特異な系譜を継ぐ「沖縄ヤクザ」に全国の警察が注目する理由
嘉手納基地へと続く沖縄市のゲート通り。かつての沖縄抗争で「コザ派」が拠点とした場所だ
沖縄県中部の北中城(きたなかぐすく)村。米軍統治下に「琉球米軍司令部(Ryukyu Command headquarters)」、通称「RyCom(ライカム)」があったことからその名がついた「ライカム交差点」のほど近くにある堅牢な門構えのその場所が緊迫感に包まれたのは、2月8日のことである。
早朝から黒塗りの高級セダンや大型ワンボックスカーが次々と吸い込まれていったのは、沖縄唯一の指定暴力団「旭琉會(きょくりゅうかい)」の本部。この日、同組織の代替わりのための「盃儀式」が行われたのだ。
■警視庁も捜査員を現地派遣「盃儀式とはヤクザ組織の慣例で、親分と子分が盃を交わして擬制の『親子関係』を結ぶ儀式です。旭琉會の二代目会長に、三代目富永一家の糸数真総長が就任することになり、この日、糸数氏と傘下組織の組長らが親子盃を交わし、新体制が正式にスタートしました。先代で初代会長の富永清氏が2019年7月に死去してから続いてきた『トップ不在』の状況がようやく終わった形です」(同組織の動向に詳しい警察関係者)
関係者によると、同組織の本部周辺にはこの日、沖縄県警で暴力団対策を担う捜査員らのほか、組織の動向の警戒に当たる警視庁など県外の捜査機関の捜査員の姿もあったという。旭琉會の体制刷新に、県内外の捜査当局が高い関心を寄せていたのはなぜか。
沖縄県中部にある旭琉會本部がある建物。盃儀式の当日は県内各地から幹部が集結した
「そもそも指定暴力団でありながら、5年以上も代替わりをしてこなかった旭琉會の対応は異例なものでした。組織の規律を守る上でも、いち早く跡目を決めて新体制を発足させるのが一般的ですが、旭琉會は代替わりをしない代わりに、『代表代行』という実質的な代表職を新たに設けることで対応してきました。
それが今回、組織内での調整、世代交代が済んだためにようやくの代替わりとなったようですが、『山動く』の感もあり、なおさら注目を集めたという側面もあります」(同)
■沖縄ヤクザの特異な系譜なぜ、旭琉會はこれほどの長きに渡って、特異な組織運営を続けてきたのか。そこには、血で血を洗う抗争を繰り返してきた同組織の歴史も関係しているという。
「旭琉會が現在のように沖縄唯一の指定暴力団としてひとつにまとまったのは2011年のこと。それまでは沖縄旭琉会と三代目旭琉会の二派に分かれて長らく対立関係にありました。
1990年、組織内の内紛から先代の富永清会長が三代目旭琉会より絶縁処分を受けて、沖縄旭琉会を結成したのが対立の発端です。分裂直後には双方の多数の死傷者が出るほどに抗争が激化。アルバイト中だった高校生、警戒中の警察官が組員と間違われて射殺される事件も発生し、1992年に暴力団対策法が施行されるきっかけにもなりました」(地元メディア記者)
県民の4人に1人が命を落としたといわれる地上戦で、荒廃した中での再出発を余儀なくされた沖縄。戦後の混乱期に米軍から物資を強奪する「戦果アギヤー」と呼ばれた窃盗団が源流だとされる沖縄ヤクザの歴史は熾烈な抗争の歴史でもある。
「カンパン」と呼ばれた米軍の雑居収容施設に集まった愚連隊が徒党を組み、やがて「シンカ」と呼ばれる小集団を形成する。
その中で、極東最大の嘉手納基地の〝城下町〟であるコザ市(現沖縄市)周辺を縄張りとした「コザ派」と、県内最大の商業都市・那覇市を中心に勢力を拡大していった「那覇派」の二大勢力が台頭し、衝突したのが最初の抗争といわれる。
その後、1972年の日本復帰を前に対立する両派が合流して「沖縄連合旭琉会」が発足したが、三代目山口組の沖縄進出など、裏社会の情勢変化の影響も受けながら、警察庁が認定した抗争は「第6次抗争」にまで及んだとされる。
■台湾裏社会との連携にも警戒「抗争の最も大きな引き金となるのが、跡目争いです。特に沖縄ヤクザの再合流に力をふるい、カリスマ的な影響力のあった富永氏の後継になる意味は大きい。衝突を繰り返した過去の経験から再び大きな内紛に発展しないよう、組織内での調整を慎重に進めていたから、これほど代替わりに時間がかかったといえるでしょう」(同)
関係者によると、今回の代替わりでは、執行部の体制も一新され、傘下団体の幹部の顔ぶれも様変わりしたという。
「代替わりの前に複数の重鎮幹部が引退し、傘下団体の整理統合も進められました。かねてから組織同士のつながりが噂されている台湾マフィア『竹聯幇(ちくれんほう)』との関係は傘下組織の間でも濃淡があり、以前のような活発な交流があるかは不透明でしたが、新体制になって変化していく可能性もあります」(前出の警察関係者)
関係者によると、代替わりの儀式を済ませた旭琉會の幹部は2月中旬には本土に渡り、山口組や稲川会、住吉会などの有力団体に新体制発足を報告したとされる。国内最南端に拠点を置く暴力団の「人心一新」は、今後、裏社会にどのように波及していくのだろうか。
文/安藤海南男 写真/藤崎健二郎、photo-ac.com
記事提供元:週プレNEWS
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