【独占インタビュー】石川雅規(東京ヤクルトスワローズ・投手)「ナックルを覚えて、今から全盛期が来るかもしれない」
石川雅規投手。45歳、球界最年長プレーヤーがこだわる「200勝への思い」
プロ23年間で積み上げた勝利は「186」。大台の200勝は目前だが、ここ2年間はほとんどチームに貢献できず......。「年齢を重ねて可動域や柔軟性が落ちてきている」と、寄る年波を痛感する日々。
"カツオ"の愛称どおり、野球少年がそのまま大人になったような若々しい顔立ちも頭髪には白いものが目立ち始めた。それでも、小さな大投手はどこまでもポジティブに前のみを見続けている――。
■肩肘は元気。まだまだやれる!167㎝という小さな体で、球界の大打者たちと長年渡り合ってきた"小さな大投手"がプロ24年目の今、正念場を迎えている。直近2シーズンでわずか3勝、昨季に至っては8度の先発登板で1勝を挙げるのがやっとだった。
「石川はもう限界」――。そんな声もファンの間でささやかれる中、この状況を本人はどうとらえているのか。キャンプ入り直前の石川雅規投手に話を聞いた。
――昨年はわずか1勝に終わり、悔しいシーズンだったかと思います。
石川雅規(以下、石川) それだけの実力しかなかったということですね。もちろんローテーションを守りたいけど、年々登板数が減っているのをどうこう言ってもしょうがない。チャンスが減っていったのは勝てなかった自分の責任。それでも勝てばチャンスはまた来るので、たった1勝でも僕にとってはすごく大きな1勝でした。
――勝ち運にも恵まれなかった。5月6日の対DeNA戦では勝利投手の権利を持って降板も、2点リードの8回裏2死からリリーフが日本復帰初戦の筒香嘉智(つつごう・よしとも)選手に逆転3ランを打たれて勝ちが消されたこともありました。
石川 あれは筒香選手が持っていて、僕が持っていなかったというだけの話(笑)。野球ってああいうことが得てして起きますし、誰が打たれた(から勝ち星を逃した)とか、そういうのは昔から気にしません。もちろん本音は勝ちたいし悔しいけど、それが嫌なら完投しろよって。むしろ、まだゲームをつくれるんだとプラスにとらえることができました。
――球界の最年長プレーヤーとなって3年目のシーズン。昨年は青木宣親(のりちか)さん(ヤクルトほか)と和田毅(つよし)さん(ソフトバンクほか)という盟友が相次いで引退しました。
石川 青木や毅からやめるって連絡が来たときは「え、マジで? まだやろうよ、やれるでしょ?」というのが素直な思いでした。でも一流のプレーヤーであるふたりが決断したことですし、本当にお疲れさまって気持ちですね。まだやれるのにやめるって、すごい決断ですよ。
石川が目指すNPB通算200勝はこれまで24人達成しているが、直近では2008年に山本昌(中日)が成し遂げて以来、16年間も到達者がいない。現代野球では先発登板数の減少などによって、200勝の難易度は非常に高くなっている
――石川投手もまだまだやれる?
石川 いかんせん肩肘は元気ですから。マウンド上でどっか痛めたとかなら踏ん切りもつくとは思うんですけど、まだユニフォームを着られるのであれば、やっぱり自分の野球人生なんで、大好きな野球をボロボロになるまでやりたい。
――モチベーションはやはり200勝?
石川 はい、個人的な目標で申し訳ないですけど。
――現在186勝で残り14勝です。ただ、ここ2年で3勝とペースが上がらない。
石川 毎年、1年でクリアしたいと思ってやってるんですけど、近年の成績だと14勝はものすごく遠く感じますよね。でも、これまでの186勝よりもこれからの14勝のほうが(道のりは)近いじゃないですか。物事は考えようです。
――ヤクルトファンに限らず、野球ファンはみんな石川投手の200勝を願っていると思います。
石川 「まだやってんのかよ。もうやめろよ」って人もいると思いますよ(笑)。昔はファンが10人いたら10人に好かれたかったんですけど、今はひとりでも自分のことを理解して応援してくれる方がいるなら、それだけですごく力になります。
とはいえヤクルトファンの方々は本当に温かくて、良いときも悪いときも応援してくれる。それって本当に期待されてるのかなとも思うんですが(笑)、なんとか200勝をつかみ取って、ファンの皆さんとその景色を見たいですね。
――仮に、戦力外となって他球団からオファーがあれば、そこで200勝を目指すことも......?
石川 そこは難しいですけど、ケガをしていた大学生の僕をスワローズは拾ってくれた。だからそんな球団にいらないと言われたらもうそこまでかなという気も......いや、そのときになってみなきゃわからないな(笑)。でも大好きなチームですし、スワローズで、神宮球場で200勝したい思いは強いです。
よく視聴する野球系YouTubeを聞くと「『フルタさんの方程式』などが参考になります」とのこと。ヤクルトの大先輩ではあるが、番組名の中の人名にすらさんづけする人柄の良さ、律義さが印象的だった
――ご家族はサポートしてくれる?
