにもなる。しかし、デシャンボーのひたむきな姿勢は、昨年の全米オープン優勝につながり、今年はマスターズ初制覇への期待が高まっている。体重を極端に増やしたり減らしたり、3Dプリンター製のクラブで戦ったりと失敗を恐れないチャレンジャーだ。
独自のユーチューブ・チャンネルを運営し、登録者数180万人を誇るデシャンボーが、もしも今年のマスターズでグリーンジャケットを羽織ったら、彼は間違いなく、混乱している今のゴルフ界に咲く大輪の花となる。そんな「もしも」のストーリーが現実になることを、私は秘かに期待している。
文/舩越園子(ゴルフジャーナリスト)
<ゴルフ情報ALBA Net>
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