巨人、阪神、DeNA、そして 中日......"セ・リーグ注目球団"の投打の仕上がりは
オープン戦初戦のDeNAvs巨人が行なわれたユニオンですからスタジアム宜野湾
本誌おなじみの野球評論家、お股ニキ氏が沖縄へ赴き、「DeNA vs 巨人」「中日 vs 阪神」のオープン戦 2試合を生観戦。今季のセ・リーグを盛り上げるであろう各球団の現状を詳報する。
■"牛骨バット"解禁で打球音に変化近年の温暖化はどこへやら、2月下旬の沖縄は真冬の寒さが残っていた。
昨季のセ・リーグ覇者である巨人、レギュラーシーズン3位ながら下克上日本一を成し遂げたDeNA、一昨年の日本一球団である阪神、そして、3年連続最下位と低迷が続く中日。今季のセ・リーグを盛り上げるであろう、これらの注目球団を沖縄キャンプで視察させてもらった。
昨季のCSファイナルステージの再現となった2月22日のDeNAvs巨人、新監督同士の対戦となった2月23日の中日vs阪神のオープン戦2試合を生観戦したが、まず気になったのは打球音の変化だった。
近年のNPBは打球の飛距離が落ち、歴史的な投高打低傾向が続いているが、今季から"牛骨バット"(牛骨で表面をしごいて木目を詰めたバット)の使用が解禁された影響なのか、打球音や飛距離の感覚がここ数年とは異なっているように感じた。今季は投高打低傾向が多少は是正されるかもしれない。
現場の首脳陣や選手だけでなく、ファンも含めて、配球、戦術、選手評価、プレーなど、歴史的な投高打低傾向のここ数年で狂った認識や感覚を微調整していく必要が生じるだろう。
小雨が降りしきる悪天候にもかかわらず、中日vs阪神のオープン戦を見ようと超満員の観客が集まったAgre(アグレ)スタジアム北谷
近年は積極的にゾーン勝負する投手が増えたが、今季は被弾したり、痛打されたりするリスクが高まるのではないか。ボール球も織り交ぜて勝負するバランスが求められそうだ。
生観戦したオープン戦2試合では、どのチームも打線の好調さが目立ったが、投手に関しては選手によって仕上がり具合が異なっていた。ここからは球団別に現状分析をしていこう。
■球界随一の捕手陣を擁する巨人昨季、4年ぶりのリーグ優勝を果たした巨人は、甲斐拓也、ライデル・マルティネス、田中将大らをオフに積極補強。昨季リーグ優勝したとはいえ、前半戦は苦しみ、終盤に僅差で勝ち抜いたことを考えれば今季も油断はできず、戦力アップに余念がない。
オープン戦初戦からスタメンマスクをかぶる巨人・甲斐。投手陣と積極的に話す姿が印象的だった
リーグ連覇、13年ぶりの日本一奪還を目指す今季、懸念されるのは昨季復活した菅野智之(オリオールズに移籍)の穴だろう。田中将に代役を期待する声も多いが、菅野は一昨年8月の段階でフォーム改造の成果が出ていたことを考えると、突貫工事で今季中の完全復活を望むのは酷というものだ。
そこで若手投手の台頭が期待されるが、実績のある戸郷翔征や山﨑伊織と比較すると、昨年のキャンプで注目した又木鉄平や京本眞はまだ球の強度やフォームが物足りない。西舘勇陽や堀田賢慎も結果を残せておらず、さらなる成長が必要だ。
打線は丸佳浩、坂本勇人、岡本和真が不在では迫力を欠き、彼らの存在の大きさをあらためて感じた。
そんな中、若手野手で気になる選手が3人いた。まずはプロ2年目の泉口友汰(いずぐち・ゆうた)だ。昨季から期待していたが、今季も鋭いスイングができており、打撃内容は悪くない。そして、浅野翔吾もハードヒットができており、打撃感覚の良さを感じる。もう少しフォロースルーが大きくなるといいだろう。
さらに、秋広優人(ゆうと)もバットを寝かせるフォームで本来の打撃がよみがえってきており、楽しみな存在だ。
新加入の甲斐も芯でとらえる打撃ができており、打感はいい。だが、捕手としては投手陣とコミュニケーションを重ねていく必要がまだまだあるだろう。攻守において、がむしゃらなプレーだけではなく、経験に裏打ちされた押し引きや相手をいなすプレーを見せてほしいものだ。
一方、甲斐の加入で立場が厳しくなる大城卓三(たくみ)だが、DeNAとのオープン戦では逆転3ランホームランを放ち、意地の一発回答を見せた。
甲斐、大城卓、岸田行倫がそろう捕手陣は、DeNAや日本ハムと並んで球界トップクラスの厚みを誇るが、投手陣や野手陣は主力とそれ以外の選手との実力差が顕著なので、シーズンを通して底上げしていく必要がありそうだ。
■「4番・森下」が打線を引っ張る阪神藤川球児新監督が就任した阪神。日本一連覇を狙った昨季は貧打に苦しんで2位に甘んじたが、オープン戦では打線の好調さが感じられた。
藤川新体制で4番を任される森下翔太はいよいよ一本立ちの気配。プロ入り後の過去2年はシーズン序盤に調子を崩し、終盤で無双する流れを繰り返したが、今季は開幕からフルでやりそうだ。腰痛が心配されたが、さらに打撃のレベルが上がり往年の城島健司氏(現ソフトバンクCBO[チーフベースボールオフィサー])のように見えてきた。
今季から4番を任されている阪神・森下。オープン戦初打席でいきなり3ランを放った
