【3月のBS松竹東急】映画好きなら見逃せない! 今見てほしいこの3本!! ――世界でも 評価される アジアの映画人
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3月のBS松竹東急には、世界が認めたアジアの映画人の代表作が登場する。今年のアカデミー賞は、日本人監督の3作品がノミネートされ、3月2日(現地時間)に行われる授賞式での結果が楽しみだ。これに合わせて過去のアカデミー賞作品を特集。古くは脚本賞の「狼たちの午後」(75)や撮影賞などを受賞した「未知との遭遇」(77)のファイナル・カット版、作品賞受賞作では「ドライビング MISS デイジー」(89)、「ムーンライト」(16)などが放送されるが、ここでは非英語作品として初めて作品賞に輝き、監督賞(ポン・ジュノ)、脚本賞、国際長篇映画賞の4部門を受賞した韓国映画「パラサイト 半地下の家族」(19)に注目したい。ソン・ガンホ演じる父親を中心に、半地下の部屋に住む貧乏な家族が、高級住宅地で暮らす一家の生活に入り込んでいく、ブラックユーモアに彩られたスリラーである。韓国の格差社会の実情を織り込みながら、ホームドラマとしても見応えのある作品で、第72回カンヌ国際映画祭でもパルム・ドールを受賞。ポン・ジュノ監督の作家性はもちろん、韓国映画の質の高さを見せつけた一本だ。
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アカデミー賞では今回放送される「たそがれ清兵衛」(02)が外国語映画賞にノミネートされたことがある、日本映画を代表する巨匠・山田洋次監督。その彼の最新作「こんにちは、母さん」(23)が登場する。これは永井愛の戯曲を原作に、向島で足袋屋を営む吉永小百合の母親と、大手企業に勤める大泉洋の息子、おばあちゃんと仲がいい孫娘の永野芽郁という、3世代が織りなすホームコメディ。仕事でストレスを抱える大泉が、今は独身の母親が恋にときめいていると知ってやきもきするさまが面白い。彼と軽妙なセリフのやり取りをする、吉永のコメディエンヌぶりも見どころだ。一方では第二次世界大戦の東京大空襲で多大な被害にあった、向島の歴史も背景に刻んであるのが山田監督らしい視点。91歳にして90本目の監督作だが、その語り口で観る者を惹きつける演出はさすがだ。今回は山田監督の作品も特集されるが、中でも中島京子の直木賞受賞作を映画化した「小さいおうち」(14)はお勧め。ある都会の一家の複雑に交錯する男女の恋心を、その家の女中タキの目から見つめている。純朴なヒロイン・タキの若い頃を演じた黒木華は、この演技でベルリン国際映画祭最優秀女優賞(銀熊賞)に輝いた。他にも差別への怒りが込められた傑作「馬鹿が戦車でやってくる」(64)や「息子」(91)、「東京家族」(13)などの山田作品が放送される。
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黒木華と同じくベルリン国際映画祭で最優秀女優賞を受賞したのが寺島しのぶ。受賞作の「キャタピラー」(10)ではないが、今回は彼女の代表作「ヴァイブレータ」(03)が登場する。アルコール依存症の女性ルポライターと、長距離トラック運転手の行きずりの愛を描いた廣木隆一監督のロードムービーだ。性的にも生々しい存在感が際立つ寺島しのぶは、同年の「赤目四十八瀧心中未遂」(03)とこの映画によって、新進女優として注目された。その最も勢いのある演技を、ぜひ多くの人に観てほしい。
文=金澤誠 制作=キネマ旬報社(「キネマ旬報」2025年3月号より転載)
BS松竹東急
BS260ch/全国無料放送のBSチャンネル
※よる8銀座シネマは『一番身近な映画館』、土曜ゴールデンシアターは『魂をゆさぶる映画』をコンセプトにノーカット、完全無料で年間300本以上の映画を放送。
■3/7[金] 夜8時
「パラサイト 半地下の家族」
監督:ポン・ジュノ
出演:ソン・ガンホ、イ・ソンギュン、チョ・ヨジョン、チェ・ウシク ほか
© 2019 CJ ENM CORPORATION, BARUNSON E&A ALL RIGHTS RESERVED
■3/15[土] 夜9時
『ヴァイブレータ』
監督:廣木隆一
出演:寺島しのぶ、大森南朋、田口トモロヲほか
2003「ヴァイブレータ」製作委員会
■3/28[金] 夜8時
「こんにちは、母さん」
監督:山田洋次
出演:吉永小百合、大泉洋、永野芽郁、寺尾聰 ほか
© 2023「こんにちは、母さん」製作委員会
記事提供元:キネマ旬報WEB
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