おぎぬまXのキン肉マンレビュー【コミックス第41巻編】~敗者の美しさと頼もしき味方の参戦~
『週プレ』復活シリーズ、JC41巻をおぎぬまXがレビュー!!
さあ、この巻から待ちに待ったアイドル超人軍が完全復活! しかし敵陣側にも相手にとって不足はない強力な増援が多数現れて...新形式の団体戦の火蓋がいよいよ切られます!!
●キン肉マン41巻レビュー投稿者名 おぎぬまX
★★★★★ 星5つ中の5●大惨敗の魔雲天に見る敗者なりのカッコよさ完璧・無量大数軍(パーフェクト・ラージナンバーズ)との団体戦第一ラウンドもいよいよ残り1試合。前巻ラストで凄みを見せたストロング・ザ・武道(ブドー)と悪魔超人ザ・魔雲天(マウンテン)の闘いの続きから始まるこの巻ですが、やはり際立つのは武道の異様なほどの強さです。
すでに闘いを見てきた他の完璧・無量大数軍たちとの格差はおろか、これまでの『キン肉マン』史に名を残してきたボスキャラたちと比べても一切ヒケを取らないその貫録の秘訣はズバリ、圧倒的なフィジカルの強さに尽きるでしょう!
たとえば、かつての悪魔将軍のように実体がなく痛みを感じないとか、フェニックスのように超人強度1億パワーを持つ神が憑依しているとか、そういう設定上のトリッキーなギミックはこの武道にはほぼ見られません。あるのはただパンチが強い、キックが強い、腕力が強い、シンプルこの上ない力強さのみ。これは何より怖いですよ!
どんなに実力差のある相手でも、何かの歯車が狂えば勝てるチャンスが出てくるんじゃないか。今までの『キン肉マン』なら常にその光明は用意されていたはずです。しかし、それがまるで見えてこず、絶望的な防戦が延々続くのみという凄惨さ。その展開の異常さには長年のファンであればあるほど、驚きを感じられたのではないでしょうか。
序盤から、もはや魔雲天の敗北は確定的。目を覆いたくなるほどの負けっぷりですが、この試合でも〝新章『キン肉マン』〟ならではの魅力が描かれます。それは負け方のカッコよさ。敗者には敗者なりの、いや、ある意味では勝者以上の見せ場がこの試合にはあるのです。
試合中の回想シーンでも明かされますが、そもそも魔雲天は勝つつもりでリングに上がってないんですよね。結果的に試合中に死ぬんじゃなくて、死ぬのがわかっていてあえてこの闘いに挑んでる。『キン肉マン』は、試合中に命を落とす超人がたくさんいるため、読者も油断していると生死感が麻痺してくるのですが、これはまるっきり覚悟が違いますよ。
試合の過酷さは仲間のバッファローマンも目を逸らしそうになるほどでしたが、それでも「目を背けるな」と魔雲天はバッファローマンを叱ります。やられていくオレの姿を一秒たりとも見逃すな、と。なんという男ぶりでしょう!
最後まで悪魔としての矜持を見せた魔雲天は、武道の必殺技(フェイバリット)「兜(かぶと)砕き」によって顔面が粉々になり、試合終了。
とはいえ、魔雲天は自らに課せられた役目を十二分に果たしたので、これは名誉の大惨敗です。武道もまた、敗者に対して口汚く罵(ののし)るようなことはせず、魔雲天の胸の上で静かに手を組ませてやるのが渋すぎます。
こうして、VS完璧・無量大数軍の第一ラウンドは幕を閉じましたが、改めてステカセキングVSターボメンから始まった「悪魔超人VS完璧超人」の団体戦。キン肉マンの復帰戦も含めて、全試合文句なしの名勝負でした...!! それでいて、この団体戦がこれからも続く長い闘いのプロローグに過ぎないとは、魂の汗を拭うヒマすらありません...!!
●ネメシスにだけは絶対当たりませんように!?そんな魔雲天の頑張りもあり、問題のストロング・ザ・武道はここでいったん退場。これでようやく物語の流れも落ち着くかと思いきやその直後、息つく暇もなく現れたのが完璧・無量大数軍の第二陣でした。先ほどまでの闘いで勝ち残ったターボメン、クラッシュマンを含む7名の完璧超人が、さらなる闘いの継続を要求してきたのです!
そのうちひとりはなんと、確実にキン肉族の関係者だろうという予想外にもほどがある容姿をしています。武道は結局、何者だったんだという最大の謎も明かされぬまま容赦なく降りかかってきたさらなる謎に、キン肉マンをはじめ一同は面食らいます。
他の追加キャラも軒並み強そうで、この先どれだけ強い敵を倒していかねばならぬのか、どこまで深い話になっていくのか、あらためてこのシリーズの壮大さを感じずにはいられません。
そして、僕が声を大にして叫びたいお気に入りエピソードは、この巻で収録された第32話「正義超人軍壊滅!!の巻」です。ネメシスによるマッスル・スパークによって処刑されかけたピークア・ブーを、キン肉マンが庇(かば)ったところからはじまり、その他の完璧超人たちも自己紹介を兼ねて、試合前にもかかわらず満身創痍のジェロニモ、キン肉マン、テリーマン相手に次々と新技、大技を繰り出しボコボコに痛めつけていきます。
そこにインパクト絶大のタッグ技"スプリングバズーカ"で割って入る悪魔超人バッファローマン&スプリングマン。横槍を受けて完璧超人軍VS悪魔超人軍が再び勃発しそうな絶妙なタイミング......まさにドンピシャです!
