ビヨンセの恐るべき力 【辛酸なめ子 コラムNEWS箸休め】
2024年、世界で突如ブームになった言葉といえば「ビヨンセに感謝」。ビヨンセは、誰もが認める世界的歌手。スキャンダルとは無縁でクリーンなイメージだったのが、最近不穏な噂(うわさ)が語られています。
発端は9月にアメリカのラッパー、音楽プロデューサーのディディ(パフ・ダディ)が性的人身売買や恐喝、性的暴行などの容疑で逮捕された件。風紀が乱れまくったパーティーも開催していました。第二のエプスタイン事件と囁(ささや)かれ、ディディと親しいセレブにも疑いの目が向けられることに。ビヨンセとJay―Z夫妻、キム&カニエ元夫妻、アッシャー、オプラ・ウィンフリーなど。奇遇にも大統領選挙でハリス氏の応援をしていたメンツが多いような・・・。ディディと仲間たちへのアメリカ国民の不信感が選挙に影響していた気がしてなりません。
中でもビヨンセとJay―Z夫妻の闇について、陰謀論界隈で話題になりました。ビヨンセは負けず嫌いぶりが半端なく、邪魔なライバルを消した、という噂まで浮上。そこで、ビヨンセを畏れる人々の間で「ビヨンセに感謝」するブームが起こりました。派生して日本の中高生にも広まり「JC・JK流行語大賞2024ノミネート50語」に「ビヨンセから守る」がランクイン。何か悪いことがあっても、それはビヨンセの怒りをそらすためで「嫌な出来事はビヨンセから自分を守るために起こったこと」と気持ちを切り替える言葉です。海外のミームをいち早く取り入れる感性はさすがです。
改めてさまざまな受賞シーンを見ると、女性歌手は不自然なまでにビヨンセに感謝し、ほめまくっています。もちろんそれだけの才能の持ち主ではありますが・・・。アデル「この賞はビヨンセが取るべきだった」、リゾ「ビヨンセは史上最高のアーティスト」、ブリトニー・スピアーズ「ビヨンセは今まで見た中で最も才能がある人々の一人です」など・・・。ビヨンセ裏番長説を知ってから動画を見ると、皆、女王様の機嫌を損ねないように怯(おび)えているように見えてきます。日本でこのポジションにいる歌手はなかなか思い浮かばないというか、「和田アキ子さんに感謝します」と若い歌手が言い出したらネタだと思われることでしょう。
せっかくなので何かの機会に使ってみたいですが、ブームはあっという間に終わったので、今さら「ビヨンセに感謝」と言っても滑りそうです。このブームの終息にももしかしてビヨンセの闇の権力が働いている? と妄想が尽きません。
【KyodoWeekly(株式会社共同通信社発行)No.52からの転載】
しんさん・なめこ 漫画家、イラストレーター、コラムニスト。1974年東京都生まれ、埼玉県育ち。武蔵野美大短期大学部卒業。著書に「女子校育ち」(筑摩書房)、「スピリチュアル系のトリセツ」(平凡社)、「電車のおじさん」(小学館)、「大人のマナー術」(光文社新書)など多数。7月に「川柳で追体験 江戸時代 女の一生」(三樹書房)を上梓。
記事提供元:オーヴォ(OvO)
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