地域で導入進む「日本版ライドシェア」 タクシー不足を補完、三重県で実証事業
一般ドライバーが自家用車で客を運ぶ「日本版ライドシェア」が2024年4月に解禁された。コロナ禍でタクシー需要の激減により、運転手の離職が相次いだ一方、コロナ後に需要が回復し、インバウンド(訪日客)も増えるなど観光地を中心にタクシー不足が深刻になっている。
ライドシェアには、過疎地で公共交通に代わる「足」となる市区町村主体の「公共(自治体)ライドシェア」や、タクシー会社が一般ドライバーと契約しタクシー不足を補う「日本版ライドシェア」があり、各地で運用が始まっている。4月以降、東京、神奈川、京都といった都市圏で日本版ライドシェアが始まる中、夜間の観光客需要に応える実証事業を始めた三重県志摩市と伊勢市を取材した。
▽配車依頼の9%が活用
三重県志摩市では、2024年7月22日から9月16日までの56日間、午後6時~深夜0時限定で日本版ライドシェアの実証事業を実施した。志摩市は風光明媚(めいび)な伊勢志摩国立公園に主要国首脳会議(サミット)が開かれた賢島(かしこじま)があるなど観光地として知られる。特に観光客を受け入れる宿泊事業者からは「コロナ禍を経て、タクシー配車台数が減少し、早朝や夜間の観光客の移動に際して支障が出ている」といった声が寄せられていたという。
志摩市総合政策課によると、実証事業は応募があった20代~60代の一般ドライバー9人が地元のタクシー会社と雇用契約した上で、シフトを組んで3台の自家用車や、使用していないタクシーで運行。期間中に配車依頼があった1703件のうち、154件(約9.0%)が日本版ライドシェアで対応したという。
▽午後11時台が最多
利用はタクシーアプリ「GO」で配車を依頼し、乗車場所と降車場所を登録。事前に料金が分かり(ほぼタクシーと同等)、降車時に料金を確認し決済する仕組みだ。ドライバーからは「利用は観光客がほとんどだった」との声があったことから、市は「日頃から都市部などでタクシーアプリを使い慣れている観光客が、日本版ライドシェアを利用したのでは」と分析。時間帯別ではタクシーの台数が減る午後11時台の利用割合が最も多かったとしている。市の担当者は「これまでは感覚的にタクシー不足を推察してきたが、実証事業でデータとして把握できた。観光客の夜間移動需要も一定程度あることが確認できた」と話す。今後はさらに結果を検証した上で、夏以外の時期で実施するかなどを検討するという。
▽伊勢市でも開始
志摩市の実証事業を受け、三重県の一見勝之(いちみ・かつゆき)知事は9月の記者会見で「志摩市の分析・検証はこれからだが、利用者が多かったようなので良かったのではないか。伊勢市でもやりたいという声が来ている」と評価した。
伊勢神宮があり観光客が絶えない伊勢市では、12月5日から実証事業が始まった。2025年3月1日までの木曜(最大3台)、金曜(最大6台)、土曜(最大8台)の運行で、いずれも午後8時から深夜O時。年末年始の「伊勢参り」向けに大みそかと元日にも特別運行した。
ライドシェアドライバーの男性(52)は、取材に訪れた12月12日が3日目の勤務。「交通関係の仕事をしており、タクシー運転手不足を知っていたので、少しでも地域のためになればと思い応募した」と理由を話した。
伊勢市では市内のタクシー会社3社が実証事業に参加しており、男性は繁華街にある営業所で待機し、マイカーではなく空いているタクシー車両に乗り、2回の勤務で7件の利用があった。「営業所が飲み屋街にあるので、観光客のホテルへの送迎のほか、飲んで帰宅する地元の人もいた」という。
▽雨天や猛暑時にも拡大
国土交通省によると、日本版ライドシェアの運行開始済み地域は33都道府県の59地域(24年12月11日時点)にまで広がり、登録ドライバーは5985人(同12月22日時点)いるという。
ただ、ライドシェアはまだ多くの地域で電話での配車手配ができず、タクシーアプリの利用が必要なことから、アプリに不慣れな高齢者対応など課題を抱える。国土交通省ではこのほか、日本版ライドシェアを広げるため、雨天や猛暑、コンサートなどイベント開催時といったタクシー需要が急増する時期の対応策に乗り出している。また、タクシー会社の経営を圧迫しないように地域自治体や観光業界、タクシー事業者との調整も必要になる。
日本版ライドシェアは始まったばかりだ。まずはタクシーアプリの活用を増やし、さまざまなデータを集めることで、普及の行方が見えてくるのではないか。
記事提供元:オーヴォ(OvO)
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