【M-1グランプリ2024"敗者復活戦"展開大予想②】決勝進出コンビ8組的中!「編集者の阪上」さんのロジック予想
日夜お笑いに関する投稿を発信する「編集者の阪上」さん
漫才頂上決戦「M-1グランプリ2024」決勝がいよいよ12月22日(日)に迫ってきた。決勝の行方も気になるが、週プレNEWSでは今年も最後の1枠を狙う敗者復活戦に注目する。
決勝当日の午後3時から生中継で放送される敗者復活戦は昨年からルールが大幅に変更された。準決勝で敗退した21組をA、B、Cの3ブロックに分け、会場の500人の観客が審査。ブロックを勝ち上がった3組を野田クリスタル(マヂカルラブリー)、斎藤司(トレンディエンジェル)、久保田かずのぶ(とろサーモン)、井口浩之(ウエストランド)、渡辺隆(錦鯉)の5人の芸人審査員が審査し、無記名投票で多かった1組が決勝の舞台に立つという二段構えの審査方式となった。
昨年に引き続き、今年もX上で日夜お笑いに関する投稿を発信する講談社の編集者で、12月19日に発売された『格闘技が紅白に勝った日』(細田昌志著、講談社)のプロモーションも担当する「編集者の阪上」(@hanjouteiooba)さんに予想してもらった。
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ありがたいことに、今年も週プレNEWSさんからM-1敗者復活の展望予測にお声がけをいただきました。例年同様、3回戦からのネタを全部観た甲斐があったというものです。
さて、今年の展望の前にまずは昨年の敗者復活から振り返りましょう。
昨年の敗者復活は、従来の「視聴者投票方式」から一転、「会場審査」+「歴代M-1戦士審査」に方式が変わりました。新たなシステムのもと、3つのブロックから最終的に残ったのは、ヘンダーソン、ナイチンゲールダンス、シシガシラ。そこから決勝へと勝ち抜いたのはシシガシラでした。
昨年の敗者復活戦予想企画で私が「勝ち残るだろう」と予想したのは......トム・ブラウン、スタミナパン、ロングコートダディの3組。かすりもしませんでした。それだけ敗者復活の予測は難しいということです。
それでも、昨年残った3組から「敗者復活のブロックを突破する共通項」を無理やりひねり出すことはできるはずです。
この3組の共通項を考えると...
①パワーで押せるコンビ
②これまで決勝に進んだことのないコンビ
③ネタ順が後半のコンビ(ヘンダーソンはAブロックのトリ、ナイチンゲールダンスはBブロックの6番目)
ということになるでしょう。
まず①の「パワーで押せるコンビ」について。敗者復活の会場となる新宿住友ビル三角広場は、とても広いです。予選のどの会場よりも広いです。モニターも音響もあるとはいえ、この広い会場の隅々まで笑いを届けられるパワーがあるか。これはいまの敗者復活を勝ち上がるうえでとても重要な要素だと思います。
昨年の敗者復活戦で最後まで残った3組をみると、ヘンダーソンのボケ数の多さ(=パワー)、ナイチンゲールダンスのスピード感とテンションの高さ(=パワー)、そしてシシガシラの「ハゲネタ」の破壊力(ナチュラルなパワー)......いずれのコンビも、「会場の隅々にまで届けるパワー」を備えていたことが勝因ではないかと思います。
■昨年起こった敗者復活戦「カメラアングル論争」シシガシラ(吉本興業)
浜中英昌(左)、脇田(右)
ところでシシガシラが敗者復活を勝ち抜いたことについて、昨年のM-1後に「カメラアングル論争」が起こったことを覚えていらっしゃるでしょうか。
シシガシラの浜中さんが脇田さんのハゲをイジった瞬間、舞台の2人を映していたモニターが脇田さんの頭のアップ(浜中さんがハゲ頭を見つめる視点)に切り替わり、その画角の面白さゆえに爆笑が起こった――カメラアングルによって笑いが増幅されたもので、シシガシラに有利に働きすぎたのではないか......? という論争です。
歴代のM-1王者の一人も「さすがにあのアングルはよくなかった(他のコンビがかわいそう)」と声を上げたので、今年からアングル笑いはなくなるでしょう。しかし、アングルだろうがなんだろうが大きな笑いを生んだシシガシラが勝ち抜けたことで、結果的に「敗者復活では、あの広い会場で隅々まで笑いを届けるパワーのあるコンビが強い」ことが示されたと思います。