石川 打たれたらヘコむし、ネガティブになることもあるけど、妻にはいつもケツを叩いてもらってます。
長男は今年大学2年生で次男は高校3年生。子供たちが物心つくまで現役でいることを目標にやってましたが、もうすでに物心はつきまくってる(笑)。今は父ちゃんが長いことがんばってる姿を見せたい。
――息子さんはおふたりとも野球をやっている?
石川 長男は準硬式ですけどね。息子たちとのキャッチボールでいい球を投げてきたら、「どうやって投げてんの?」って普通に聞いちゃいます。だってどこにヒントがあるかわからないですからね。
■笑われたとしても目指すは開幕投手――石川投手にとって、打者を打ち取る投球哲学とはズバリなんでしょうか。
石川 ピッチャーとバッターの勝負って結局、タイミングだと思うんです。打者は自分のタイミングでスイングしたい、投手はそのタイミングをずらしたい。僕のストレートは130キロ台ですけど、それをいろいろと工夫して速く感じさせれば勝てる。フェンスギリギリの外野フライでも、アウトはアウトなんで。
――大飛球もタイミングをずらして詰まらせれば、基本的にオーバーフェンスにはならない。確かに石川投手はそういった形で打ち取ることが多い印象です。大きな外野フライも内心は、してやったり?
石川 いえ、平静を装ってますけど、バリ焦ってます(笑)。
――投手にとって、狭い神宮球場が本拠地というのはやはり不利なんでしょうか。
石川 ホームランが出やすい球場というのは、(警戒して)必然的に投球のボール率が上がるのはありますが、その分、味方からの援護も増えますしなんとも言えません。何よりここでたくさん勝たせてもらってるし、屋外の雰囲気を含めて一番大好きな球場です。
――石川投手のすごいところは、故障者の多いヤクルトにあって、ケガで離脱をしないところかと思います。
石川 よく"ヤ戦病院"って書かれてますよね(笑)。僕自身はなんでですかね。野球選手とかスポーツ選手ってどっかしら痛いんですよ。そこで敏感になってケガを防ぐときもあれば、鈍感になってでもやらなくちゃいけないときもある。だって痛いからって試合に出なかったら若手にチャンスがいっちゃうじゃないですか。
だから僕は「いけるか?」と言われたら「すぐいけます」って答えられるように、常にファイティングポーズは取っていたい。それはルーキー時代から変わりません。
――あらためて23年間を振り返ってみていかがですか。
石川 大好きなことをやってるおかげか、本当に一瞬でした。実は週プレさんには6年前にも取材していただいてるんですが、それが半年前くらいの感覚なんです。楽しいときって時間が一瞬で過ぎるじゃないですか。ずっとそれが続いてる感覚です。
カズさん(三浦知良)もこの前テレビで「まだまだサッカーが大好きだしうまくなりたい」と言ってたんですよ。本当にカッコいい。僕も野球が大好きだし、まだまだうまくなると信じてやってます。
昨年引退した盟友の青木宣親氏(右)。「青木はずっと一緒にやってきたしロッカーも隣同士だったから、すごく寂しい。青木がユニフォームを着てないのはすごく変な感じになると思います」
――実際、野球はうまくなっている?
石川 なかなかうまくならないです(笑)。でも何かコツをつかんで急にうまくなる可能性だってある。山本昌さんもそうですし、メジャーのジェイミー・モイヤーという投手も40歳からめちゃくちゃ勝ってるんですよ。
僕も、へたしたらナックルとか覚えてめっちゃ勝ち出して全盛期が来るかもしれない。そのために準備とトレーニングを積み重ねなきゃいけないし、近年はその大事さをいっそう強く感じてます。
――今シーズンの目標をお聞かせください。
石川 若い選手との競争ではありますけど、まずは開幕投手を目指します。先発をやっていて、そこを目指さない意味がわからないし、目指す以上、口に出すべきだと思ってます。誰になんと言われようといいんです。
勝ち星で言うと、200勝ではなくて220~230勝する気持ちでいます。毎年、この時期は期待感でワクワクしてるんですよ。最近はその気持ちに裏切られてばかりなので、とにかくそれを覆したい。自分に期待しなかったらどうすんだって話なんで。
――新神宮球場が2032年にオープン予定ですが、現役としてマウンドに立ちたい?
石川 もちろん立ちたいです。できることなら永遠に投げ続けたいですから。
●石川雅規(いしかわ・まさのり)
1980年1月22日生まれ、秋田県出身。45歳。2002年に自由獲得枠でヤクルトに入団し、同年に12勝を挙げて新人王、08年には最優秀防御率のタイトルを獲得。15年には自己最多タイの13勝でリーグ優勝に貢献。昨年6月2日の楽天戦での勝利で、NPB史上初の入団から23年連続勝利。交流戦通算29勝も史上最多。いずれも自身の記録を更新した
取材・文/武松佑季 撮影/榊智朗 写真/時事通信社
記事提供元:週プレNEWS
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