コマ撮り映画作りに励む女性が心を壊していく心理ホラー 『ストップモーション』
飯塚克味のホラー道 第108回『ストップモーション』
皆さんはストップモーション・アニメと聞いて、どんなタイトルを思い浮かべるだろう?近年ではフィル・ティペットの『マッドゴッド』(2021)や、チリの『オオカミの家』(2018)が話題となり、日本でも個人が製作した『JUNK HEAD』(2017)が大ヒット。自分のような昭和世代だと、クラシックの『キング・コング』(1933)や、それに影響を受けたレイ・ハリーハウゼンのダイナメーション作品などが脳裏に焼き付いているはずだ。現実には目にできない奇妙な創造物と、それらがカクカク動く映画ならではの魅力に誰もが引き寄せられてしまう。本作は、そうした要素を盛り込みつつ、作り手たちの苦悩も掘り下げたシュールホラーとなっている。
ストップモーション・アニメ界では知らぬ人がいない伝説的存在の母を持つ女性エラは、母が最期の作品と意気込んでいる新作を、手が動かなくなった母に変わって、人形を動かし撮影していた。連日、頑張っても待っているのは母のダメ出しばかり。同じ業界の友人は、どんどん新作を完成させ、取り残されていると感じるエラだったが、ある日、とうとう母親が入院し、独りで部屋を借りて作品作りを継続しようとする。そこで出会った少女の話にインスピレーションを感じ、作品作りに打ち込む。
本作を手がけたのは、実写とストップモーション・アニメを融合させる作風で注目を集めてきたロバート・モーガン。本作が初長編となる。主演は『ナイチンゲール』(2018)で、家族の復讐を果たそうとする主人公を演じ、最近では『スピーク・ノー・イーブル 異常な家族』(2024)にも出演していたアシュリン・フランチオージ。本作では有名な親のプレッシャーを感じつつ、自分の世界に没入していく難しい役をこなしている。
この映画が魅力的なのは、コマ撮りという非常に時間のかかる作業を行うクリエイターがいかに孤独かということを突き詰めて描いているからだろう。やってもやっても区切りが付かず、永遠に思える作業。目の前の人形を数ミリ単位で動かしてはシャッターを切り、また数ミリ動かす。1秒24コマの映画で、1日にどれほど仕事が進むのか?そしてそんなに苦労して作った映像が、誰にも評価されなかったり、見てもらうこともかなわなかったら。主人公エラが自身の殻に閉じこもり、精神を崩壊させていくのも納得がいくことだ。
そして、監督の真骨頂とも言うべきストップモーション・アニメのシーンはどれもオリジナリティにあふれ、その不気味なデザインがホラー好きには響きまくる。タイプとしてはアラン・パーカー監督の『ピンク・フロイド/ザ・ウォール』(1982)がそれに近いだろうか?母親が手掛けてきた一つ目人間のパートもいいのだが、母親が入院後、エラが個性を発揮した人形は、どれも一度見たら忘れることはできない。
映画の仕事に従事した女性が、精神を壊すという展開は、昨年公開された『映画検閲』(2021)につながる一面もあるだろう。悪魔的な誘惑を放ち、そこに入り込んだ人間を脱出させない、底なし沼のような存在。映画の魅力とはかくも恐ろしいものなのだ。
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飯塚克味(いいづかかつみ)
番組ディレクター・映画&DVDライター
1985年、大学1年生の時に出会った東京国際ファンタスティック映画祭に感化され、2回目からは記録ビデオスタッフとして映画祭に参加。その後、ドキュメンタリー制作会社勤務などを経て、WOWOWの『最新映画情報 週刊Hollywood Express』の演出を担当した。またホームシアター愛好家でもあり、映画ソフトの紹介記事も多数執筆。『週刊SPA!』ではDVDの特典紹介を担当していた。現在は『DVD&動画配信でーた』に毎月執筆中。TBSラジオの『アフター6ジャンクション』にも不定期で出演し、お勧めの映像ソフトの紹介をしている。
【作品情報】
『ストップモーション』
2025年1月17日(金)新宿シネマカリテ他全国公開
配給:スターキャット
© Bluelight Stopmotion Limited / The British Film Institute 2023
記事提供元:映画スクエア
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