NON STYLEの石田さんが今年出版した『答え合わせ』(マガジンハウス新書)のなかに、敗者復活についてのこんな一節があります。
<(敗者復活では)「会場のウケ方」も見過ごせません。一番ウケていたというのは、その日、もっとも会場を支配できていたということであり、やっぱり、そういうコンビが強いんです。その点でも、シシガシラが他より上回っていた。(中略)会場のウケ方がダイレクトに結果に影響したといっていいでしょう>
会場全体隅々にまで笑いを響かせる、問答無用のパワーを持ったコンビ。これが、敗者復活を勝ち抜くための大切な要素になるだろうと思います。
続いて②の「これまで決勝に進んだことのないコンビ」ですが、昨年の敗者復活で驚いたことは、トム・ブラウン、ロングコートダディ、オズワルド......といったファイナリスト経験組がひと組も各ブロックを勝ち抜けなかったことです。
従来の敗者復活の「視聴者投票システム」では、良し悪しはともかく人気があるコンビ、知名度があるコンビが上位に来がちで、ゆえに「歴代ファイナリスト」が上位戦線に食い込むことが当たり前でした。
ところが昨年の敗者復活、ファイナリスト経験者は誰も残らなかった......。もちろん面白くなかったわけはありません。しかし、敗者復活にやってくるのは「M-1の当日に、お金を払って敗者復活を見に来るお笑いファン」です。「ファイナル経験者」「人気コンビ」であることは考慮せず、フラットな視点で、本当に面白いコンビに投票しようという気持ちで臨むのだと思います。
いやむしろ、決勝を経験していないコンビを敗者復活から送り出したいという気持ちすらあるのではないでしょうか。それがラストイヤーのコンビ(昨年であればヘンダーソン)ならなおさらだと思います。
最後に③の「ネタ順」について。昨年の敗者復活では、ネタ順が後半であればあるほど、有利であったように思います。このネタ順、「準決勝のウケ量(10位以下の順位)」で決まっていたように推察するのですが、順番発表は当日になるようなので、執筆時点ではわかりません。
そんな「傾向」を浮き彫りにしたうえで土台を整えると......①「パワーのあるコンビで」②「ファイナリスト経験がなく」③「ネタ順があとのほうのコンビ」が、敗者復活の最終3組に残りやすいのではないか。
この3つの要素をもとに予想をすると......まず②のファイナリスト経験者を除いたうえで、①について考えます。
■パワーで押せる要注目コンビ十九人(ASH&Dコーポレーション)
ゆッちゃんw(左)、松永勝忢(右)
「パワーのあるコンビ」でいえば、十九人(Aブロック)は大声、動き、想像もつかない展開という強さがある。同Aブロックの金魚番長にも爆発力があります。
金魚番長(吉本興業)
箕輪智征(左)、古市勇介(右)
金魚番長は観客の期待感を一気に集めて、それを弾けさせて笑わせるような、攻撃力に特化したタイプです。
家族チャーハン(吉本興業)
大石(左)、江頭(右)
ナイチンゲールダンス(吉本興業)
中野なかるてぃん(左)、ヤス(右)
家族チャーハン(Bブロック)はとにかくボケの一つひとつに破壊力がある。爆発力でいえば、舞台を大きく使うナイチンゲールダンス(Bブロック)にもありますし、スタミナパン(Cブロック)の笑いも強力です。
最後の③は当日加味するしかないのですが、①②を考慮すると...Aブロックは十九人か金魚番長(順番次第)、Bブロックはナイチンゲールダンスか金魚番長(順番次第)、Cブロックはスタミナパン!......と、このような予想が成立するのではないでしょうか。
(とはいえ、Aブロックは恐ろしい破壊力を持つうえ、M-1ファンに愛されたコンビ・ダンビラムーチョが抜けるような気もしますが。)
■編集者の阪上さんの本命はドラマチックなスタミナパンスタミナパン(SMA)
麻婆(左)、トシダタカヒデ(右)
<Aブロック>金魚番長
<Bブロック>ナイチンゲールダンス
<Cブロック>スタミナパン
この3組を各ブロックの勝者と予想します。そのうえで、審査員による最終投票でスタミナパンが抜ける!
