アメリカ史上最大規模の山火事。「地獄かと思った...」元米海兵隊が語る消火任務の実体験【写真多数】
かつてない山火事が起きたカルフォルニア(写真/アフロ)
1月7日、米カリフォルニア州ロサンゼルス(LA)で史上最大規模の山火事が発生し、東京23区の4分の1ほどの範囲が焼失した。かつて米海兵隊にいたサイトウ曹長は、今回の火災とは別のカリフォルニア州の山火事で消火任務に従事した経験がある。そのときの写真を見せてもらいながら、米軍が大規模火災とどう相対するのか語ってもらった。
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■山火事の上空を飛んで「地獄かと思った」「カリフォルニア州は乾燥地帯なので毎年のように山火事があるんです。それを空から消火する任務も海兵隊の仕事にありました」
イラク戦争に従軍した後、サイトウ曹長は米カリフォルニア州、ミラマー海兵隊航空基地で大型ヘリを扱う部隊に配属された。
「自分は州都のサクラメントでの消火任務にフライトメディック(衛生兵)として2回参加しました。ただ、今回のロサンゼルスほどの規模の山火事は見たことがありません」
大型ヘリCH-53の機内から見た、水をまく様子。「白い部分がまかれている水です。火が写っていないのは、火災現場の手前から水をまき始めるためです」(サイトウ曹長)
地上から見た、水をまく大型ヘリCH-53(提供/アメリカ海軍)
では、具体的に任務はどのように進むのか。
「ヘリの底にヘルホルツという穴があって、そこからバンビバケット(空中用消火バケツ)をつるし、湖や海まで行き、ホバリングしながらバンビバケットを水で満たし、火災現場に行って指示された地点に水を投下します」
サイトウ曹長が初任務を振り返る。
「消火のために集まったほかの部隊と滑走路を共有するので、だんだんと仲良くなるんです。親しくなって空中消火機10タンカーを見学させてもらったときの写真です」(サイトウ曹長)
まずは、整備員が水をくみ上げるためのバンビバケット(空中用消火バケツ)を、大型ヘリCH-53の下部にあるヘルホルツという穴からつるすように取りつける
バケツを取りつけたら海へ向かう。「後部は開けっ放しで飛びました。高さと怖さはすぐに慣れましたが、CH-53はかなり揺れる上に燃料のにおいが強かったので、何度も吐きましたね」(サイトウ曹長)
「ミラマーから大型ヘリのCH-53で飛び、サクラメント近くの空軍のハンガー(格納庫)にヘリを止めて、任務中は近くのホテルで寝泊まりをしていました。
朝一から日没まで飛んでいることもありましたね。海に行って、20~30分かけて火災現場まで行って、また海に戻って、と。山火事の上空を飛ぶときって怖いんです。大げさかもしれませんが、『地獄ってこんななのかな?』って思ったのを覚えています。
ただでさえCH-53は低空で飛ぶと揺れるのに、ぶわっと熱波が来るからよけいに揺れるし、火事のにおいも強くて。でも、何度か飛ぶうちに慣れてくるんですよね。運良く病人やケガ人が出なかったので、ヘリに乗っている時間が長かったのを覚えています。
うれしかったのは1日40ドルくらい飯代がもらえたこと。毎日外食していました。とはいっても、田舎だったのでファストフードばっかりで......。消火しきるまで、3週間くらいはそういう生活をしていました」
壊滅的な被害をもたらした今回の山火事でも、サイトウ曹長のように空中から消火活動を行なっている部隊もいる。
■緊急分析!! LA山火事 空中からの消火任務大規模な山火事となると地上部隊だけではどうにもならない。今回の山火事でも鍵になったのは空中からの消火だ。世界中で航空機を撮影しているフォトジャーナリストの柿谷哲也氏が語る。
「アメリカにおける空中消火の任務に生きているのは、ベトナム戦争での観測機による爆撃機の航空管制の経験で、投下するのが爆弾から水や消火剤に代わっただけです」
どういうことだろうか。
ベトナム戦争のときと同じように偵察機OV-10ブロンコが上空から偵察。火(敵軍)の進路などを特定した
旅客機DC-10を改造して造られた10タンカーは、一度に約4万5000Lの消火剤をまくことができる
「ベトナム戦争では、初めに低速の観測機が上空から敵の配置や動き、攻撃の方向などを偵察したのですが、当時は偵察機OV-10ブロンコがその任務を担っていました。
カリフォルニアの山火事でも、赤に塗装された消防局のOV-10ブロンコを現場上空に派遣。範囲や地形、風向・風速から延焼方向を確認し、適切な能力の消防機タイプを選定して、消防機に飛行コースを指示したり、作戦環境の情報を提供したりします。
ベトナム戦争では次に爆撃機による敵部隊制圧や敵補給路の爆撃がありました。ジャングルや山道の細かい補給網や敵の拠点を観測機で見つけ、最大の爆弾搭載量を誇るB-52爆撃機を誘導し、爆弾を投下させました。
今回の山火事では、消防機としては最大の水搭載量を誇るDC-10旅客機を改造した10タンカーを投入。まずこのスーパータンカーが延焼防止の予防放水と消火を行ないました。
機内から消火剤を投下する際は、重量バランスが徐々に変化するため、パイロットはトリムを調節しつつ、大気熱による気流の変化に対処する特別な飛行法を駆使します。
煙にかすむ山間を低空飛行することも多く、地形の熟知はもとより、観測機からのアドバイスは不可欠です」
LA大火ではカナダからCL-415が救援に。しかし、民間ドローンに衝突し飛行停止する事故も発生した(写真/アフロ)
10タンカーは、空中から1回で約4万5000Lの消火剤をまくことが可能だが、大きな火はなかなか消えてくれない。残った火種には機動力のある航空機が活躍する。
LA山火事では、カナダから双発プロペラ消火機のCL-415が飛来。フロートのついた双発機は着水・離水することができ、近くの海や湖で水を補給しながら何回も往復できる貴重な消火戦力となる。
2019年にカリフォルニア州森林保護防火局に配備された中型ヘリのシコルスキーS-70Aファイヤーホーク
徒歩で火災現場に入る消防士の部隊。空中からの消火活動があるから地上でも消火作業が続けられる
続いて、外部タンクに水を3785Lも搭載できるシコルスキーS-70Aファイヤーホーク中型ヘリがより細かい消火を行なう。低速飛行ができるヘリは適切な火点を消火する。今回の火災でもカリフォルニア州森林保護防火局の所属機が参加している。
そして強力な助っ人、サイトウ曹長も乗っていた米海兵隊CH-53大型ヘリの出番だ。つるしたバンビバケットから細かな火点に対して集中的に水を投下する。
こうした空中部隊の合わせ技で歴史的大火に挑んだのだ。
●サイトウ曹長
"米軍全クリ"に最も近づいた日本男児。横須賀基地から米海軍に入隊し、メディック(衛生兵)に。その後、海兵隊に転属し、ヘリに乗る衛生兵としてイラク戦争に出兵。従軍後、陸軍幹部試験に合格し、陸軍に入隊。兵站大学での教官経験もある
構成/小峯隆生
記事提供元:週プレNEWS
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