佐藤輝明(てるあき)もステップが小さくなり、軽くスイングすることでミート率が上がってくるだろう。前川(まえがわ)右京も飛距離が伸びてきており、ミート力のある打者は牛骨バットの好影響を受けそうだ。
一方、投手陣ではエース格の才木浩人が昨季中盤からやや調子を落としている。打者にスプリットをケアされ、ストレートに対応されると厳しい。カーブやスライダーなど、第3、第4球種の質も上げていきたい。
そんな阪神投手陣だが、新加入組が軒並みいい。ドラフト1位の伊原陵人(たかと)、育成1位の工藤泰成(たいせい)、育成3位の早川太貴(だいき)らは球に強度があり、非常に楽しみな存在だ。
新外国人のジョン・デュプランティエも150キロ以上を安定して計測し、各球種の状態もいいので、先発ローテ争いに加わってきそうだ。
「球の強度はあるものの制球や安定感があと一歩の投手」を獲得して魔改造する阪神の目利き力や手腕は健在なので、今季も大いに期待したい。
■森敬の成長度合いに左右されるDeNA昨季、レギュラーシーズン3位ながら下克上を果たし、26年ぶりの日本一を達成したDeNA。フルメンバーだと打線の圧力はやはりリーグ随一だ。昨季は投高打低傾向が顕著だったため、表面上はそれほど良く見えなくても、打線の傑出度は歴代屈指と言える。
その打線の中心であり、故障さえしなければ数字を残すタイラー・オースティンは、オープン戦初戦から先発出場。第2打席は一度もバットを振ることなく三球三振だったが、球筋を確認するその姿は往年の落合博満氏を彷彿とさせた。
若手ではプロ4年目の梶原昂希(こうき)が相当期待できそうだ。プロ3年目の松尾汐恩も期待大だが、マスクをかぶると失点が多く、これから配球を学んでいく必要があるだろう。ルーキーでは加藤響(ひびき)の守備が良く、打撃も思い切りがあって注目したい。
トレバー・バウアー復帰で外国人投手の層が厚くなるが、中でもアンドレ・ジャクソン、ローワン・ウィックの出来の良さが目立った。
一方、日本人投手の突き上げは石田裕太郎くらいでまだ物足りないとはいえ、投手力は上がってきているため、課題の守備や走塁のディテールをどれだけ詰められるか。
昨季からショートのレギュラーに定着した森敬斗は少しずつ野球を覚えてきているが、スローイングのミスも散見される。投打共に各ポジションの戦力が整ってきているからこそ、森敬の成長度合いで優勝争いに加われるかどうかが決まるだろう。
昨季、ショートの定位置をつかんだDeNA・森敬。日本シリーズでも全試合にスタメン出場した
立浪和義前監督の下で3年連続最下位に沈み、今季から井上一樹(かずき)新監督が率いる中日。右打者は軒並みコンパクトかつ鋭いスイングができており、打率も長打も期待できる打ち方をしていた。
中でも、昨季は規定打席未到達ながら.306を記録した福永裕基(ひろき)が今季さらに良くなっており、3番起用もうなずける。
さらに、新外国人のジェイソン・ボスラーが内容のあるバッティングをしていて個人的に好みの打者だった。低めのスプリットなどはしっかりと見極めてバットが止まり、日本人投手のストレートの軌道に合うような打ち方をしているため、結果が出るのも必然。阪神とのオープン戦でも、才木のストレートを場外まで飛ばしていた。
来日3年目のオルランド・カリステも良く、この状態なら中日打線は非常に楽しみだ。岡林勇希がキレと調子を取り戻し、井上監督が4番に期待する石川昂弥(たかや)がひと皮むければ本当に面白い。
試合開始前にメンバー表を交換する中日・井上新監督(右)と阪神・藤川新監督(左)
そして、オープン戦でひときわ目立っていたのが髙橋宏斗。得意のストレートとスプリットだけでなく、第3球種や第4球種のカーブ、カットボールの質が非常に高かった。
カーブはこれまでジャイロスライダーに近い球質だったが、一緒に自主トレをするなど尊敬してやまない山本由伸(ドジャース)のビッグカーブのような緩急、奥行きがあるボールへと進化。
いったん浮き上がる軌道で打者の目線を上げつつ、制球も良くカウントを奪えていた。相手に少しでもカーブを意識させるだけで、持ち前のストレートやスプリットがより生きる。
昨季、球団記録を更新する防御率1.38をマークした中日・髙橋宏。今季も状態が良さそうだ
さらに、カーブだけでなく、カットボールも空振りが取れるくらい鋭く曲がっていた。ライズするハードカッターと、斜め下に落下するスラッターとの投げ分けができれば鬼に金棒だろう。
ちなみに、沖縄キャンプ視察の最大の目的は、髙橋宏と伊藤大海(日本ハム)へのダブルインタビューだ。共にWBC決勝で登板し、昨季のタイトルホルダーでもある"セ・パ最強右腕"を直撃した記事は後日掲載予定。
各球種の握りや投げ方、最新フォームの感覚、グラブへのこだわり、マウンドの傾斜に悩む投手へのアドバイスなど、深く掘り下げることができたので、楽しみに待っていてほしい。
取材・文/お股ニキ 写真/時事通信社(甲斐・森下・森敬・髙橋宏)
記事提供元:週プレNEWS
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