賠償金の代わりに生まれてきた子どもを提供することに 子どもに興味を持たない提供相手 「石門」本編映像
2025年2月28日より劇場公開される、“中華圏のアカデミー賞”と称される第60回台北金馬獎で、日本資本の映画として初めて「最優秀作品賞」を受賞した映画「石門(せきもん)」から、本編映像の一部が公開された。
死産の責任を追及され高額な賠償金を迫られていたリンの両親を助けようと考えたリンは、賠償金の代わりに生まれてくる子供を提供することに決めていた。公開された映像では、胎内の子の検査に訪れた病院での一幕が切り取られている。
リンと両親は、子供を提供相手であるいとこのシルビアを紹介される。母は気丈に「どうもお元気そうで」とあいさつし、父は「しっかりと愛情を注ぎ赤ん坊の世話をして、立派な人に育ててほしい」と伝える。シルビアと2人きりになったリンは、「ご主人は来てないの?」と尋ねるが無視される。その時、偽名を使って通院しているリンに看護師が、「結果はよかったわ、休息と栄養をきちんととってね」と診断結果を渡す。
診断書を見つめていたリンは、「見て、いい結果だから」とシルビアに差し出すが、相手はスマートフォンを見つめているだけ。「目を通して、この子はあなたが育てるのよ」と繰り返すリンに、仕方がないとばかりにしぶしぶ診断書を手に取るが、チラ見しただけでスマートフォンの画面に目を移してしまう。たまりかねたリンが「怒ってるの?」と問うと、母として育てることとになるシルビアは、「世間知らずね」と吐き捨て、「従兄に渡して、彼が見るから」と診断結果を突き返して立ち去ってしまう。
「石門」は、望まぬ妊娠に直面した20歳のリンを主人公に、女性の前にあるさまざまな壁を静かに見つめた作品。監督は、中国湖南省出身のホアン・ジーと東京出身の大塚竜治。中国と日本を拠点に活動する夫妻は、女性の性に関する問題をテーマに映画を共同制作してきた。これまでに、封建的な湖南省の農村で出稼ぎをする両親と離れて抑圧された生活を送る14歳の少女を描いた「卵と石」のほか、学校で没収されたスマホを売ったことで見知らぬ男たちと知り合うことになる16歳の少女を追った「フーリッシュ・バード」を送り出している。「卵と石」「フーリッシュ・バード」に続き、ヤオ・ホングイが主人公のリンを演じている。
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一足先に本作を鑑賞した著名人によるコメントも公開された。コメントは以下の通り。
【コメント】
■折田千鶴子(映画ライター)
現代中国の(いや世界中!)マネー至上主義社会で生き惑う女性の呆然が肌感覚で伝わる。でも意外な逞しさがユーモラスで、その選択と顛末から目が離せない。
■児玉美月(映画批評家)
搾取的な経済体制に組み込まれた女性の身体において、いかに自己実現のための体力が奪われ、気力が削がれてゆくのか。
その”痛み”に気づけるのかを、『石門』は問う。
■古内一絵(作家)
女性を「産む性」としか定義しない世の中は、なんて根深く、残酷なのだろう。この映画は静かだが、とても切実で、深い。
■瀧内公美(俳優)
役者とは何か。演技とは何だろうか。日常を生きる、社会を見つめることを蔑ろにしてはいないだろうか、と自身に問わざるを得ない。
この作品の中で生きている、演じている"非俳優"のみなさんにただただ尊敬の念を抱きました。
■斎藤綾子(作家)
娠初期の乳腺の痛みから始まり、出産直後の腹部の鈍痛で終わる『石門』。真摯な行動をとろうとするリンの心の痛みの行く末は。
■杉谷伸子(映画コラムニスト)
もがきながらも進むしかない先に、わかりやすい正解はない。リンの姿は、社会の価値観が変わっても、いつの時代も変わらない “現実”を突きつける。
■奥浜レイラ(映画・音楽パーソナリティ)
妊娠は1人ではできない。生まれる命の責任は2人にあるはずだが、人生の選択肢が狭まるのも自己責任だと責められるのも女性だけだ。夢を持ち学ぶ若い主人公から、人権が剥ぎとられていく。舞台となる国は違っても、彼女にかかる重力を私は知っている。
■吉川龍生(慶應義塾大学教授)
爆発しそうな閉塞感のなかに投げ出され、さあお前ならどうするのかと、問いを突きつけられているような感覚にさせられる。
■藤岡朝子(山形国際ドキュメンタリー映画祭理事)
世界に身を開き、飛び込んでくる要素をすべて素材として受け止める共作の姿勢が生んだ、見事な成果
■伊藤さとり(映画パーソナリティ・映画評論家)
痛烈なパンチを喰らった。夢を叶えたくとも女性特有の壁が立ちはだかる。淡々と進む会話は何処か他人事で誰も彼女の本心に触れようとしないのは都合が悪いから。あの泣き声に誰が何を感じるのか。衝撃のカットはしばらく脳裏から離れないだろう。
【作品情報】
石門
2025年2月28日(金)より新宿武蔵野館、シネスイッチ銀座、シネリーブル池袋ほか全国順次公開
配給:ラビットハウス
©YGP-FILM
記事提供元:映画スクエア
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