【サッカー日本代表 板倉 滉の「やるよ、俺は!」】第32回 上下ではなく横! 板倉が語る「先輩後輩論」
シュツットガルト戦(2月1日)でフル出場の板倉 滉
持ち前の人懐っこさで、数多くの後輩選手たちから慕われている、板倉。独1部でともに戦う〝かわいい後輩〟、FW福田師王との付き合い方も温かさに満ちあふれている。日本代表DFが明かす、先輩後輩の関係性とは――。
■師王の初ゴールに胸が熱くなったかわいい後輩が、ついに初ゴールを決めてくれた。所属先のボルシアMGのチームメイト、FW福田師王が第17節ウォルフスブルク戦(1月14日)の試合終了間際に、相手GKの股を抜く技ありシュートでゴールネットを揺らした。
師王は鹿児島県の神村学園高等部を卒業後、Jリーグを経由することなく、23年1月にチームへ加入した。U-19のチームから始まり、その後、U-23(セカンド)チームの一員として4部リーグで結果を出して、去年1月にトップチームに昇格。順調に思えるが、そこからはベンチを温める日々が続いていた。
僕としては、師王がほんの少しでも出場することがあったら、なんとかチャンスメイクしたいと思っていた。試合に出られずとも、毎日黙々とトレーニングに励む姿をずっとそばで見続けてきたからだ。
試合自体は1-5と大敗だったけれども、師王の初ゴールには胸が熱くなった。もちろん、本人が一番うれしかっただろう。
そんな師王と初めて会ったのは22年。彼がまだ高校生で、ドイツの各クラブを回って練習参加していた頃だった。師王の代理人がたまたま僕の知り合いで、連絡が来た。
「もしよかったら、ごはんに付き合ってもらえませんか」と。高校生でドイツに乗り込むなんてすごい度胸だと思った僕は快諾し、デュッセルドルフの和食店に集まった。
そのときの師王というと......何を聞いても、まったく会話が続かなかった(笑)。シャイなのか、全然しゃべらない。DF吉田麻也くんも一緒だったので、緊張していたのか。でも、その割に飯だけはモリモリ食べ続けていた。
僕はとにかく、根気よく話しかけることに。サッカー以外のたわいもない話題も振りつつ。好きな食のジャンルだったり、あるいは恋バナだったり。
その後、何度か会って、ようやく心を開いてくれたのか、ぽつぽつと話すようになった。ふたを開けてみれば、とても素直でいいヤツだった。今では、毎日練習で顔を合わせることもあって、すごく親しい関係だ。
昨年末のウインターブレイクも、東京に滞在している間は「師王、今、何してる?」「いや、別に何も」「じゃ、買い物行って、その後、飯行こうか」「行きます!」。そんなやりとりをして合流、ずっと一緒にいた。最近は僕のことをちょいちょいイジってくるような関係性になっている。
■信頼を勝ち取るためのコミュニケーション師王もそうだが、日本代表のタケ(MF久保建英)は目上の人に対して臆することなく言いたいことを言う。彼らのことを知らない人からすると、一瞬、生意気に見えるかもしれないが、僕にしてみれば、そんな小生意気な部分もどこか親しみやすさを感じるのだ。
逆に、先輩に対しての接し方がどこかもったいないなと感じる選手も中にはいる。例えば、チームの先輩が練習後、軽い感じで「飯でも行こうか。でも、全然無理しなくていいよ」と誘ったとき、「ダル~ッ、飯なんか面倒クサ」という気持ちが表に出てしまうタイプ。こういった後輩に対して、先輩が再び誘ってくれるかはわからない。
人によっては、先輩とのごはんに苦手意識があるのかもしれない。でも、アドバイスや経験談を聞けるチャンスととらえることもできる。そんな機会を失うのはもったいない。
だから、仮に都合が悪い、あるいは行く気分ではなかったとしても、ただ断るのではなく「めっちゃ行きたかったんですけど、前々から予定が入っていて。次はぜひ!」と言っておけば、先輩もまた誘ってくれるはずだ。
ちなみに僕の場合、川崎フロンターレやベガルタ仙台にいた若手時代は、むしろ自分から「飯連れていってくださいよ~」とチームの先輩方にお願いしていた(笑)。そうして何度も食事をしていくと、不思議とサッカーでもうまくいく感覚があった。
もちろん、僕も後輩を誘うことはあるが、無理強いするつもりはサラサラない。ガチガチの縦社会は苦手だから。今いる海外の環境も上下関係は存在せず、全員が〝同じ仲間〟という考えの下、横のつながりで成り立っている。
海外の基準では「先輩として、後輩としての振る舞い」以上に「チームメイトとして信頼できるか」が重要なんだと思う。思い返せば、海外に移籍した当初は、パスすら満足に来なかったが、練習から闘志むき出しのプレーをするようになって、状況が変わった。きっと「こいつなら後ろを任せられる」と信頼が生まれたからだろう。
だから、日本で先輩後輩の付き合いを苦手とする人も「人の話を聞きに行く」のではなく、「同僚に自分を知ってもらうためのコミュニケーションをしに行く」と考えれば、先輩後輩との付き合いについても意識が少しは変わるはず。
一方で、どんなに後輩をかわいがっていても、つきっきりになるのが良いことかというと、それも違う。それこそ師王が監督やコーチに対して、自分の意見を訴える際は、僕なしで直接向き合って話をするべきだと伝えている。
僕がサポートすることで、むしろ邪魔になる可能性もある。海外ではあくまで〝自分で〟主張することが大事なのだ。気持ちをぶつけることが、自分の意見を尊重してもらう上では重要だと、海外経験を経て学んだ。だから、大事な局面では、後輩が周りからの信頼を勝ち取れるように、黙って背中を押すことに徹している。
師王はやがてA代表入りを果たすことだろう。彼は〝持っている〟男だから。サッカー選手はうまいだけじゃダメ。例えば(MF堂安)律みたいに、ここ一番で結果を出せる選手じゃないと。先日のゴールで師王はその素質を証明した。これからも先輩として彼の歩みを見守っていきたい。
板倉滉
構成・文/高橋史門 写真/アフロ
記事提供元:週プレNEWS
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