ひろゆき、中野信子と脳を科学する⑮「運の良さって何? 脳科学的に運を良くする方法とは」【この件について】
「『自分の行動次第で、いくらでも〝運〟は変わる』というのが結論です!」そう語る中野信子
ひろゆきがゲストとディープ討論する『週刊プレイボーイ』の連載「この件について」。脳科学者の中野信子さんをゲストに迎えた15回目です。
「運が良かった」とか「運が悪かった」と思うことは皆さんありますよね。では、本当に運のいい人と運の悪い人はいるのでしょうか。そして、運を良くする方法があれば知りたいですよね。
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ひろゆき(以下、ひろ) 世の中には「運のいい人」と「運が悪い人」がいるといわれるじゃないですか。運を良くする方法があれば知りたいって人は多いと思うんです。そのへん、実際はどうなんでしょう?
中野信子(以下、中野) これは全部を話してしまうと、私の著書を読んでいただけなくなるかもしれないので、少し難しいところです(笑)。
ひろ あはは(笑)。
中野 でも結論から言うと、運を良くするのは実はそんなに難しくないんですよ。
ひろ はいはい。
中野 例えば、くじ引きの実験をすると、自分が運がいいと思っている人でも外れるときは外れます。同様に、運が悪いと思っている人でも当たるときは当たります。では両者で何が違うのかというと、単に当たったときの喜びを覚えているか、外れたときのガッカリ感を覚えているかの違いです。
ひろ 確率的には変わらないけれど、自分の都合のいい部分だけを覚えていて「自分は運がいい」って思い込んでいると。
中野 ええ。ただ、現実社会における運の良しあしは、くじ運とは少し話が違ってきます。
ひろ というのは?
中野 「目の前に転がっているチャンスをつかめるかどうか」という話になってくるので、そこは個人の行動や振る舞いが大きく影響します。例えば、仕事で新しい案件の話があったり、誰かから面白い情報をもらったりしたときに、それを「やってみよう」と飛びつけるかどうかが大きな差なんです。
ひろ 確かに、運がいい人って、たまたまいい話が転がってくるように見えるけれど、実は人間関係が広かったり、アンテナを張っていて情報をキャッチしやすかったり、フットワークが軽い人が多いですよね。成功しやすい条件がそろっているわけで、結果的に「運がいい人」に見えていることも多い。
中野 まさにそれです。情報や人間関係が豊富だと、自然と「これ、いいかも」という話が舞い込んできやすい。そして、それに対して「じゃあ、やってみよう」と行動に移せるかどうか。これって単なる偶然じゃなくて、その人の能力とか性格、行動力によるところが大きいんです。
ひろ 例えば「ビットコインっていうのがあるよ」って話を聞いたときに、「なんだか怪しいしよくわからないからやめとこう」と思うのか、「面白そうじゃん。ちょっと調べてみて、まずは少額でも試してみるか」となるかで結果は大きく変わってきますよね。
中野 そうなんです。それを「運がいい」と呼ぶかは人それぞれですが、そこにスピリチュアルな要素はありません。要するに「自分の行動次第でいくらでも〝運〟は変わる」というのが結論です。
ひろ ふと思ったんですけど、自分には理解できない未知のものでも、取りあえず乗ってみようというチャレンジ精神と、宗教を信じる心というのは、どこか似ている気がしませんか?
