映画製作で罪に問われたモハマド・ラスロフ監督が世界に問う「聖なるイチジクの種」本編特別映像解禁
2022年に社会問題となった、ある若い女性の不審死に対する、市民による政府への抗議運動が苛烈するイランを背景に、家庭内で消えた一丁の<銃>を巡って家族も知らない家族の顔が炙り出されていく──予測不能に加速する衝撃のサスペンススリラー「聖なるイチジクの種」が2月14日(金)に公開。一丁の銃を巡って家族の本性が暴かれていく様子を捉えた本編映像が公開。著名人のコメントも到着した。
第97回アカデミー賞 国際⻑編映画賞ノミネート、第82回ゴールデングローブ賞【⾮英語作品賞】ノミネート、第77回カンヌ国際映画祭【審査員特別賞】を受賞した本作。解禁された映像は、忽然と無くなった一丁の銃を巡って、お互いの猜疑心が高まっていく家族の様子を捉えたもの。ようやく手に入れた予審判事の地位も危うくなり、イマンは、上司からは「この失態は尾を引くぞ」と懸念を抱かれることに。「知らない」という娘の言葉を信じられず家探しを始め、何度も「家にあるはずだ。あの子 なんて言った?」と妻に執拗に詰め寄る様子が、綻び始めた家族の実態を映し出している。
〈コメント〉
ISO(ライター)
権威の象徴たる「銃」の紛失で男は戸惑う。
家父長制の揺らぎに焦り、力で従順を迫る男に、世代も思想も異なる女たちが団結し抗う。
遺物となった価値観を撃つこの寓話に、イランの現在と未来を見た。
大森時生(テレビ東京 プロデューサー)
身体性すら伴う激しい緊張感!167分間全く弛緩することがない。
人間の「良心」は環境に応じて、あっさりと豹変していく。
イランの家族の物語ではあるが、そこでおこる変貌は私たちの姿そのものだ。
小山田米呂(ミュージシャン)
イスラームにおける道徳的世界はイスラーム以外の人間には理解し難いものです。革命後のイランを生きてきた世代とテクノロジーによって近代化された世代の軋轢と不信は、程度は違えど我々にも共通する課題に感じました。
小島秀夫(ゲームクリエイター)
冒頭は、2022年にテヘランで起きたあの“マフサ・アミニ”さんの死亡報道。
初期のアスガル・ファルハーディ監督作を観るような感覚で静かに鑑賞していたら、後半からスリラーに完全にシフト。
このラストには衝撃を受ける。社会の狂気は、疑惑を内部に生み、家族をも狂わせる。
政治的な批判や抗議を赤裸々に率直に訴えるよりも、家族の崩壊を観客の感情に問う。
これが、何よりも怖い。そして、クレバーだ。
鈴木ジェロニモ(お笑い芸人・歌人)
まるで深い水の中。静かにそして切実にほんとうのことを見せてくる。ほんとうのことを聞かせてくる。生きるのはこんなに真剣でこんなに苦しい。恐る恐る明るくなった劇場の光にようやく私が流れ着く。一番近くにいる人を、今すぐ抱きしめなければいけない。
空音央(映画監督)
この映画はイランの国家の暴力や家父長制に抵抗している。
しかも、ラスロフ監督はこの映画を作ったことによってもう故郷へ帰れないかもしれない。そんな監督、スタッフ、キャストの覚悟が漲っているこの映画から、目が離せなかった。
町山智浩(映画評論家)
ヒジャブ反対運動に揺れるイランで、政府に立ち向かう若者を弾圧する父。豊かな生活を守りたいだけの母。
運動に巻き込まれる長女。反逆の炎を静かに燃やす次女。
父の拳銃が消えたことで、この一家は崩れていく。それはイランそのものだ。
𠮷田恵輔(映画監督)
新たな価値観、若者の声が未来を変える姿に震える。映画が世界を変える力があると証明してくれた。
覚悟の塊のような、この一本が映画人生の指標になる。
Story
“ある日、家庭内で1丁の銃が消えた──。”
国家公務に従事する⼀家の主・イマンは20年間にわたる勤勉さと愛国⼼を買われ夢にまで⾒た予審判事に昇進。しかし業務は、反政府デモ逮捕者に不当な刑罰を課すための国家の下働きだった。報復の危険が付きまとうため国から家族を守る護⾝⽤の銃が⽀給される。しかしある⽇、家庭内から銃が消えた──。最初はイマンの不始末による紛失だと思われたが、次第に疑いの⽬は、妻・ナジメ、姉のレズワン、妹・サナの3⼈に向けられる。誰が? 何のために? 捜索が進むにつれ互いの疑⼼暗⻤が家庭を⽀配する。そして家族さえ知らないそれぞれの疑惑が交錯するとき、物語は予想不能に壮絶に狂いだす───。
「聖なるイチジクの種」
監督・脚本:モハマド・ラスロフ
出演:ミシャク・ザラ、ソヘイラ・ゴレスターニ、マフサ・ロスタミ、セターレ・マレキ
2024 年/フランス・ドイツ・イラン/167 分
配給:ギャガ
©Films Boutique
銃の消失で家庭が狂い出す。カンヌで受賞したイラン発サスペンス「The seed of the sacred fig」(英題)
記事提供元:キネマ旬報WEB
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