ひろゆき、中野信子と脳を科学する⑪ ルールの抜け穴を利用するのは「ズルい」ことか、「賢い」ことか?【この件について】
「日本はテイカーになろうとする人が少ない。だから、国際的な舞台で搾取されがちです」と語る中野信子
ひろゆきがゲストとディープ討論する『週刊プレイボーイ』の連載「この件について」。脳科学者の中野信子さんをゲストに迎えた11回目です。
あなたはルールの抜け穴を利用するのをズルいと思いますか? それとも賢いと思いますか? 多くの日本人は「ズルい」と思うそうです。でも、それだと搾取される人間になってしまいます。
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ひろゆき(以下、ひろ) 「テイカー(常に自分が得することを重視し、他者から利益を引き出そうとする人)」と「ギバー(テイカーとは反対に与えることを重視する人)」ってあるじゃないですか。世の中はテイカーのほうが圧倒的に得しますよね。与えることが美徳とされる日本では、表立って言う人はあまりいませんけど(笑)。
中野信子(以下、中野) そのとおりですね。ただし、テイカーには社会的コミュニティから排除されたり、信頼を失う危険性もあります。だから、テイカーであることがバレないような「見せ方」を極めると最強です(笑)。
ひろ 昔、ライブドアがニッポン放送を買収するという騒動があったじゃないですか。あのとき「ホワイトナイト」として登場した社長さんがいたんですよ。世間的には「金の亡者からフジテレビを助けるためにお金を出した正義の味方」のような見られ方をしました。でも、実際は株を買って莫大な利益を得ていたわけで、あれは明らかにテイカーです。あの見せ方は上手でした。
中野 企業の広報戦略担当者などは、企業をギバーに見せる演出を戦略的にやったほうがいいですよね。そうすると世間の評判が上がっていきますから。
ひろ 倒産寸前の会社の支援も、ハゲタカファンドと呼ばれるか、ボランティア的な印象を与えるかでだいぶ違います。でも、やっていることは大差なかったりします。そうしたギバーに見せるスキルやノウハウは、今後もっと重宝されるでしょうね。
中野 日本人はもっと真剣に考えたほうがいいですね。それが巧みなのがフランス人です。自分をよく見せる技術が超うまい。実際にはけっこうエグいことをやっていても「自分は紳士で社会正義を体現している」「私は時間を割いてあなたのために尽くしている」とナチュラルに言えます。そうした印象操作が得意なんです。
ひろ テイカー比率は日本よりフランスのほうが圧倒的に高い気がします。で、テイカー同士が競い合う中でテイカーとしての経験値が上がり、より洗練されていくんでしょうね。でも日本はテイカーが少ないから、ちょっとテイカー的な行動をすればすぐ利益を得られる。だからわざわざテイカースキルを磨く必要がないんですよ。
中野 それに日本ではテイカーと思われてしまうとリスクが高いから、そもそもなろうとする人が少ないんです。だから国際的な舞台に出ると搾取されがちになる。
ひろ 実際、GAFAM(グーグル、アップル、現メタのフェイスブック、アマゾン、マイクロソフト)に代表されるように、プラットフォームのサービスを押さえているのはアメリカ企業ですよね。それは「見せ方」や「ルールを自分側に有利にする戦略」があるからだと思います。
中野 本当は日本にもiPhone的なコンセプトの萌芽は、ずいぶん前からあったじゃないですか。
ひろ タッチパネルのPHSとかありましたからね。
中野 それを「これはすごいんです!」と世界に売り込む見せ方をしなかった。
ひろ ヨーロッパの自動車メーカーも、日本車に太刀打ちできないとわかったらEUの輸入車規制ルールを変えようって発想になるじゃないですか。
中野 柔道や水泳だって、日本の独壇場になるとルールを変えられてしまいましたよね。
ひろ ソウル五輪で金メダルを獲得した鈴木大地選手の独特の潜水スタートもルール改正で制限されたんですよね。
中野 日本人はルールを自分に有利に変えることをズルいことだと感じてしまいます。環境問題だって、日本の二酸化炭素の排出割合はアメリカや中国と比べてかなり少ないのになぜか標的にされることが多い。それは文句を言っても反撃してこないからです。
ひろ 「いい人で一生懸命やっていても、結局テイカーに搾取されて終わるよ」ということを教育で教えていないですもんね。
中野 でも、グローバルな視点で見たら、そのせいで日本は稼げる人材を増やせず、結果的に弱い立場になってしまっています。私はもうちょっと物言う人を育てて、世界で稼げるほうが将来的にはいいと思います。
ひろ 「ルールの抜け穴を利用することは合法で賢い」と考えるか「悪い」と考えるか。日本では9割くらいの人が「抜け穴を使うのは卑怯だ」と思うでしょうね。
中野 もっと多いですよ。遺伝的には97%くらいが「ズルい、卑怯だ」と攻撃したい側です。
ひろ というのは?
