日本女子バレーも男子に負けない! オールスターに見た人気上昇の気配
1月25日、オールスターゲームを戦ったSVリーグ女子の選手たち。会場はファンであふれ、熱気に満ちていた
1月25日、石川県かほく市。バレーボールSVリーグの女子オールスターゲームで、トッププレーヤーたちが競演した。真新しい「とり野菜みそ BLUECATSARENA」が、大勢のファンの拍手で震える。招待された地元の子供たちが声援を送り、満員の会場は熱気に満ちていた。
「バレーの力で何かできないか」
昨年1月の能登半島地震のチャリティマッチでもあり、復興、再生も祈念されていた。MVP(MUFG賞)に選ばれたのは、地元の石川県を本拠地とするPFUブルーキャッツ石川かほくのアウトサイドヒッター、川添美優。アイドル顔負けの容姿で170㎝と小柄ながら、スパイクはセンスと鍛錬を感じさせた。
「自分たちのバレーで、少しでも明るさや元気を出してもらえるように」
川添はとつとつとした口調でメッセージを送った。
翌日には男子のゲームも行なわれたが、オールスターは大盛況だったと言えるだろう。この勢いのまま、女子バレーはかつてのような人気を取り戻すことができるのか?
「女子バレー人気が、男子バレーのように伸びない」
そんなSVリーグ関係者の声も聞こえる。
男子は、髙橋 藍、西田有志といったスター選手が台頭。パリ五輪では準々決勝でイタリアと激闘を繰り広げたこともあって(パリ五輪で最高の視聴率)、代表選手全体にファンがついた。今シーズン、SVリーグでも入場者数1万人の大台をクリア。コートサイドでは、熱心な女性ファンの熱気があふれる。
一方、女子は代表の主将でエースだった古賀紗理那が現役を引退。パリ五輪はベスト8に進めなかった。SVリーグも、入場者数は開幕戦の3280人が最多で、1000人を下回る試合も少なくない。
こうした状況を覆すため、選手たちは懸命だ。
今回のオールスターでも、MIP(大会で最も印象に残った選手)に選ばれた東レアローズ滋賀の松岡芽生は、サービスエースが決まったときの「エース」の掛け声に合わせてコミカルに踊り、観客を盛り上げた。DJからの〝振り〟に応え、「盛り上げたい」という使命感が伝わってきた。
最終セットでは「ファン感謝デー」のように、全員がサービス精神旺盛だった。荒木彩花(SAGA久光スプリングス)がいじられ役になって審判を演じれば、金子隆行HC(NECレッドロケッツ川崎)もコートへ。そして一時は全選手がコートに入り、リベロがスパイクを打つなど〝お祭り〟の様相を呈した。
「少しでもバレーを身近に感じてほしい」という気持ちがあふれていたが、もともと女子バレーは〝素材〟だけでも魅力的だ。
現場で競技を見ると、真剣勝負の彼女たちのプレーはスペクタクル。滞空時間が長い超人的な跳躍で、ストレートにクロスにとスパイクを打ち込む。うなるように襲ってくるボールを柔らかくはじいてセッターに返し、セッターが意表を突く方向にトスを上げる。それをスパイカーが打とうとするところに、相手ミドルブロッカーが待ち受ける。そうした「拾い、託し、打つ」の積み重ねが芸術になるのだ。
この日も、ミドルの山田二千華(NECレッドロケッツ川崎)はクイック、ブロード、ブロックと制空権を握った。オポジットの長岡望悠(SAGA久光スプリングス)は凜と美しく、左腕で強打を連発。セッターでは、髙佐風梨(クインシーズ刈谷)はトスを広角に振り分け、安田美南(KUROBEアクアフェアリーズ)はツーアタックで歓声を誘うなど、各選手は脚色なしでも、十分なエンタメを見せてくれた。
「今は男子バレーがすごい勢いで......女子バレーはそれに追いつく、というよりは、しっかり自分たちの道を歩んでいきたいと思っています」
前述の金子HCは試合後にそう語っていたが、女子は女子の世界観を大事に、競技者としての力を極めていくのだろう。ファン層も老若男女で間口が広く、男子バレーと比較することはない。
何より、「長いラリーをモノにする粘り強さ」は世界に誇るべきスタイルだろう。オールスターでも、ラリーの応酬に観客は興奮していた。
「SVリーグでは、『これでもか』というくらいボールを拾われる」
豪快な得点力を誇る外国人選手たちも、日本人選手のレシーブ力に面食らうほどだ。
スポーツサイト『Web Sportiva』では、パリ五輪後に、大人気バレー漫画『ハイキュー!!』とSVリーグのコラボ連載をスタート。
作品が好きなSVリーガーたちにインタビューしているが、その中で人気を集めるキャラクターは、「反復・継続・丁寧」を信条とする北 信介(稲荷崎高校)や、「平凡」を自認しながら上を向き奮闘する田中龍之介(烏野高校)といった決して華やかではない選手たちだ。
同じように、地道に鍛錬ができる不屈さが、昔から日本女子バレーの代名詞なのだろう。それが粘り強さにつながっている。その土壌がある上に、勝負を決することができる選手がひとり、ふたりと出てきたら......一気に新しい時代が訪れるはずだ。
新ヒロイン候補も育っている。その中のひとり、ヴィクトリーナ姫路に入団が決まっている秋本美空は、かつて代表で活躍した大友愛の娘で、春高バレーでは共栄学園(東京)を優勝に導いている。
オールスターを終え、SVリーグは後半戦の火ぶたが切られる。拮抗した試合が続くだろう。体力的にもハードだ。
「SVリーグ後半戦、ひとつ負けると苦しい展開になると思います。そこで『しっかり取り切る』というのを徹底して、いつの間にか初代王者になっていた、となれるように。過程を意識してやっていきたいです」(荒木)
そんな彼女たちが人生を懸けてコートに立つ姿は、とてもまぶしい。歓喜と無念のコントラスト。それは人生の縮図であり、共感を呼ぶはずだ。
取材・文/小宮良之 写真/産経新聞社
記事提供元:週プレNEWS
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