絶体絶命のピンチの中、待ちに待ち焦がれた正義超人軍の増援組、ロビンマスク、ラーメンマン、ブロッケンJr.、ウォーズマンまでもが会場に姿を見せてようやく次週へ続く!......という異次元レベルの詰まり具合。こんなに大勢の超人が、あれほどの多くの技が、わずか20ページの中で一体どれほど描かれたことでありましょうか......!!
『週刊少年ジャンプ』時代で、僕が何度か叫んだ「オーパーツ的な構成力」を彷彿させる、いや凌駕するほどの奇跡のような一話です。『キン肉マン』史上に残るベストエピソードのひとつと言っても過言ではないと僕は真剣に思います!!
そうして役者がそろったところで、次の対戦場所は鳥取砂丘に突如現れた古代決戦場、その名も"階段ピラミッドリング"であることが完璧超人側から発表されました。
巨大な階段状の建造物、その7つのステップにひとつずつリングが設置され、全7試合が同時に見られる仕組みです。闘いは各ステップで待ち構える完璧超人第二陣7名に対し、人数の足りない正義と悪魔が一時的に共闘する連合軍を結成して挑む形となりました。
注目したいのは、この両軍の関係性があくまで融和ではなく共闘であるという点です。これまで多々あったように悪魔が正義に鞍替えして同じ志のもとに闘うというような形ではなく、お互いの主義主張には一線を引いた上で手を組む。超人同士のこういうドライな関係性の描き方はかつてあまりなく、非常に新鮮で面白く感じられます。
そして、いよいよ突撃開始。大注目の対戦カードが続々と決まっていくこの瞬間は、やはりいつでもドキドキしますよね。大好きな超人にはできることなら勝ってほしい。しかし、ゆでたまご先生が全勝などという甘い展開を用意してくれるとは到底思えません。
そうなるとせめて、「推しの超人には勝てそうな相手と闘ってほしい」と願うのが、ファンの心理ではないでしょうか。だとすれば、ネメシスに当たるのはだけは避けなくてはなりません。あまりメタ的に考えながら漫画を読みたくはありませんが、先に見せたマッスル・スパークといい、こんな思わせぶりな容姿をした新キャラが初戦で負けるはずがまずありません。では、果たして誰がその貧乏くじを引くことになるのか?
バッファローマンVSターボメン、ブロッケンJr.VSクラッシュマン、ラーメンマンVSマーベラスなど魅惑の対戦カードが他に続々と決まっていく中、ネメシスにぶち当たったのは......なんと僕の大好きなロビンマスクでした!! いやいや、ちょっと待ってくださいよ!! 24年ぶりに復活した新シリーズで、正義超人軍リーダーのロビンがいきなり負けるなんてこと絶対にないですよね!?
ならば一体この先、どんな展開が待ち受けているのか!?
『キン肉マン』における対戦カード発表は、ファンにとってもっとも心臓がヒヤヒヤするイベントかもしれません。
相変わらずゆでたまご先生の掌の上で踊らされながらも、まずブロッケンJr.の闘いから始まる次巻へと続きます!
●こんな見どころにも注目!
今回、注目したいのはこの武道の背中です。何もせずともこの僧帽筋と広背筋を見ただけで彼のとんでもない強さが伝わってきますが、僕はこれぞ『キン肉マン』という作品の重要な特色のひとつだと感じていまして、とにかく超人ごとの体型が非常にしっかりとした説得力を持って描き分けられているんですよね。
昨今のバトル作品界隈は異能力バトルが主流になってきていて、キャラの差別化も特殊能力の描き分けに重点が置かれがちですが、ここまでキャラクターの筋肉を描き分けている作品は稀有だと思うのです。さすが、筋肉という言葉をタイトルに冠しているのは伊達じゃないと、毎度感服させられる次第です!
●おぎぬまX(OGINUMA X)
1988年生まれ、東京都町田市出身。漫画家、小説家。2019年第91回赤塚賞にて同賞29年ぶりとなる最高賞「入選」を獲得。21年『ジャンプSQ.』2月号より『謎尾解美の爆裂推理!!』を連載。小説家としての顔も持ち、『地下芸人』(集英社)が好評発売中。『キン肉マン』に関しては超人募集への応募超人が採用(JC67巻収録第263話)された経験も持つ筋金入りのファン。原作者として参加している『笑うネメシス―貴方だけの復讐―』が『漫画アクション』(双葉社)にて連載中。ミステリ小説シリーズ『キン肉マン 四次元殺法殺人事件』、『キン肉マン 悪魔超人熱海旅行殺人事件』が好評発売中
漫画/おぎぬまX 構成/山下貴弘 ©ゆでたまご/集英社
記事提供元:週プレNEWS
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