中野 セロトニンは安心感を与える神経伝達物質ですが、そのリサイクルポンプ機能を持つセロトニントランスポーターの密度によって、心理的な反応が変わってくるんです。この密度が低いと自分が不当に扱われたと感じたときに、自分の利益がゼロになったとしても相手にダメージを与えたいと思うんです。
ひろ つまり「死なばもろとも」精神になりやすいと。
中野 ええ。自分の名前がバレるリスクがあっても誹謗中傷が起こりやすい国なんです。
ひろ かつての日本の仇討ち文化もその遺伝子が背景にあるんですかね。例えば「忠臣蔵」として有名な赤穂浪士による仇討ち事件も日本では美談として語られていますよね。
中野 遺伝子的要因で「復讐が潔い行為」と受け止められる素地があるからでしょうね。忠臣蔵をほかの国の人に話したら全然理解されないと思います。
ひろ ちなみに、ほかの国だとどれくらいの割合になるんですか?
中野 アメリカはズルいと攻撃をする人は7割を切るくらいです。
ひろ つまり、残りの3割くらいは「抜け穴を使うのも戦略のうち」と認める人がいるということですよね。日本だと3%だけどアメリカはその10倍以上もいる。そりゃ勝てないわけだ(笑)。
中野 閉鎖的な日本社会の中で生きるなら、共感性を重視し、排除されず、そこそこの幸せで我慢するのが合理的です。
ひろ でも、世界は「どうルールを作るか」「作られたルールをどうハックして自分のポジションを良くするか」で競い合っているわけですから、そういう人材を育てないと日本は搾取されていく一方になってしまいますね。
中野 本来は、小学生くらいから「自分を魅力的に見せる技術」や「ルールの抜け穴をどう利用するか」を教えていれば、世界で戦える人材が増えるはずなんです。極論、それさえ身につければ才能がなくても生きていけるかもしれません。なのに、そうした教育をしない。その価値観が日本にはないんですよ。
ひろ 政治家たちにとってはそれを教えないほうが国は安定する。
中野 ですから個人としてできることは「教育に頼らず、自分で学んでテイカー的戦略やルールハックを身につける」ことでしょうね。
ひろ それにこうして「テイカーが得をする」なんて話を公言しても、結局多くの人は「そんな汚いやり方は嫌だ」と言って何もしないんですよね(笑)。
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■西村博之(Hiroyuki NISHIMURA)
元『2ちゃんねる』管理人。近著に『生か、死か、お金か』(共著、集英社インターナショナル)など
■中野信子(Nobuko NAKANO)
1975年生まれ。東京都出身。脳科学者、医学博士、認知科学者。東京大学大学院博士課程修了。フランス国立研究所ニューロスピンに勤務後、帰国。主な著書に『人は、なぜ他人を許せないのか』(アスコム)など
構成/加藤純平(ミドルマン) 撮影/村上庄吾
記事提供元:週プレNEWS
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