マンション価格は高騰中! でも、賃料相場は"バブル化"しない本当の理由
タワーマンションが林立する武蔵小杉
最近、メディアからの取材で「マンションの賃料は上がっているのですか?」とか「家賃が値上がりして住めなくなったので引っ越した人が大勢いるようですが、どうなっているのでしょう?」という類のものが多くなった。あるいは、「大家さんから出て行ってくれと言われて、追い出されてしまいました」というケースも多発しているとか。
正直言って「はあ‥なにそれ?」の世界である。
確かに、東京や大阪の都心エリアではマンションの賃料は値上がり傾向にある。ただし、巷に出回る「賃料が上昇中」という情報の大半は、ネット上で収集できる「募集賃料」のデータを拾ったものである。実際のその額で契約されたかどうかは分からない。マンションの賃料にも「価格交渉」はあるし、値引きも普通に行われている。
アベノミクス以来、マンション価格が上昇したのは事実だ。東京都心ではここ10年ちょっとで「2~3倍は当たり前」状態。それに伴って、マンションの賃料も上がってはいるが「2~3倍」ということはない。
都内では人口増加を遥かに凌ぐスピードでマンション建設が進められている
そもそも、住宅の賃料はバブル化しにくい。その理由は、住宅の賃料はかなり成熟した需給市場を形成しているからだ。需要と供給の関係で価格が決まる健全な状態を保っている。
マンション価格は前日銀総裁の黒田東彦氏が約10年に渡って続けた「異次元金融緩和」によって、局地的に高騰した。東京都心では前述のとおり、「2~3倍当たり前」状態。しかし、これは「住む」という健全な需要が膨らんでそうなったわけではない。
高くなっても都心のマンションが売れ続けたのは「値上がり狙い」や「相続税対策」、「外国人による購入」「セカンドハウス」といった普通に「住む」ためではない需要が押し寄せた結果である。だから、都心や一部湾岸エリアのタワーマンションには、夜になっても明かりがついている住戸が極端に少ない。大半の住戸に人が住んでいないからだ。
■実需に基づく賃貸住宅市場しかし、人が「住む」ためにマンションを借りる場合、「とりあえず借りておく」という需要はあるかもしれないが、かなり少ない。つまり賃貸の需要のそのほとんどは、実際に「住む」ためのものだ。
そして世の中には「家賃は収入の3割まで」的な指標が存在する。何割までが健全なのかはここでは議論しないが、多くの人が住まいを借りる時には各々「予算」を設定し、その範囲内で物件を探すのは間違いない。
だから、マンションの賃料も自然に借りたい人の予算内に設定される傾向が強い。「このエリアなら平米単価は3千円」といった具合の目安指標は厳然として存在する。
人々の収入が増えれば、その目安指標は上昇するだろう。しかし、日本人の収入はこの30年でほとんど増えていない。それどころか、消費増税や社会保険費の高騰、インフレ等で可処分所得は減少している。
そんな中で、家賃のみが上がるというには無理がある。これが、物件価格がバブル化しても賃料相場が急騰しない理由である。
■賃料値上げをはばむ借地借家法ただ、インフレや増税は、住宅を貸すオーナー側にも平等に降りかかっている。つまり、賃貸経営のコスト増だ。だから、オーナー側は基本的に家賃を値上げしたいはず。だから、賃借人(借りている人)に対して「値上げします」という通告を出すオーナーも少なくないだろう。
折しも、賃貸契約更新が集中する時期は例年3月であることを考えると、年末年始にオーナー側から「次回からは○○円値上げ」といった通知が来たという賃借人もいるのではないだろうか。
そんな通知を受け取った人が「うちの家賃が値上げされる」と狼狽して、SNSにそれを書き込む。それを読んだメディアが「マンションの家賃が値上げラッシュ?」と受け取って、私にコメントを求めてくる、という構図だろう。
しかし、家賃はカンタンに値上げできない。日本には借地借家法というオーナー側にとっては鬼のように怖い法律があって、家賃の値上げも借家人の追い出しも、基本的には不可能な仕組みになっている。
カンタンに言えば、家賃の値上げや退去と言った賃貸契約の内容変更は、オーナーと借り手、双方の同意が必要なのだ。つまり、借り手の同意なしには値上げも退去もできない。
だから「値上げします」とか「出て行って」とオーナーに迫られても「嫌です」と意思表示すればいいだけ。これが日本の借地借家法の基本だ。物件オーナーにとっては天敵みたいな法律なのだ。賃貸物件の入居者は、ぜひ覚えておいてほしい。
文/榊淳司 写真/photo-ac.com
記事提供元:週プレNEWS
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