最後は勘です。去年のM-1アナザーストーリーで、決勝に進めなかったトム・ブラウンの布川さんが、スタミナパンの麻婆さんと一緒に個室居酒屋でM-1を観ていた姿が印象的だったからです。決勝でトム・ブラウンとスタミナパンが並び、パワーに満ち満ちた大会になる。そんな予感がしています。
■若手芸人に起きた変化! 今後は「M-1栄養学」が発達!?さて、敗者復活とは関係のないことですが、今年のM-1予選を観て感じたことをひとつ。これはもう、感覚でそう捉えたとしか言えないんですが、準決勝まで進むコンビの顔色が、年々良くなっている気がするんですね。
ファイナリスト経験者や人気芸人はもちろん、最近ではライブや配信で十分に稼げている芸人が増えていると聞きますが、おそらく懐がそこまで寂しくなくて、しっかり栄養のあるものを摂る若手芸人が増えているんじゃないかと推察します。素晴らしいことです。その余裕と顔色の良さが、お客さんに安心感を与えて、より多くの笑いを生んでいるように感じています。
反対に、少し顔色が心配なコンビが出てくると、ちょっとだけ会場がザワつくような感じがありました。予選を観に来ているお客さんも、「大丈夫かな......ちゃんと食べれてるのかな」と気にかけてしまう面があるんじゃないか。顔の色つやがいいコンビが出てきたときと比べると、明らかに空気が変わる感じがありました。
先に挙げたNONSTYLE石田さんの『答え合わせ』のなかに、サンパチマイクとの距離を論じる「漫才身体論」なる言葉が出てきます。M-1周りのことがなんでも「論」になる時代。もしかすると、今後舞台上でできるだけ顔色を良く見せるために、「M-1前はこういうものを食べたほうがいい」と指南するような「M-1栄養学」が発達するかもしれない。M-1が競技に例えられるようになって久しいですが、フィジカルの面でもスポーツ化が起こるのでは...と感じさせる一年でした。
■世相から読み解くM-1王者! 今年はフィジカルでプリミティブ!?トム・ブラウン(ケイダッシュステージ)
布川ひろき(左)、みちお(右)
バッテリィズ(吉本興業)
エース(左)、寺家(右)
最後に、敗者復活戦後に行われる決勝本選について。今年の9組は事務所比もバランスよく、大阪からも2組選ばれていて、令和ロマンの連覇やヤーレンズの逆襲というドラマを下敷きに、真空ジェシカの「4度目の正直」、ラストイヤーのトム・ブラウンとダイタクがどんな結果を残せるか、NHKお笑い新人大賞を獲ったエバースが勢いのままに駆け上るか、そのエバースに敗れ準優勝に終わったジョックロックが雪辱を果たすか......というドラマだらけなので、例年以上の熱戦が繰り広げられることは間違いないでしょう。
その中で誰が優勝するかを予想するのは野暮の極みですが、ひとつ「世相」からM-1の流れを読み解いてみたいと思います。
今年一年、世界情勢は予想外の出来事の連続でした。韓国でクーデターが起こり、シリアではアサド政権が崩壊し、自民党が選挙で敗北する激動の一年。そんななかで、アメリカではトランプ大統領が再選されました。
なぜ再びトランプが大統領に選ばれたのか。東洋経済新報社から出版された『それでもなぜ、アメリカはトランプを支持するのか』は、アメリカのトランプ現象を読む解くために必読の書ですが、この本に書かれた分析を簡潔に言うなら、「少数の知的エリートが政治も経済も支配し、富を独占する構造に、アメリカ国民がノーを突き付けた」ということです。
トランプを支えたMAGA(MAKE AMERICA GREAT AGAIN)運動とは、「何も考えずに笑えた、あのころのアメリカに戻りましょう」ということだと、私は理解しています。そしてこのトランプ現象は、形を変えながらも各地域に浸透していると認識しています。
さて、世界のトレンドは必ず日本社会の隅々にまで影響を与えます。お笑い界にもしかり。いまの漫才には、ボケを理解するために多少の知識や前提理解が必要だったり、あるいはボケた後にすぐに笑いが起こるのではなく、ツッコミが丁寧に解説をした後に笑いが起こるタイプのネタがたくさんあります。いわば、観客の側に一回考えさせて面白さを分かってもらう「理論系」「解説系」とでも言いましょうか。このタイプが増えている。
これに対して、お笑い界にもトランプ現象よろしく「難しいことはいいから、何も考えずに感覚で笑えるネタが見たい!」という、フィジカルでプリミティブな笑いを求める「お笑い回帰現象」が起こっていくんじゃないか、世界情勢を鑑(かんが)みると、今年はその始まりの年になるんじゃないか......そんな予感がしています。
この現象が起こると仮定して、決勝で「何も考えずに感覚で笑える」ネタをやるのはどのコンビか――。ずばり、トム・ブラウンとバッテリィズです。
詳しいネタの内容には触れませんが、いずれも「バカなことをやって」「アホなことを言って」笑いを取るコンビです。丁寧な解説はいりません。見て笑える。感じて笑える。笑いが起こるまでに、考える時間を必要としない。世界の潮流の変化を背景に、今年はこの2組のどちらかが優勝するのではないかと思っています。
記念すべき20回大会。どのコンビが優勝するのか、本当に楽しみです!
【編集者の阪上】
Xでフォロワー2万8000人を超えるお笑いファン。2016年以降、3回戦以降のM-1予選をすべてチェックしている。本職は編集者で、12月19日にはプロモーションを担当する書籍『格闘技が紅白に勝った日 2003年大晦日興行戦争の記録』(細田昌志著、講談社)が発売された。
『M-1グランプリ2024』
ABCテレビ・テレビ朝日系
■敗者復活戦 2024年12月22日(日)15:00~18:30
■決勝戦 2024年12月22日(日)18:30~22:10
https://www.m-1gp.com/
取材・文・撮影/徳重龍徳
記事提供元:週プレNEWS
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