中野 似ているところもありますが、違う点は、自分の行動に対する自分の裁量権をどこまで持ち続けるか、あるいは手放すかでしょうか。もちろん信仰を持つことで心の安定が得られたり、新しいことにチャレンジしようという気持ちが高まる場合もありますが、一方的に「これだけを信じなさい」と視野を狭められるのであれば、かえってチャンスを逃してしまうかもしれません。
ひろ 確かにガチで宗教を信じていても、なかなか救われない状況の人もいますもんね。その点、「自分に都合がいいな」と思ったら占いでも宗教でもなんでも取りあえず利用してみるっていうタイプの人は、そのぶん多くの情報や機会に触れられるから、結果的に「運がいい」と言われる確率が上がるかもしれません。「朝の占いで『新しいことを始めるチャンスです』と言われたからやってみました」とか、人によっては行動のきっかけになるわけですから。
中野 そうなんです。その「行動力」と「視野の広さ」があれば、転がってきたチャンスを取りこぼしにくくなる。
ひろ 知り合いが多ければ、いい話が舞い込んでくる可能性も高まりますし、周囲に信頼できる人が多ければダマされるリスクも減る。そして、いざチャンスが来たときには行動力だけでなく、時間や経済的な余裕も必要ですよね。結局のところ、そういったさまざまな要因が重なって、結果が決まってくるわけで、それを「運」と呼んでいるケースも多いと。
中野 まさにそうです。要素をひとつひとつ分解していくと、運がいいと見える人がやっていることって、極めて行動科学的なんです。だから、運は「自分にはどうしようもない」というものじゃなくて、やり方次第でいくらでも変化させられる。そこが面白いところなんです。
ひろ あと「引き寄せの法則」ってあるじゃないですか。「自分が強く望み、信じていることが現実を引き寄せる」「ポジティブな思考がポジティブな結果を生む」という考え方です。んで、これを大っぴらに言っている人とは、僕はちょっと距離を置きたいなと思うことがあるんですよ。で、「運を信じている人のほうが運が悪くなる傾向」があるんじゃないかとも感じるんです。
中野 面白い指摘ですね。実は私にもひとつ仮説があって、引き寄せの法則って、成功者たちがわざと「これをやると儲かる」という誤情報を発信しているんじゃないかと思うことがあるんです。つまり、自分たちが本当にやってきたことは別にあるのに、それを明かさず「あれは引き寄せだった」と適当なことを言う。いわば、後ろから来る人たちに向かってバナナの皮を投げるような行為です(笑)。
ひろ なるほど。「間違ったエサ」を与えているということですね。
中野 そうです。そうすれば自分は競争相手が少ないまま、地位を維持できますからね。
ひろ ビジネスでもなんでも「参入障壁を高くする」っていうのは戦略の王道ですからね。
中野 だから「引き寄せの法則」とかスピリチュアル的なものに妄信的にハマってしまうと、結局は自分のチャンスを狭めてしまう可能性がある。そして、それによって積極的に行動しようと思えるならまだしも「これだけ信じていれば大丈夫」と思って努力や勉強を怠ると、〝運〟は逃げてしまうかもしれません。
ひろ で、もっと具体的な運をつかむ方法を知りたければ、中野さんの本を読めばいいわけだ(笑)。
中野 最後にすてきなまとめをありがとうございます(笑)。いわゆる「運を育てるための具体策」は、実は心理学や行動経済学の知見からいくらでも提案できるんですよ。そして、それはスピリチュアルな話ではなく、あくまで自分でコントロールできる要素なんです。
ひろ じゃあ、運を良くしたいなら中野さんの本『新版 科学がつきとめた「運のいい人」』(サンマーク出版)をすぐに買いましょう(笑)。でも、こういうのは冗談ではなくて、実はそういうフットワークの軽さや行動力が大事だったりするんですよね。
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■西村博之(Hiroyuki NISHIMURA)
元『2ちゃんねる』管理人。近著に『生か、死か、お金か』(共著、集英社インターナショナル)など
■中野信子(Nobuko NAKANO)
1975年生まれ。東京都出身。脳科学者、医学博士、認知科学者。東京大学大学院博士課程修了。フランス国立研究所ニューロスピンに勤務後、帰国。主な著書に『人は、なぜ他人を許せないのか』(アスコム)など
構成/加藤純平(ミドルマン) 撮影/村上庄吾
記事提供元:週プレNEWS
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