株式優待よりお得な特典も!? 「企業銀行サービス」の大盤振る舞いに口座開設が殺到中
日銀はマイナス金利政策を解除したが、メガバンクの普通預金の利率は0.10%。10万円を1年預けたとしても利息は100円で、時間外の引き出し1回分の手数料にもならない
企業が相次いでネットバンクと手を組んで銀行業に乗り出し、独自の特典でサラリーマンの心を掴んでいる。今年最も注目されたのが、5月にサービスを開始したJR東日本による『JRE BANK』だ。「新幹線4割引券」が話題となり、口座開設が殺到した。
一方、ヤマダデンキの『ヤマダNEOBANK』は、積立金額の10%がポイント還元されるという〝実質年利18%″の衝撃で、投資家を中心に申し込みが殺到。急遽、この特典実施が中止となる事態となった。「メガバンクより特典付きの企業銀行サービス」と口座開設するサラリーマンも相次いでおり、令和の金融ビックバンの発火点になるかもしれない。
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■預貯金の"実質無利子"に革命!?JR東日本が今年のGW後からスタートしたにネット銀行サービス『JRE BANK』は、その充実した特典がJRユーザーやサラリーマン投資家の間で大きな話題となり、サービス開始当初は口座の申し込みが殺到し、一時受付を制限する事態となった。
ただ、JR東日本は銀行免許を持たず、『JRE BANK』というブランドで銀行サービスを提供しているというかたちだ。『JRE BANK』は楽天銀行に所属し、顧客口座も楽天銀行の『JREはやぶさ支店』『JREとき支店』『JRE はやぶさ支店』の3つのいずれかとなる。
日本航空(JAL)や高島屋など異業種の企業が大手のネットバンクと組み、その企業ならではの特典などを用意して銀行サービス業に進出するケースは近年珍しくないが、『JRE BANK』が大きな話題となったのは、何といってもその魅力的な特典ラインナップである。Xでは「株主優待を超えたな」「今の銀行は実質無理子だから乗り換えよう」といったポストが次々に上がり、JRユーザーやサラリーマン投資家の心をわしづかみにした。
JR東日本の主要駅に設置されているATMで引き出し可能な『JRE BANK』
『JRE BANK』の特典で最も目を引いたのが、「新幹線の料金4割引」だ。資産残高50万円以上や傘下にあるクレジットカードの利用など、満たしている条件によってJR東日本管内の片道運賃と片道料金が4割引になる券が年2枚以上もらえる。普通列車の無料グリーン券などもある。
都内で会社員として働きながら、今年スタートした新NISAを始めとする資産運用も行っている43歳の金子義徳さん(仮名)は、この特典に吸い寄せられ『JRE BANK』で口座を開設した。
JR東日本は300株以上を保有する株主に似た優待を展開しているものの、現在(2024年12月17日)の株価で300株を買うには80万円以上の資金が必要になる。
金子さんは「NISA枠でJR東の株を買いたいと思っていましたが、80万円以上というのもハードルが高いし、業績によって株価が下がる可能性もある。その点、銀行の資産残高はあくまで自分のお金。JR東の業績が悪くても関係ありません。迷うことなく口座開設を申し込みました。特典で旅行します」と満足そうだ。
■口座開設殺到で中止に追い込まれる事態も特典を盛りすぎて申し込みが殺到し、急遽特典を中止する事態に追い込まれた企業銀行サービスもある。家電量販店の王、ヤマダデンキによる『ヤマダNEOBANK』だ。ネット銀行大手「住信SBIネット銀行」と共同で提供している銀行サービスである。
ヤマダデンキは11月28日から、『ヤマダNEOBANK』の「ヤマダ積立預金 満期特典」キャンペーンとして、通常の積立総額の5%還元に加え、特典としてさらに5%の計10%をポイント還元するキャンペーンを開始。元本保証で、別途金利も付与されるため、Xではサラリーマン投資家を中心に「年利実質18%の衝撃」「年利の破壊力抜群」などと話題が集中した。
ところがその2日後、11月30日には新規の申込受付を一時停止。さらに12月2日、ヤマダデンキは「想定を遥かに上回る申込みと、一部の方からの大量の申込みがあった」として、「ヤマダ積立預金 満期特典」の中止を公表した。既にキャンペーンに申込済みの顧客には、"お詫び代"として1人1口座につき 3000ポイントを付与するとし、「見通しが甘く、期待を裏切る結果となった」と謝罪した。
特典を盛りすぎて中止に追い込まれた『ヤマダNEOBANK』を展開するヤマダデンキ
Xでも期待が大きかった分、「積立する前にキャンペーン終わった」「美味しい話は続かない」「新規口座作って準備していたのに無念」などと落胆のポストが広がる一方で、「なぜ実現できると思ったんだ」「薄々中止の予感はした」といった冷静な意見も目立った。
実は前述の金子さんも、本キャンペーンを知って『ヤマダNEOBANK』の口座開設をしていた。
「JRE BANKに続いて、ついつい特典につられてしまいました。だっていくら預金金利が上がったと言っても、メガバンクや地銀に預けても金利1%以下です。ただお金を預ける時代は終わりましたよ。プラスアルファの魅力が大切なので、今回の中止にめげずに、今後も企業銀行サービスに目をつけていきますよ」(金子さん)
その企業ならではの魅力を全面に押し出した特典でどれだけ顧客の心をつかめるか。企業銀行サービスの広がりが、令和のビックバンの発火点になるかもしれない。
文/山本優希 写真/photo-ac.com 山本優希
記事提供元:週プレNEWS
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